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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
208/562

第208話 奴隷の戦士

ポルタ東インド会社の設立資金を持ち逃げして行方をくらませたニケ。

その直後にポコペン公爵から武装集団対策の依頼を受けたエンリ王子は、ニケが居るかも知れないという期待もあって、この依頼を受けてイタリアへ向かった。

そこで彼等がニケを見つけた時、彼女は死んだ筈の幼馴染のスパルティカと再会を果たしていた。



スパルティカがボートで沖に去った港で、仲間たちはニケを取り囲む。

「ニケさん、どういう事?」とエンリが詰問。

タルタが「さっきの奴って一体・・・」

ニケはエンリに金貨の袋を突き付けて「これが欲しかったのよね。返すわ」

「これ、騙し盗った設立資金だよね?」とエンリ。


「もう用は無いでしょ? さよなら」

そう言ってニケが立ち去ろうとするのを、エンリは遮った。

「そうはいくか。会社の設立資金の横領がどういう事か、解ってるよね? 返せば済むってものじゃない」

「この人にそれは今更だと思うけど」と困り顔のアーサー。

ニケはエンリを睨んで「逮捕して牢屋にでも入れたらいいわ」

そんな彼女にタルタは「ニケさんらしく無いよ。いつもの"私のお金ー"はどうしたよ」

「・・・」


エンリは言った。

「そのお金で、あのスパルティカって奴を買い戻すつもりだったんだよね?」

「・・・」

そしてエンリは「エドって人から聞いたよ。あいつ奴隷だったって」

「・・・」

「もしかして、今までお金お金言ってたのって、彼を買い戻すお金を貯めてた?」

そうエンリに言われると、ニケは俯いて、その目からポロポロと涙が溢れた。


仲間たちは、ニケの涙を初めて見たように思った。

そしてニケは涙声で語り出した。

「そうじゃ無いの。死んだって聞かされてたから。けど、お金が無いとああなっちゃうんだ・・・って。けど、彼が生きてるって噂を聞いて、買い戻すお金を用意して会いに来たの。けど、奴隷所有者はもう居ないから必要無いって・・・」

「だからノルマンで奴隷狩りの事を知って、あんなに怒って・・・」とリラは呟く。


「公爵家に何か取りに行ったよね?」とエンリが訊ねると、ポケットから小さな物を出して、エンリに見せた。

「これよ。彼から貰った物なの。魔素探知の魔道具で彼を探そうと思って」

それは、剣の形のストラップだった。

「奴隷だからお金は持てないけど、拾ったお金で買ったんだって。本物は持てないから代わりにって。けど、転売されて別れる時に、もう必要無いからあげる・・・って」


「彼はどんな死に方を?」

そうエンリは訊ねたが、リラは「知らない」



エンリたちは、ニケを連れて公爵家に戻り、公爵から話を聞く。

スパルティカが生きていたと知り、公爵は一瞬驚き顔を見せると、俯き加減になった。

「彼は、どんな死に方をしたのでしょうか」

そうエンリに訊ねられたが、公爵は「私も知らないのですが」

エンリは思った。

(この人、何か隠してる)


エンリは公爵に言った。

「書庫の資料を閲覧したいのですが。調べたい事がありまして」

公爵は「調べたい事って?」

「問題になっている武装勢力について、何か手掛かりがあるのではないかと」とエンリ王子。


そして彼はアーサーと二人で書庫に行き、資料を漁る。

エンリは一枚のチラシを見つけた。

「やはり、そういう事か」と彼は呟く。



エンリは再び、公爵に話を聞く。

そして彼は書庫で見つけたチラシを提示した。

「スパルティカの転売先でやってた事って、これですよね?」

公爵は「そうです。彼が死んだ後で知ったのですが」

「何なの?」

そうニケが訊ねると、エンリは「剣闘試合だよ。つまり見世物用の殺し合いバトルさ」

「そんな」とニケ、絶句。


「けど、どうしてこれだと?」

そう公爵に尋ねられ、エンリは言った。

「一つは剣の形のストラップ。本物の代わりで、それが不要になったって事は、本物を扱えるようになったって事だよね? それと、死んだけど生きてたって事は、不殺の呪いだよね? つまり、剣闘士の武器に不殺の呪いをかけていたのさ」

「・・・」

更にエンリは「イタリアで流行していた文芸復興運動。所謂ルネサンスって奴。あれって、古代ギリシアローマの文化を蘇えらせようって話だよね。美術・文学・学術・医学・・・。そんな中で古代ローマで流行していた剣闘士試合を復興させようという試みがあった。それで剣闘士用の奴隷を買い集めた。けど、せっかく集めた奴隷がすぐ死ぬのでは、採算が取れない。それで不殺の呪いを使った」


