第209話 戦空の豚
ポコペン公爵に武装集団への対策を依頼されたエンリ王子たちは、彼等と関係するらしいニケの幼馴染スパルティカを追って、武装集団ポルコ海賊団のたまり場に辿り着いた。
だが、秘密裡に捜索していたつもりの彼等は、そのポルコという頭目と出会って早々、あっさり正体がバレてしまう。
緊張した空気の中、店に入った若者は、その空気に気付く。
そして、まごつき顔で「もしかして俺、やっちゃった?」
そんな彼を見て、ニケは柄にも無く目を潤ませて「スパルティカ」
「ニケ・・・・」と、彼女に気付いて、目を伏せるスパルティカ。
そんな二人を見て、ポルコは「そういう事か・・・。まあ座れ。ここは酒を飲む所だ。酒場で喧嘩なんて三下のやる事さ」
そして彼は店主に「この二人にグラッパ。俺の奢りだ」と言うと、スパルティカとニケに目配せして、店の隅の開いているテーブルを指した。
「あの、ポルコさん?」と、困り顔のスパルティカ。
そんなスパルティカにポルコは「イタリア男の流儀だ。郷に入らば郷に従えって言ってな」
すると、彼の隣に居る部下らしい男が「それを言ったらジーナさんはどうするんですか?」
「そうですよ。可哀想でしょ」と、別の部下も・・・。
ポルコは困り顔で「俺の事はいいんだよ」
店の隅のテーブルで向かい合って座るスパルティカとニケ。
ニケは「あれからどうしてたの?」
「いろいろあってな」と、スパルティカ。
「いろいろって剣闘士?」とニケ。
「まあな」とスパルティカは口ごもる。
ニケは辛そうな表情で「殺し合いだよね?」
「不殺の魔法はかけてた」とスパルティカ。
「でも、辛かったよね?」とニケ。
スパルティカは「そりゃ、斬られるのは痛いさ」
俯いて涙を滲ませるニケに、スパルティカは「お前って、そういうキャラじゃ無いだろ?」
「私だって、成長ってものがあるんだからね」
そう言うニケに、スパルティカは笑って「"私のお金ー"は卒業したのか?」
「うるさいわね」とニケは口を尖らす。
エンリたちがテーブルに座ると、ポルコが来て、言った。
「で、誰に頼まれた?」
「誰って?」
そう怪訝顔で言うエンリに、ポルコは「俺たちを倒しに来たんだよな?」
顔を見合わせるエンリと仲間たち。
するとファフが「ポコペンのお爺ちゃんだよ」
エンリが困り顔で「おいファフ」
するとポルコは「あの公爵かよ」
そんなポルコの反応を見て、エンリは「意外そうだな?」
「奴は教皇庁の犬じゃ無いだろ」とポルコ。
「教皇庁って?」
そう聞き返すエンリに、ポルコは「何も知らないんだな?」
エンリは隅のテーブルに居るスパルティカを見て、「あいつ、逃亡奴隷だよな?」
「他にも大勢居る」とポルコ。
「殺し合いやらせた奴等に報復でもするのか?」
そうエンリが言うと、ポルコは「そう吹き込まれたのか?」
そしてポルコは立ち上がる。
「そろそろ行くか」
そう彼が周囲に向って言うと、店に居る客たちも一斉に立ち上がる。
ポルコはスパルティカにお金の入った袋を投げた。
そして「軍資金だ。うまくやれよ」
反射的に袋を受け取ったものの、おろおろしながらニケを見るスパルティカ。
エンリと仲間たちは顔を見合わせる。
タルタが「これ、ニケさんは別行動って流れだよね?」
エンリは「じゃ、ニケさん。後は若い二人で」
そう言ってエンリ達はポルコ達が去ったのと別方向へ・・・。
すると「ちょっと、エンリ王子」
そう呼び止めるニケに、エンリは「何? 怖気づいた?」
ニケは「私にも軍資金」
仲間たち、前のめりでコケる。
エンリはあきれ顔で「いや、ここは彼氏に奢って貰うって流れだろ」
ニケは物欲しそうに「男女平等よ」
その夜、宿屋のベットの上には、寄り添うニケとスパルティカが居た。
「あんた達、何と戦ってるの?」
そう訊ねるニケに、スパルティカは「それを聞いてどうする?」
ニケは「どうするって・・・」
「俺たちみたいなのは潰すのが軍の流儀だろ?」とスパルティカ。
「私たちは軍じゃ無いわ」とニケ。
「お前等のボスは王太子。そして私掠船は放し飼いの海軍だ」とスパルティカ。
「それは・・・。けど、公爵家を恨んで・・・」とニケ。
スパルティカは言った。
「俺たちは、ただ生き残りたいだけだ」
