第214話 艦隊の上陸戦
ヴェスヴィオ公に抗うポルコ海賊団に加勢したエンリ王子たち。その根拠の港で対策を整える中、ついに侵攻を開始したヴェスヴィオ公の艦隊。
ポルコたちが巨大艦を沈めた頃、数十隻の敵の軍船が、砲撃と魔法攻撃で攻勢をかけていた。
海賊団の船と港の大砲がこれに応戦する。
敵船を襲うファフのドラゴンを、敵の各船に居る魔導士が、数匹のワイバーンを召喚して迎え撃つ。
人魚姫が召喚したウォータードラゴンの頭上に居るエンリが炎の巨人剣を振るい、数匹の敵方のウォータードラゴンに切りつける。
やがて、巨大艦との戦いを終えたカルロの飛行機械が帰還した。
着地したタルタ号の甲板で迎えるアーサーに、カルロは言った。
「ポルコが怪我をしているんだ」
「港に運んで回復させよう」とアーサー。
「他の機体は?」
そう訊ねた若狭に、カルロは「やられて潜水艦が運んで来る。早急に修理が必要ですね」
「とにかくポルコは港へ。ジーナさんが待ってる」とアーサー。
カルロはそのまま飛行機械に乗って港へ飛んだ。
やがて、飛行機械を乗せた潜水艦が浮上し、港へと向かう。
アーサーはポルコの手下の海賊たちと連絡を取り合う。
「あの艦隊、どうしますかね」
ポルコの手下たちは「こうなったら海賊の流儀だ。斬り込んで乗っ取ってやろうよ」
「解りました」
アーサーはウォータードラゴンの上に居るエンリと連絡をとると、味方の船を密集させてアーサーとタマが防御魔法で守りつつ、敵艦隊の中央に突入する。
次々に接舷して乗り込み、船を占拠。
その間に外側に居た敵船が港に向い、上陸を開始した。陸上の反乱奴隷軍団がこれを迎え撃つ。
まもなく海上に残った敵船の制圧は完了した。
タルタ号に戻ったエンリは「陸上はどうなっている?」
「上陸した敵と港で戦ってるが、優勢とは言えませんね」
そう答えたアーサーに、エンリは「俺たちも陸上の戦闘に参加するぞ」
海賊団とエンリたちが港に入ると、港では乱戦になっており、敵の一部は守りを破って市街に突入を初めていた。
そんな状況を見てジロキチは「半分以上は剣闘士じゃない普通の奴隷だった奴らだな」
エンリは「それだけじゃない。個人としては強くても集団戦で戦う事に慣れて無いんだ。訓練を受けた兵団には分が悪い」
「集団戦の出来る奴って居ないのか?」とアーサー。
するとニケが「アーサーのスケルトンが居るでしょ」
「あ・・・・・」
アーサーはスケルトンのファランクス隊を召喚した。集団で長槍を持って敵の部隊に突入するファランクス隊。
その様子を見て、反乱奴隷たちは「あんな風に固まって戦うんだ」
「十人でチームを作るぞ」
そう誰かが呼びかけ、近くに居る味方どうし集まって、小さな隊を組む。隊
敵の鉄砲隊の銃撃に、反乱奴隷の各集団が急ごしらえのバリケードで身を守り向き合う。
そこに海賊たちが側面から切り込んで制圧。
タルタが鋼鉄砲弾で鉄砲陣に飛び込み、崩れた所に斬り込む反乱奴隷隊。
まもなく港の制圧を完了する。
市街に攻め込んだ敵主力を追って、街路に突入する反乱奴隷と海賊隊。
市街の敵に対しては、一般人も武器を持って抵抗していた。
「奴らを追い出すぞ」と反乱奴隷たちは気勢を上げる。
港に居た敵から奪った銃で市街に突入する反乱奴隷兵だが、敵兵の統率のとれた斉射に圧される。
闇雲に撃って、銃弾は見当違いな方向に飛んでいく。
そんな様子を見て、ヴェスヴィオ軍の兵の一人が「やつら素人じゃん」
隣に居る兵も「楽勝だな」
その瞬間、彼は額を撃ち抜かれた。
驚く周囲のヴェスヴィオ兵は、反乱奴隷兵のバリケードの影で短銃を連射しているニケの姿を見た。
背後から駆け付けて戦闘に参加し、敵兵を狙撃したニケを見て、反乱奴隷たちの中に居たスパルティカは驚き顔で言う。
「ニケ、お前、凄いな」
ニケは反乱奴隷たちに言った。
「銃をきちんと持って敵に向けて構えるの。半数で敵の居る方に向けて牽制。敵が怯んだ所を残りの半数で狙って撃つのよ」
まともな銃撃戦が可能となった反乱奴隷兵が攻勢に転じる。
すると背後から駆け付けたジロキチが「お前等、まだるっこしいぞ」と言ってバリケードから飛び出す。
飛び来る銃弾を二本の刀で弾き返し、敵陣の手前で跳躍して両脚で残り二本の刀の刀を掴む。
四本の刀で一気に敵兵を切り伏せるジロキチ。
