第200話 ギルドと職工
交易で栄えるポルタを追う経済大国のイギリスとオランダ。
その職工業の発展に対抗するため、ポルタ大学に職工学部を創設したエンリ王子。
そして、職工学部の不人気をどうにかしようと、頭を悩ますエンリと仲間たち。
執務室で書類の山を他所に、ダラダラしながらアーサーやリラを相手にあれこれ言うエンリ。
「職工が発達する国って、やっぱりゲルマン気質の文化なのかなぁ。ポルタはラテン気質だからな。商売で一攫千金ってのに走って、コツコツ物作りってのには向かないのかも」
そう愚痴るエンリに、アーサーは言った。
「けど、ラテン気質でも、イタリアは伝統工芸が盛んですよ」
エンリは「あそこはローマ時代からの伝統を受け継いだ工芸があるし、亡命賢者も大勢来て、新しいものを作ってる」
「ポルタにだって大学に亡命賢者が居るし」とアーサー。
「それにポルタの街にも職工は居ますよね」とリラ。
街の職人の話を聞こうと、エンリたちは街を歩いた。
そこで合流したジロキチとタルタも加わり、ジロキチの行きつけの武器職人の店に行く。
久しぶりの上客だと、商売っ気丸出しで身を乗り出した店主が「何をお求めですか?」
エンリは困り顔で「いや、買いに来た訳じゃ無いんだが」
「何を仰いますか。王太子自ら剣を極め、少数の共を連れて冒険の旅に」とエンリを煽てる店主。
「それほどでもあるけど」と照れるエンリ王子。
「様々な難問を解決する世界のヒーロー」と、更に煽てる店主。
「それほどでもあるけど」と照れまくりのエンリ。
「そんな王子に、これなんかはどうですか?」
そう言って店主が出した剣を見て、エンリは「いや、剣は間に合ってる」
「だったら槍は? リーチが長いから剣より有利」
そう言って槍を出す店主に、エンリは「確かに」
するとタルタが「あんた巨人剣があるだろうが」
「そうだった」と、エンリは正気に戻る。
「では、こちらの楯は?」
そう言って楯を出す店主に、エンリは「確かに楯は持ってない」
「どんな攻撃も防げるという優れもの」と店主。
そう宣伝文句を並べる店主に、エンリは「それは凄い」
「それで、こちらの槍はどんな楯も貫く」
そう言って槍を出す店主に、エンリは「それも凄い」
ジロキチが「ちょっと待て。その楯でその槍を突いたら、どうなるんだ?」
「どうなるんだろう」と、店主は腕組みをして首を捻る。
あきれ顔でアーサーが言った。
「あの、王子。我々、そういう事をやりに来たんじゃ・・・」
エンリは思い出したように「そうだった。俺は先祖から受け継いだこの魔剣一筋」
「なら二本目は? ジロキチさんなんか四刀流ですし、せめて二刀流くらいは」と手もみをする店主。
「確かに」と頷くエンリに、店主は一本のジパング刀を出した。
「これなんか、あの怪盗ルパンの相棒のサムライが使っていた、鉄でもスッパリ切れるという」
「それは凄い」
そう言ってその気になるエンリに、アーサーは溜息をついて、言った。
「いや、王子。それは嘘大袈裟無紛らわしいの類ですから。我々の目的は職工学部の需要調査でしょうが」
「そうだった。職工の技術って大学で学ぶ場の需要って無いの?」
正気に戻ったエンリが店主にそう訊ねると、店主は言った。
「そう言われても、先祖から受け継いだ技があるからなぁ」
店を出ると、若者が店先の掃除をしていた。
「君は?」
エンリがそう訊ねると、若者は「ここの徒弟です」
「あの店主から武器作りを教わってる訳だ」とエンリ王子。
若者は「そのために働いてるんですが、なかなか技を教えて貰えなくて」
「職工になりたいんだよね?」とエンリ。
「農家の次男には、そういう道しか無いですからね」と若者は答える。
「大学の職工学部で学ぶ気はある?」
エンリがそう訊ねると、若者は「自分の店を持てるってんなら・・・」
城の執務室で視察の成果について話すエンリ王子たち。
「つまり、ギルドがあるから街で店を自由に持てない。せっかく大学で学んでも、職工として仕事が出来ない・・・と」
そうエンリが結論を言うと、仲間たちは一様に「そうだった」
「何で職工学部なんて作ったんだっけ?」とエンリ。
「何でだろ」と、仲間たちは一様に・・・。
するとタルタが言った。
「けどさ、ミンでは工場で製造業やっていたよね?」
「職人の家の工房で作ってる訳じゃ無いんだ」と若狭が不思議そうに・・・。
ニケが「あれは交易の輸出品として作ってるからね」
リラが「タカサゴ島ではそうだけど、元から輸出品工場だったんですか?」
「中華は広いから、あちこちと遠隔交易するために工場で作ったのよ。それをアラビアの商人向けに輸出して、海外向けの扱いが増えたのよ」とニケが説明。
エンリが言った。
「ギルドが仕事を独占しているのは、生産という役割を独占している訳ではない。ギルドは街の人たちを相手にした顧客独占の組合なんだ。その街の人口に限りがあれば、当然、需要にも限りがある。けど、輸出は新たな輸出先を開拓出来る」




