表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
206/562

第206話 ポルタで会社

エンリがポルタ大学職工学部の計画を進めていた頃、もう一つ平行して進めていた事業があった。

ポルタ東インド会社。


オランダで始まった会社という制度。

これにより、大きな会社組織を作って争いを仕掛けて来るなら、個人単位のポルタ商人は簡単に潰されてしまう。

そういう危機感から、エンリはそれに対抗するものがポルタにも必要だと考えた。

株式会社という、その仕組み。

会社の所有権を株式という細かい単位に分割し、これを買った小金持ちの払った資金が会社の設立資金になる。

だが、その株式をポルタでは誰も買おうとしなかった。



「それで商人たちの共同経営に政府の資金を出そうって話になったんだが、何で駄目になったんだ?」

そうエンリは、報告に来た航海局の役人に尋ねる。

役人は困り顔で「参加した商人の主導権争いですよ」

「とにかく俺が話を聞く」とエンリ王子。



アーサーとリラを連れてエンリ王子は、会社設立話に参加した大商人たちを集めさせて、話を聞いた。


大商人の一人が「頑張って手にした儲けが自分のものにならないとか、おかしいですよね」

「社長とか言って偉そうに命令する奴の言う事なんか誰が聞くか」と、別の大商人。

「下の奴がサボりまくり」と、更に別の大商人。

「予算はケチるし品物には文句を言うし、すぐ横領しただろとか」と、ニケが言った。


エンリは彼女を見て「ニケさん、また何かやったの? ってか何でニケさんがここに居るの?」

そしてエンリは役人に言った。

「この人に首突っ込ませたら駄目って言ったよね?」


エンリは溜息をつくと、アーサーに言った。

「なぁアーサー、会社ってイギリスやオランダだと、ちゃんと動いてるよね」

「基本、農業って農村の集団作業ですから、畑作の麦で食える農業社会のゲルマン気質の奴らは、集団作業に慣れてるんですよ。ラテン気質は個人プレーが中心で、古代から自分の畑で作ったオリーブ油を交易する経済が動いてましたから」とアーサー。


「東インド会社、やめるか?」

そうエンリが航海局の役人に言うと、大商人たちの顔色が変わる。

そして一人の大商人が「その必要はありません。私が引き受けますよ」

別の大商人が「いや俺が引き受ける。お前等は手を引け」

更に別の大商人が「いや、お前が手を引けよ」


エンリは溜息をついて「国が予算を出すのを当てにして、この有様かよ」

そして彼は航海局の役人に「当面は自己資金でやるって事にするか?」


そして誰も居なくなった。



翌日・・・。

先日の航海局の役人がエンリに報告に来た。

「エンリ王子、昨日の東インド会社の件で、自己資金でもいいという人が・・・」

彼の背後に居る人物を見て、エンリは「お前は大商人のモウカリマッカ」

モウカリマッカは言った。

「とりあえず小規模に初めて、軌道に乗って事業を拡大する中で政府の出資を仰ぐ、という事ではどうかと」

エンリは頷いて「なるほど。それなら、いきなり失敗という事にもならない。その線で進めてくれ」



そして、しばらく経った頃・・・。

モウカリマッカが血相を変えてエンリの執務室に来た。

「大変な事になりました。ある人に資材の調達を任せたのですが」

「ある人ってまさか・・・」

そう不安顔で言うエンリに、モウカリマッカは「とにかく見て下さい」



エンリはモウカリマッカと一緒に、港の会社設立準備区画へ。

カルロを呼んで同行させた。


「大型船を四隻発注したのですが・・・」

そう言ってモウカリマッカが指した岸壁には、小さな筏が四隻。


「船団の三か月分の食料の調達を依頼したら・・・」

倉庫に入った彼がそう言って案内した場所には、釣り竿と釣りの餌。


「水樽の調達を任せたら・・・」

彼が示した一枚の紙切れ。アンチソルトの魔法のレシピが書かれている。



エンリは溜息をつくと、おろおろ顔のモウカリマッカに言った。

「ある人って、ニケさんだよね?」

「まあ・・・」

そう困り顔で口を濁すモウカリマッカに、エンリは「あの人を信用しちゃ駄目って言ったよね?」

モウカリマッカは泣きそうな顔で「どうしましょうか」

「彼女はどこに」と、エンリ王子。

「現在、行方不明でして」と、モウカリマッカ。


エンリは溜息をついて「金を持って高跳びかよ」

「彼女らしいっちゃ、らしいというか・・・」と、カルロも溜息をつく。

「カルロ。探せないかな?」

そうエンリに言われた彼は「多分もうポルタには居ないと思いますよ」



ニケがエンリたちの前から姿を消して、間もなく・・・。

イタリアからポコペン公爵の使者が来た。


エンリ王子は仲間たちを集めて、使者から話を聞いた。

「貴族を狙う武装集団が現れまして、脅威を取り除いて欲しいのです」

そう語る使者に、エンリは「それどころじゃ無いんだけどなぁ」

リラが「ニケさんの事ですか?」

「仲間だもんね」とタルタ。

「じゃ無くて、モウカリマッカの奴が部下の不始末だから責任とれって」とエンリ王子。

アーサーが「警告無視した本人の自己責任ですよ」

エンリは困り顔で「それが、あちこちに陳情してて、各方面から色々と・・・」


するとカルロが「けど、もしかしたらニケさん、イタリアに居るかも」

「何だかんだ言って古巣で恩師も居るし」

そう言う若狭に、カルロは「じやなくて、貴族から財宝を奪ってお金ガッポガッポ・・・って」

「やりそう」と仲間たち。


エンリは言った。

「解った。すぐ出発しよう。俺たちは世界の秩序を守るヒーローだ」

ジロキチが「ハンコ突きから逃れるいい口実だし?」

「そうだよ。こんな単純作業、王太子の仕事じゃない」とエンリ王子。


すると、いつの間にか脇に居た宰相が、怖い顔でエンリに言った。

「そうはいきません。未決済の書類がこんなに溜ってるんですから、優先して下さい。政務が進みません」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