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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第199話 職工の大学

その頃、エンリ王子は憂鬱な日々が続いていた。

交易商人が活躍するポルタの国は、世界に向けた航路の開拓とともに、未曾有の発展を遂げていた。

その一方で、ライバルとして台頭してくるイギリスやオランダ。

それらの国では、売り物として輸出品となる織物や機械、工芸品の生産も盛んになっている。


このままでは立ち遅れる・・・という懸念から、ポルタの工業を発展させようと、ポルタ大学に職工学部を設立した。

ドイツやイタリアから腕のいい職人を雇い、ユーロの外からも技術を持つ人をスカウトした。

タカサゴ島から数人。インドやアラビア、ジパングからも。



「なのに何で学生が来ない?」

仲間を連れてポルタ大学の様子を見に来て、閑散たる状況を嘆くエンリ王子。

「コツコツやる事を嫌い、一攫千金を夢見るラテン気質なんだろうね」とアーサー。

「職工学部、止める?」とニケ。

エンリ王子は「経済の発展に物作りは不可欠だよ。高度成長するのは世界の工場だ」

「何時の時代の話ですか?」と若狭はあきれ顔で言う。


「それに教授、雇っちゃったしなぁ」

そう言って溜息をつきながら教授たちに視線を向けると、彼等は縋るような目でエンリに言った。

「お願いです。クビにしないで下さい。失業は嫌です」

「黄色い雷魔獣の着ぐるみ着たオッサンみたいな事を言われてもなぁ」と困り顔のエンリ。

ジロキチが「いや、この人たちは某大新聞の下請けでジパングを貶める下半身捏造記事サイト作るような不祥事起こした訳じゃないから」

「何の話ですか?」と怪訝顔のリラ。


エンリは言った。

「まあ、学生が集まらなくても別のやり方があるし」



国内の職工を集めて公開講座を開いた。

最初の演題は特別講師として、ドイツのマインツから、焼物ギルドマスターのハンスさん。


「焼物はタカサゴ島の技術の方が進んでるだろ?」

そうエンリが職工学部の講座運営陣に疑問を呈すと、教授たちは言った。

「リベルトさんの親方なんですよ。弟子がお世話になった恩返しとか言って」

「そういうの要らないんだけどなぁ」とエンリ、困り顔。


ハンスは聴講者たちの前で滔々と語る。

「職人たる者、安易に売れ筋を追いかけてはいけない。生涯をかけてひたすら巧の技を磨き、一にも二にも努力あるのみ」

精神論に聴講者はみんなドン引き。



イベントを終えて城に戻り、執務室で仲間たちとあれこれ言うエンリ王子。

「ほんと、ああいうのは要らないんだけどなぁ」

そうエンリが言うと、ジロキチが「けどドイツの工業ってこれで売ってるんだよね」

「真面目にコツコツっていうゲルマン系の気質だよね。ユーロ西岸からアルプス北の平原の広い森を開拓した農地でコツコツと育てた麦を食べて生きて来た文化だから、真面目に働けば生きていける」とアーサー。


するとカルロが「そういう奴は絶対モテないと思う」

「私は真面目で優しくて安心できる人の方が好感が持てます」と、リラと若狭が口を揃える。

「ってか、カルロは女の敵でしょうが」とニケ。

タマが「けど、つまんない男と言われたら終わりよ」

「話が変な方向に逸れてるような気がするんだが」とタルタ。


エンリが「どこから恋愛ネタになったんだよ。そういうのは要らないから」

「そうだぞ。男は一つの道を極めるのがロマンってもんだ」とジロキチ。

「それで夢はでっかく世界を制する海賊王」とタルタ。

「剣を極めて世界で無双でござる」とムラマサ。

エンリは「そういうのも要らないんだけどなぁ」

するとファフが「けど主様、そういうのが無いと小説は売れないよ」

「何の話だよ」とエンリ王子。


「けど、商人学部は人気なんだよね?」

そうエンリがぽつりと言うと、アーサーが「今度、視察に行きますか?」



エンリはアーサーとリラを連れて、ポルタ大学の商人学部に視察に行った。

講義室に入ると、ニケが非常勤講師をやっていた。


学生の前で講義を行うニケ。

「商売のコツは顧客をしっかり捕まえる事よ。それには自分との取引が利益になると思わせるのが大事。例えばこんな方法があるの。売り手と買い手が一つの団体を形成する。そこに勧誘して入会させる事で顧客を増やす」


学生が質問する。

「怪しげな団体じゃないかって警戒されません?」

ニケは「だから人間関係を利用するの。よほどのボッチじゃなければ友達の十人くらいは居るわよね?」

「友達無くしますよ」と学生。

ニケは言った。

「大丈夫。自分も、参加した友達も確実に儲かるもの。だって友達からその友達へと会員はネズミ算的に増えるのよ。そして勧誘した会員は勧誘された会員の上位会員になって、下位の会員が買った商品の売り上げの一部を自分のものに出来る。勧誘した友達は更に下の会員から上がる利益で儲かるの。これぞ全員ハッピーなウィンウィンの・・・」


エンリはきつい声で「ニケさん!」

「あらエンリ王子。王子もこのアマウォーグループに入ってみない? 大儲け出来て累積債務なんてすぐに返せるわよ」

そうドヤ顔で言うニケに、エンリは言った。

「それ、ネズミ講っていう典型的な詐欺商法だろ。絶対破綻して抗議が殺到するって奴」



エンリはニケを人事課に連行して、出入り禁止を言い渡す。

「何でよ」

そう言って抗議するニケに、エンリは「ここは商売を教える所であって詐欺を教える所じゃないし、そもそもニケさん学者じゃないだろ」

ニケは「教授なんて大学から肩書貰えば政治扇動屋だってなれるのよ。研究成果なんてアジ演説記事出しておけば盲判で受理してくれるし、捏造記事書いて国民全員の名誉を棄損して国際問題の種蒔いた奴とか、国の防衛に必要な法律作ったって理由で"こいつは人間じゃない叩き切ってやる"なんて叫んだ殺人教唆犯とか・・・」

「そういう異世界の話はいいから」とエンリ王子。


ニケを追い返すと、エンリは人事課の職員に言った。

「何であんなの雇ったんだよ」

「有名人ですから。タルタ海賊団の航海士で凄腕のガンマンで医術師で、団の財政を爆上げしたお金の申し子だと・・・」と人事課の人。

エンリは溜息をつくと「最後のは本人のフカシだ」

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