別の通りでは、敵銃兵のバリケードをタルタが鋼鉄砲弾で吹き飛ばした所を反乱奴隷兵が突入し占拠。
さらに別の通りでは、カルロと、そして妖刀を抜いた若狭が、屋根伝いに敵陣の頭上に忍び寄り、敵陣の真っ只中に飛び降りて切りまくる。
館を占領したヴェスヴィオ公の元に相次いで報告。
「市街各地でこちらの陣地が破られています」
ヴェスヴィオ公は「この周囲は我々の主力が固めている。それより魔獣召喚はまだか」
「もう少しです」と焦り顔の部下。
その時、一人の部下が駆け込んで「公爵様、奴らが来ます」
館前の広場に、スケルトンのファランクス隊を先頭に突入する海賊兵と反乱奴隷兵。
上空にドラゴンが現れ、広場の公爵兵に向けて炎を吐く。
ドラゴンの背中からエンリ、ジロキチ、タルタ、カルロらが飛び降りて公爵軍を攪乱。
そんな様子を見て、ヴェスヴィオ公は叫んだ。
「召喚できる奴だけでも召喚して敵を追い返せ」
ドイツ魔導士たちが魔獣召喚を発動させ、空中に現れた無数の魔法陣から魔物たちが姿を現し、地上に降りる。
オーガにサイクロプス、ミノタウロス、キメラ、ガーゴイル、トロル。
「奴等を殲滅しろ」とヴェスヴィオ公。
港の片隅のアジトでジーナの治癒魔法を受けていたポルコが魔力の変調に気付いた。
「奴ら、モンスターを召喚したな。俺も行かなきゃ。二人乗りの飛行機械があるだろ。あれで俺を運んでくれ」
ジーナは「あなたはまだ怪我が・・・」
ポルコは「こんなの怪我のうちに入らん。俺を誰だと思ってる」
「解ったわ。ちゃんと生き残るのよ」
そう言って治癒魔法を中断すると、ジーナは飛行機械の後部座席で操縦桿を握り、ポルコが前部座席に座る。
「お前の操縦を見るのも久しぶりだな」
そうポルコが言うと、ジーナは「私は空を飛ぶあなたを見るのが好きだった」
飛行機械が館の上空に着いた時、館の前の広場で兵と魔物の乱戦が始っていた。
オーガたちを蹴散らすドラゴン、サイクロプスに巨人剣を振るうエンリ、ミノタウロスに向けて固まって槍を向ける反乱奴隷兵、キメラを取り囲む海賊たち。
館のバルコニーで軍を指揮するヴェスヴィオ公に向けて、ホバリングする飛行機械からポルコが叫んだ。
「もう終わりだ、ヴェスヴィオ公」
「終わるのはお前達だ。戦争ではないからと俺を殺さなかったのは間違いだったな」とヴェスヴィオ公も叫ぶ。
「そうだな。けどこれは今度こそ戦争だ」とポルコ。
「そんな怪我で何が出来る」とヴェスヴィオ公。
「お前は俺のこの姿しか見ていない。これが本当の紅の豚だ」
そう叫ぶと、ポルコは飛行機械から飛び降り、空中で獣の雄叫びを上げながら、巨大なオークに変身し、地響を上げて着地した。
その様子を見て、エンリ王子たち、唖然。
「あいつ、人化したキングオークか」
全身に赤い毛を纏ったオークが天に向かって吠える。
周囲の山から無数のオークの雄叫びがこれに応え、そして館の背後に現れたオークの群れ。
魔獣たちは赤いキングオークの拳に薙ぎ倒され、オーク軍団によって殲滅された。
そしてヴェスヴィオ公率いる鎮圧軍は壊滅した。
破壊された館の瓦礫に横たわる瀕死のヴェスヴィオ公は、人間の姿に戻ったポルコを見て呟いた。
「ここはお前達のものにはならない。お前達は破滅の火矢によって滅ぼされる」
ポルコは「どういう事だ」
息絶えるヴェスヴィオ公を見ながら、エンリは言った。
「大丈夫だ。俺の仲間が阻止する」
その時、遠坂から通信魔道具で連絡。
「たった今、巨大火矢が発射されましたよ」
「どこに向ってる?」
そう問うエンリに、遠坂は「教皇庁さ。あさっての方に飛んでいったって、アンジュ―公と部下は大騒ぎですよ」
「何をやったんだ?」とエンリ。
間桐の声が笑って答えた。
「憑依させる霊的使い魔を俺の式神にすり替えたのさ」
「それじゃ、あれが到達すれば教皇庁がドカンか?」
エンリがそう言うと、間桐は「いや、そうはならない。奴らの権威はドカンだろうけどね」
巨大火矢が向かう先が判明した教皇庁は、火のついたような騒ぎになった。
火矢は教皇庁の礼拝堂に命中したが、爆発はせず、砕けた弾頭からは無数の書類がまき散らされた。
それは、この事件の繊細を記した文書と証拠書類。
教皇は各方面から追及され、長期に渡って弁明を強いられた。