ニケは「それを許さない人が居るの?」
「そうさ。あの人は人を殺さない。これは戦争じゃ無いからと言って・・・」とスパルティカ。
「・・・」
そしてスパルティカは「ニケ。生き残れよ」
「生き残れ・・・って?」
ニケがそう聞き返した時、スパルティカは既に寝落ちしていた。
ニケは呟く。
「私の事は何も聞かないのね」
翌朝、ニケが目を覚ました時、スパルティカの姿は既に消えていた。
そして彼女が宿屋を出ると、街から海賊たちの姿は消えていた。
酒場の前で仲間たちと合流するニケ。
「彼等は?」
そう酒場の店主にポルコの事を尋ねると、店主は「もう出港しましたよ」
「ここって奴らの拠点なんだよな?」とエンリ。
店主は「本拠地じゃ無いですけどね。この辺にいくつも拠点があります」
「領地みたいなものか?」とエンリ。
店主は言った。
「ここの領主を倒したんですよ。ここは元のヴェスヴィオ公領です」
エンリは溜息をつくと「そういう事か」
「どういう事?」とニケ。
エンリは言った。
「教皇庁の犬とか言ってたよな? ヴェスヴィオ公は十字軍の再興を計画していたんだ。何が起こったのか確認する必要がある」
タルタ号が出港する。
舵を操りながら、ニケは言った。
「アーサー、周囲を警戒して。ポルコ海賊団の襲撃が来るわ」
「では魚の使い魔を出します」とリラ。
するとニケは「そうね。けどきっと敵は空から来るわ」
「飛行機械かよ」とジロキチ。
「けど、どうして?」と若狭。
ニケは言った。
「スパルティカが言ったの。生き残れって」
カルロが「ベットの上で?」
ニケは「そうよ・・・って、何よその顔」
周囲の視線が集中している事に気付いて慌てるニケ。
タルタが「いや、やっぱりそこまで行ったかぁ」
カルロが「ニケさんも女なんだねぇ」
ニケは赤くなって「いいでしょ。もうお互い大人なんだから。あんたら中学生か」
「ねえねえ、行ったって、どこに?」とファフがタルタの上着の裾を引く。
タルタは「大人の階段を登ったのさ」
「それ中学生の発想」とニケはあきれ顔で言った。
その時、アーサーが「右方向、空から何か来ます」
小型の赤い何かが高速で接近する。
エンリが叫んだ。
「ポルコの飛行機械だ。ファフ、俺を乗せて飛べ。空中戦だ」
球体に近い小型のボディーの上に何かが高速で回転している。
エンリを頭に乗せて空を飛ぶドラゴンのファフがそれを見て「何なのかな? あれ」
エンリは「レオナルドの爺さんが発明した飛行機械の改良板だろう。傾けた細長い板を何枚か放射状に並べて、それを回転させる事で風を下に押し出して、その力で宙に浮くんだ」
空飛ぶ機械は、機体に固定された大型の銃を連射する。その銃弾をドラゴンの鱗が弾く。
エンリは風の巨人剣を振るうが、かるくかわされる。
その機械に乗ったポルコが放つサンダーボルトの攻撃魔法が、ドラゴンに命中。
エンリが「大丈夫か?」
「けっこう痛い」とファフ。
ポルコが放つヒートランスの攻撃魔法がドラゴンに命中。
ファフが「熱いよ、主様」
「この野郎」とエンリは叫ぶ。
ドラゴンは旋回して正面に飛行機械を捉え、エンリは風の巨人剣との一体化の呪句を唱える。
そして「これでどうだ」
一体化による素早さスキルで巨人剣を振り下ろした瞬間、飛行機械は姿を消した。
ポルコに後ろに回り込まれ、背後からサンダーボルトを喰らうドラゴン。
さらに飛行機械三機が飛来し、船に向けて幾つもの爆雷を投下。
落ちて来る爆雷をニケが短銃で撃ち抜く。
通信魔道具でリラから連絡。
「王子様、左方向から潜水艦が来ます」
エンリは焦り声で「奴らの母船は?」
アーサーの切羽詰まった声が「探すどころじゃ無いです」と訴える。
「仕方ない。撤退するぞ」
そう号令するエンリに、アーサーが「どうやって?」
エンリは言った。
「とりあえず潜水艦が来る反対側へ逃げろ。追って来る所へ魔法カードで渦巻だ。俺は空中の奴を風の魔剣で足止めする。アーサーとタマは巻き込まれないよう防御魔法」
エンリは風の魔剣を大気と一体化させる呪句を唱え、巨大なつむじ風を起こす。
四基の飛行機械はこれに巻き込まれて悪戦苦闘。
潜水艦は、逃げながら後ろに投げた魔法カードで起こした渦巻に巻き込まれる。
その隙にタルタ号は戦場を離脱した。




