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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
204/562

第204話 織物の機械

ポルタにおける衣服生産の工場化で不足する織物の自動機械化のプロジェクトが、ポルタとイギリスで始まった。



イギリスで織物機械の開発に取り組む発明家のジョンケイ。

彼は仕事場で、作りかけの機織り機械と睨めっ子していた。

多数の経糸の棒を互い違いに動かす。そこに横糸を巻いた杼を通す棒を差し込む。

その棒が邪魔になって、経糸の棒の互い違いを逆に出来ない。



その時、彼の仕事場を訪れる一人の男性が居た。

「こちら、発明家のジョンケイさんの仕事場ですよね?」

そう玄関から呼びかける男性の声を聞いて、ジョンケイは玄関に出て来る。

「アダムスミスさんですか? 機織り機械なら今、難しい問題・・・って、あんた誰?」

男性は「それを解決するお手伝いに来ました。別の方から」

ジョンケイは怪訝顔で「どちらの方から? まさか教会とか消防所の方から何か売りに来た訳じゃ無いですよね?」


「いや、買いに来たのです。あなたをね」

そう男性に言われ、壁際まで後ずさりするジョンケイ。

「わわわわ私はホモじゃありませんよ」

男性は言った。

「ホモじゃなくて発明家ですよね? 私は所謂産業スパイという奴でね、あなたをスカウトに来ました。私はポルタのエンリ王子の部下で、カルロと言います。衣服の工場を作ったのも我々です」

「私に祖国を裏切れと? ですが織物機械は未完成ですよ」とジョンケイ。


カルロは「経糸の間に杼を通せないのですよね? 実は我々も同じ事で悩んでましてね、協力しませんか?」

「ポルタに行けというのですか?」とジョンケイ。

カルロは言った。

「天才は99%の閃きと1%の努力・・・でしたよね。けど、問題を解決するには、いくつもの閃きが必要です。なので、何人もの天才が協力すれば、うまく行く。向うには衣服工場を作った天才が居ます。協力して障害を突破する、ブレイクスルーで一緒に世界を前に進めましょう」