公爵は「あの催しは、批判が多くて一回きりで終わったと聞いています」

「それが、どこかで興行を続けていたんだろうね」とエンリ王子。

「彼、どうしているのかな?」とタルタ。


すると、リラが言った。

「ニケさん。きっとまた会えます。実は魚の使い魔にあのボートを追跡させたんです。今、大きな船に乗って移動しています」

ニケの表情が明るさを取り戻すのを見て、エンリはリラの頭をポン、と撫でた。

「よくやったぞ、リラ」



三日後・・・。

「エンリ様、あの船が港に入りました」


そのリラの報告で、タルタ海賊団は出航の準備を始める。

そして出立前に、ポコペン公爵に挨拶がてら、エンリは公爵に尋ねた。

「これって、例の武装勢力と関係あるのかな?」

公爵は「確証はありませんが、彼は剣闘士興行の業者を殺して逃げているのです。仲間の元剣闘奴隷が相当数居る筈です」

「それが海賊と合流?」とアーサー。

「って事は、報復に来る可能性があると?」とニケ。

エンリは「そうなる前に彼等を止めたい」



タルタ号に乗って、スパルティカが居るという港に向かう。

港に入ると、幾つもの船が停泊している。


「どの船だろうね?」と言って、港に浮かぶ船を見るタルタ。

「街に居る奴とその仲間を探した方が早い」とエンリ王子。

カルロが「ってか、海賊ポルコと合流してるのかも」

「だったらそっちを探した方が早いな」とエンリ王子。

「可能性ですよね?」と若狭。

「けど、いかにも海賊って奴、ここにはゴロゴロ居るぞ」

そう言って周囲を見回すジロキチ。

アーサーが「こいつら全員ポルコの部下って事も・・・」



とにかく聞き込みを・・・という事で、屋台で串焼き肉を買いつつ、話を聞く。


「この街に、ポルコって奴が居るって聞いたが」

そうエンリが訊ねると、屋台の男性は「時々来てるらしいぞ」

「どんな奴だ?」とエンリ。

「赤いマフラーをしているそうだ」と屋台の男性。

「この暑いのに?」とリラが突っ込む。

男性は「それは言わない約束だ。それで仇名があって、"紅の豚"って呼ばれてるらしい」



串焼き肉を食べながら、仲間たちとあれこれ話す。


「って事は、相当太ってる奴だな」とタルタ。

「倍化とか言って巨大化する異能でもあるのか?」とアーサー。

「ジパングの忍者じゃ無いんだから」とジロキチが突っ込む。

カルロが「デブって言うと怒るよね。デブじゃなくてぽっちゃりだ・・・って」

「言い方変えてるだけなのにな」とエンリが笑う。

するとリラが「変態じゃなくて個性だ、みたいな?」


いきなり落ち込むエンリ王子を見て、リラが心配そうに「王子様、もしかして体調がすぐれないとか・・・」

「いいんだ。そうだよな。言い方を変えただけだものな」と、憂鬱そうなエンリ。

リラは更に不安顔で、ニケに言った。

「ニケさん、王子様は何かの病気でしょうか」

ニケは苦笑すると「少し時間が経てば治ると思うわよ。午後からの聞き込みは私たちでやるから、リラは王子についていてあげなさい」



仲間たちは手分けして聞き込みを続ける。そして小一時間経って、集合。


「どうだった?」と、ようやく立ち直ったエンリは仲間たちに成果を確認。

「みんな知らないって」とタルタが言うと、困り顔で全員顔を見合わせる。

「収穫無しか・・・」と残念そうなエンリ。

するとカルロが「けど、あれは知ってて隠してるって口ぶりだったぞ」


そんな中でタマが言った。

「猫たちに聞いたら、向うの酒場がたまり場になってるって言ってたわよ」



その酒場に入ると、赤いマフラーの男が、数人のマッチョとテーブルを囲んでいる。

店の中も、いかにも海賊といった風なマッチョだらけ。


アーサーが赤マフラーの男を見て「あの人がそうかな?」

「でも太ってないですよ」とリラ。

「とにかく座ろう」

エンリがそう言って、空いているテーブルに全員で座り、酒を注文する。


赤マフラーの男性は、マッチョとは言えないが精悍な三十代の男性で、かなり見栄えのするタイプだ。

「あまり視線を向けない方がいい」とエンリは小声で仲間たちに注意を促す。

ムラマサが「凄い殺気を感じるでござる」

「けど、あれが海賊ポルコなのかな?」とタマ。

「只者ではないのは確かだ」とジロキチ。

「もしかして影武者とか」とタルタ。

「それで、本物は太ってるの?」とファフ。

エンリはあきれ顔で「それじゃ影武者の意味無いだろ」



その時、勢いよくドアが開いて、一人の若者が入って来た。

「ポルコさん、食料と火薬の調達、終わりました」


それを聞いて、エンリ本人以外の十人の仲間たちが一斉に立ち上がる

そして「やっぱりこいつが海賊ポルコ」

店中の客の視線が集中し、エンリは頭を抱えた。

そして「・・・何やってんだか」と呟く。


赤いマフラーの男は苦笑しながら言った。

「ようこそポルコ海賊団のたまり場へ。お前等、タルタ海賊団だよな?」

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