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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第211話 海賊と歌姫

ポコペン公爵の依頼でイタリアに来たエンリたちは、剣闘奴隷だったニケの幼馴染スパルティカを保護した海賊ポルコと出会う。

そして彼等の戦いが、十字軍復活を目論むヴェスヴィオ公に抗うものであった事を知る。

エンリはポルコたちの生き残るための戦いを助ける事を決意し、再び彼等の拠点に乗り込んだ。



イタリア半島先端近くの山を見ながら船が進む。

向うに山の麓の小さな平野。

家が立ち並び、海岸に港。そして高台に館。その背後に小さな山。


マーモがタルタ号に乗り込み、港の街についてあれこれ話す。

「あの山に反乱奴隷たちの砦がある。館がヴェスヴィオ公が住んでた所さ」

「ところで、あの筏みたいな船って・・・」

そう問うエンリにマーモは「集成艦だ。大砲の弾が一発当っても、当たった所が大破するだけで全体は沈まない」

「誰が考えたんだ?」と言うエンリに、マーモは笑って言った。

「ってか、最初は金が無くて、大きな船を持てなかったからな」



上陸し、酒場に入る。

歌姫が歌っている。相当な美人だ。海賊たちが酒を飲みながら聞き入っている。

その中にポルコは居た。

エンリを見て溜息つくポルコ。そんな彼の居るテーブルの反対側に、エンリは座った。


「俺たちをどうする気だ?」

そう問うポルコに、エンリは「ここを出て貴族を襲うのなら相手になるが、そんな事をせず生きる事を選ぶなら、何もしないさ」

ポルコは「山の奴らは奴隷として殺し合いを強いられた」

「不殺の呪い付きって聞いたが」とエンリが返すと、ポルコは言った。

「それでも死人は出る。興奮した観客が敗者の死を要求する。誰も死なないでは収まらない」

「けど、お前等は守る側だよな? ヴェスヴィオ公、生きてるんだよな?」とエンリ王子。

「・・・」


エンリは言った。

「戦争じゃないなら殺さないと言った。殺す奴には殺される覚悟がある筈。そういう奴を殺すのは悪人じゃ無い。けどお前は、そういう奴じゃ無い」

ポルコは「解った。信じるよ」



エンリの仲間たちもテーブルにつき、酒とつまみでわいわいやっている。

歌姫が来る。

「ジーナよ。よろしく」

カルロがいきなり口説き始める。ニケがカルロの後頭部をハリセンで叩く。

笑うジーナ。

「いいの? あれ。あの歌姫ってあんたの女なんじゃ・・・」

そうエンリが言うと、ポルコは「そういう訳じゃない。それに、ここの奴らは全員彼女に惚れてる」


ジーナはそっとカルロに、悪戯っぽく囁いた。

「私を欲しいなら、賭けて決闘でもしてみる?」

カルロは思わず身を乗り出して「決闘って?」

「ポルコと、飛行機械で。ここの人たち、みんなやってるわ」とジーナは意味ありげな笑顔で・・・。

「俺、負けませんよ」と言って、乗り気になるカルロ。



カルロはジーナに連れられて彼女の工房へ。

作業着姿で出て来たジーナに、カルロは歌姫のドレス姿とは違った魅力を感じた。

「ポルコの飛行機械もあなたが?」

カルロがそう問うと、ジーナは「彼には海賊団の機械技師が居るわ。彼は自由だから」

「自由って?・・・」と、カルロは不思議そうな声で・・・。

そしてジーナは、何台もの飛行機械がある中の一台を指す。

「これがあなたの飛行機械よ」


カルロがそれを眺めていると、ニケが来て、ジーナに言った。

「これ、二人乗りに出来ない?」

「出来ない事は無いけど」

ジーナがそう言うと、ニケは「私が銃手をやるってのは、どうかしら?」

「いいわよ。それで彼を倒せるというなら」とジーナ。


カルロは感激の涙を流してニケの手を執った。

そして「ニケさん、そんなにまで俺の事を」

ニケはカルロを思い切りハリセンで叩いて「あんたは他の女口説いてる最中でしようが!」



その日から、ジーナは飛行機械の改造を始めた。

その合間にカルロは操縦法を教わる。


「これが操縦桿で、こっちの二つのレバーが回転軸のパワーよ。二枚づつある回転羽根が逆向きに回るの」

そう説明するジーナに、カルロは「何で回転軸が二つあるの?」

ジーナは「一つだと、それが回る反動で機体が振り回されてしまうのよ」


そんなカルロを冷やかしに来る仲間たち。

「お前、大丈夫かよ」

そうタルタが言うと、カルロは「こういうのは得意。それに、要は反射神経とテクニックだろ」