ロンドンの王宮のヘンリー王の執務室に血相を変えて駆け込むアダムスミス。

「陛下、大変です」


ヘンリー王は「織物機械が完成したのか?」

「それを任せていたジョンケイがこれを」

そう言ってアダムスミスが王に示したジョンケイの書置きに曰く。

「探さないで下さい」

ヘンリー王はあきれ顔で「家出の高校生かよ」



ポルタ大学職工学部の研究室での織物機械の開発に、ジョンケイが加わった。

エンリ王子もアーサーとリラを連れて様子を見に来る中、経糸の間に機械でどう糸を通すか、開発チームは悩んでいた。


「どうしますかね? これ」と、ジョンケイと職工学部の教授たちが顔を見合わせる。

一人の教授が「転移魔法とか使ったら?」

「転移空間の所で糸が切れちゃいますよ」とジョンケイ。

「ってか、これに魔法を使うのは反則かと」と、もう一人の教授が・・・。


エンリが言った。

「こういう時は、違う発想をする人による刺激が効くと思うよ」

「そのために彼をイギリスから連れて来たんですけど」と教授の一人がジョンケイを見て言う。

「どこでも結局、考える事は同じって事かと」とアーサー。

エンリが「ってか、違う発想ってんなら、違う物を作る職人だろ」

「例えば、刃物を作る人?」とリラ。

「唐突ですね」

そうアーサーが言うと、エンリが「いや、そうでも無いと思う」



ジパングから来た刀鍛冶清定の仕事場を訪れた開発チームとエンリ王子たち。

ジロキチとタルタも遊びに来ていた。

「機織り・・・ですか?」

清定は怪訝顔でそう言うと、彼の娘に言った。

「若狭。お前昔、母さんから機織り教わったよな?」


若狭は「モノにならなかったけど。だってあれ、単純作業の繰り返しだし退屈だしすぐ飽きるし時間ばかりかかって全然進まないし」

「だから機織りの機械を作ろうとしているんですけど」と教授の一人が・・・。

「だったら・・・」

そう言いかける若狭に、エンリが「何かアイディアが?」

「あれは横糸を巻いた杼を経糸の間に通すために左右に移動させるんですよね?」と若狭。

「それなんだが」とジョンケイ。

若狭は「それを転移魔法でやったら?・・・」

全員前のめりにコケる。


「それ、俺も言ったけど駄目だった」と教授の一人。

するとエンリが「ってか清定さんの意見を聞きたいんだけど」

「俺は機織りなんて解りませんよ」と清定。

「けどあれって、単純な作業の繰り返しですよね? それって、刀を鍛えるために鎚で打つのと同じじゃ無いんでしょうか?」とエンリ。


清定は言った。

「それはどうかな? 機織りの機械化って、機械を高速に動かせば早く織り上がるって事ですよね? それで生産を効率化させる。けど刀を鍛えるのは早く打てばいいって話じゃ無い。例えばタカサゴ島に居るケンゴローに鎚を持たせて、奇声上げながら右手が20本くらいに見えるような速さで鎚を振るうとしたら、それだと良い刀は打てないんですよ。鎚で刀身を打つにも間ってものがありますんで」

「やっぱり駄目かぁ」と教授たちはがっかり顔で口を揃える。



するとムラマサが言った。

「こういう煮詰まった時は、気を抜いて遊びに興じて頭を柔らかくするに限るでござる」

「だったら早速飲みニケーション」と教授たちは嬉しそうに口を揃える。

そんな教授たちに、エンリはあきれ顔で「お前等、そればっかだな」


ムラマサは「主様、あれを出しては?」と若狭に言った。

「あれって?」

そう問うエンリに若狭が「ジパングから取り寄せてムラマサが最近嵌ってる玩具なんだけど」

「大人の玩具ですか?」とジョンケイ。

ムラマサは慌てて「違うから。人形でござる」

「えーっ」


「いや、子供の人形遊びじゃなくて」と若狭は困り顔で。

タルタが「って事は服を脱がすと、あんな所やこんな所がリアルに再現」

「そーじゃなくて、男の子の人形でござる」と困り顔のムラマサ。

エンリが「ムラマサってロリコンのホモ版?」

「じゃなくて、カラクリで動くんですよ」と若狭。

アーサーが「セクサロイドって奴?」

ジロキチが困り顔で「そろそろ、そっち方面から離れようよ」


アーサーが言った。

「つまり自律機械人形ですか。イギリスでモリアーティが作った奴と戦ったけど、あれは怖かったよね」

「戦闘用じゃ無いです。それに魔法は一切使わない、純然たる科学。なのに実に精密で複雑な動作をする」と清定が説明する。

「何をするんですか?」とジョンケイ。

「弓を射るのですよ」と清定。

「やっぱり戦闘用じゃん」と、エンリとアーサーとタルタ。

ジロキチが「じゃなくて単なるデモンストレーションだから」



若狭がそれを箱から出して、テーブルの上に置いた。

そして「これです。ギエモンというカラクリ職人の作品で、弓射童子」

小さな台の上に正座した男の子の人形。左手に弓を構え、台の端には小さな的。そして人形の脇に数本の矢を乗せた台。

「これが弓を射るの?」とタルタ唖然。

「まあ見てて」

そう言って、若狭はゼンマイを巻く。


人形の右手がゆっくり動き、台の上の矢をつまむ。

左手に構えた弓に矢をつがえ、ゆっくりと引き絞って放す。

矢は飛んで台の端の的に当たった。

「すげー」と一同、驚嘆の声を上げる。

タルタが「どうやって動くの?」

「時計と同じ原理ですよ。中にゼンマイで回る小さくて歪な形の丸い板が何枚も重ねてあって、そこに一回転する間の動作が仕込まれているんです」と清定が説明。


ジョンケイは真剣な目で「もう一回やって見せてくれますか?」

ゼンマイを巻く。右手が動いて矢をつまむ。

右手の親指と人差し指が矢をつまむようになっている。弓に矢をつがえ、弓を引き絞って、矢を放す。



ジョンケイは立ち上がって叫んだ。

「これだ。閃きました。すぐ作業を始めましょう」

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