「"女を落とすテクニックでー"とか言わないよな?」とエンリが笑う。



ニケは反乱奴隷たちの山へ。

スパルティカは、奴隷戦士仲間たちと剣術の訓練をしていた。

向うでも多くの反乱奴隷が訓練をしているが、いかにも戦いの素人といった体だ。

ニケがスパルティカに声をかける。


他の反乱奴隷たちを眺めながら、二人並んで話し込む。

「あの人達は?」とニケ。

「一般の奴隷として買われた奴等さ。兵力増強としてね。世界航路が開かれて、世界中から奴隷が買われた。南方大陸とかインドとかミンとかジパングとかも」とスパルティカ。

ニケは少し辛そうな顔で「誰がそんなに」

「教皇庁の布教隊さ。一神教の布教の合間に、資金稼ぎとしてね」とスパルティカ。


「辛かったよね?」

ニケがそう言うと、スパルティカは言った。

「まあな。けど、やる相手は同じ戦士だ。戦争はそうでない民衆だって殺す。異教徒だって理由で。それよりニケはどうしていたんだ?」

「私はお気楽にやってるわ」とニケ。

「海賊団に入って航海術を身に着けて?」とスパルティカ。

「まあね」


「あいつ等も、みんないい奴だな」

そうスパルティカに言われて、ニケは「そうね」

「逆ハーレムって奴か?」と言って、スパルティカは笑う。

「みんな恋人が居るわ」

自分で言って自分が可哀想な子みたいに思えたニケは、急に見栄が張りたくなる。

そして「けど私、船乗りだもの。船乗りは港港に男ありって」

「何だよそれ」とスパルティカは爆笑した。



飛行機械の改造が終わり、カルロとポルコの決闘が始る。

エンリ王子たち、そしてポルコの部下たちも集まる。


「団長、あんな奴一ひねりだぜ」

そう言って囃し立てるポルコの部下たちを他所に、向き合うカルロとポルコ。

カルロは「いいんですね?」

「勝てばいいだけの話さ」とポルコ。



赤く塗装されて固定式の大型銃の付いた飛行機械に乗り込むポルコ。

二人乗りの飛行機械の、操縦管のついた後部座席に乗るカルロ。前部座席で大型銃を構えるニケ。

2基の小型の機体の上部の回転翼が高速回転を始め、そして宙に浮く。

どんどん上昇しながら距離をとる。


そして向かい合って同時に銃を連射・・・とその瞬間、ポルコの機体はカルロの目の前から消えた。

「回り込まれる」

カルロ、急旋回して背後に回ったポルコ機を正面に捉える。

ニケが引き金を引こうとした瞬間、再びポルコ機は姿を消して、カルロ機の背後から銃の連射。


ニケは叫んだ。

「らちがあかないわ。今度奴が後ろに回ったら、私が後ろ向きになるよう左手で左足首を掴んでぶらさげて」

「逆さ吊りプレイですか?」とカルロ。

「馬鹿言ってんじゃ無いわよ」とニケ。


カルロ機が旋回し、ポルコ機を正面に。ポルコ機が一瞬で姿を消す。

「今よ」

ニケは機銃を構えて機体を飛び出す。

その左足首をカルロの左手に掴まれ、機体の下にぶら下がりながら、背後に回ったポルコ機を銃撃。


銃弾はポルコ機の回転翼の軸に命中し、ポルコ機は錐揉み状態で墜落。

海賊たち、唖然顔で「あいつ、ポルコ団長に勝ちやがった」



着陸し、小躍りしながらカルロは機体を飛び出して「ジーナさん、俺、やりました」

すぐに彼は、場が残念な空気に包まれている事に気付く。

唖然顔の者、溜息をつく者。


ポルコは頭を掻きながら困り顔で、墜落した機体から出て来る。

カルロ、おろおろ顔で「俺、もしかして勝っちゃいけなかった?」

ジーナは苦笑いしながら「そうじゃないけどね」


エンリとその仲間たちはカルロの周りに集まる。

そしてエンリはカルロの肩に手を当てて「あのな、世の中には出来レースってものがあってだな・・・」

ポルコは困り顔で「そういう訳じゃ無いんだけど」

「とにかく空気読め」とアーサー。

「噛ませ犬って知ってるか?」とタルタ。

カルロは涙目で「そんなぁ」


ニケは苦笑して、言った。

「これ、反則よね。男と男の一対一の決闘に人の手を借りるとか」

カルロは更に涙目で「ちょっと、ニケさん」


ポルコが困り顔で「あのな、ジーナ・・・」

ジーナは溜息をつくと「ポルコ、あの機体、万全じゃ無いわね」



ジーナは墜落した機体の前に立って、機体のあちこちを指して言った。

「この動力の螺旋の魔道具、出力が70%しか出てない。回転軸にもガタが来てる。操縦桿の反応も遅い。私が完璧に整備してあげる。その上で再戦って事でどうかしら」

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