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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第197話 老王の屍

デンマルクを奪還したエンリたち連合軍が南下する中、プロイセンが占領した南部で連合軍を迎え撃とうと防備を固めるロシア軍と、プロイセン・オランダの軍。



そんな中でフリードリヒの部下が作戦会議の部屋に駆け込んだ。

「フリードリヒ陛下、大変です。ドイツ皇帝軍が我が軍に宣戦布告し、シレジアに侵入」

「な・・・何ですとー」

唖然とするフリードリヒ。

「それで、どうしますか?」

そう問う部下に、フリードリヒは「どうするもこうするも、行って撃退するしか無いだろ」


「という訳で、我が軍は戦線を離脱しますので、悪しからず」

そう言って、撤退の準備に入るフリードリヒを見て、ピュートルは慌てた。

「ちょっと待て。住民たちへの命令系統はどうなる」

「軍政担当も連れて行きますんで、全面的にお任せします」とフリードリヒ王。

「いや、ちょっと待て」

そう制止するも空しく、プロイセンは本国に引き上げた。



残ったオランダの将軍に、ピュートルは「まさかオランダも抜けるとか言わないよね?」

心配顔のピュートルを他所に、オランダの将軍は、本国のオレンジ公と通話の魔道具で連絡をとると・・・。

「本国からの訓示により、我々も国に帰ります。自国に攻め込まれる可能性があるので、防備を固めなければ」


本国へ撤退するオランダ軍。


ピュートルは頭を抱えた。

そして「サポート無しで単独で戦えってかよ。補給とかどーすんだ」

「略奪でもしますか?」とイワン将軍が具申。

ピュートルは「この規模の軍を支えるなら、それなりの規模の都市が拠点として必要だぞ」


あれこれ悩んだ末に、ピュートルは言った。

「近くにハンブルグがある。あそこを拠点にしよう。そもそもドイツ諸侯は皇帝の臣下で、ドイツ皇帝は今でも同盟国だ」



ロシア軍は二州を放棄してハンブルグに進軍した。


そしてピュートルは、ハンブルグ伯に受け入れを迫る。

「ドイツ皇帝の同盟軍として、ここを我々の拠点とする」

「お断りします。我々は独自の行動を認められている」と、ハンブルグ伯は拒否。


イワン将軍が「入城、拒否られちゃいましたけど」

「こうなったら速攻で攻め落として城を奪うまでだ」とピュートル帝。



ロシア軍はハンブルグを包囲して攻城戦を開始。だが・・・。

「何でこんなに防御魔法が厚いんだよ」

そう愚痴を言うピュートルに、参謀は言った。

「これ、魔導士が30人は居ますよ」


ハンブルグ伯の本陣には、アーサーとファフが居た。

防御魔法の展開に参加中のアーサーに、ハンブルグ伯は言った。

「助かりましたよ。英仏軍からこんなに魔導士を貸して貰えるなんて」

アーサーは「本隊が来るまでの時間稼ぎですから」

「一度に30人乗るのって狭かったよね」とファフも・・・。



やがて連合軍本隊がハンブルグに迫り、ロシア軍は東へ撤退した。

連合軍はハンブルグに入城し、撤退するロシア軍への追撃に入る。

作戦会議で余裕顔のルイ王。

「あまり追い詰めると、向こうも玉砕覚悟で被害が大きくなる。国境まで距離がある。補給を妨害しながらじっくり締め上げてやれ」



その時、報告が入った。

「リューベックから連絡です。ロシア軍の一隊が、秘密裡に行動していたロシア艦四隻に乗って海上へ逃れたそうです」

「ピュートル皇帝、乗ってるよね?」とエンリ王子。

「本隊を囮にして皇帝を逃がしたって訳かよ」と唖然顔のヘンリー王。

カール王子が「あそこじゃ兵隊は畑で獲れるっていうし・・・」


タルタが「ロシア人一般はともかく、ピュートルってそんな奴だっけ?」

「皇帝が逃げるだけなら、一隻の方が目立たないよね?」とアーサー。

デンマルク公が「まさか反撃して一発逆転でも・・・」

「この戦争でそんな成果の上がる逆転ステージなんて無いぞ」とルイ王。

エンリ王子が言った。

「いや、ノルマンの首都。あそこは今、ガラ空きだぞ」



その時、また報告が入った。

「大変です。ノルマンの港に四隻のロシア艦が現れ、港に上陸を開始したと。グスタフ王が市民兵を率いて防戦中との事ですが、長くは保ちそうにありません。すぐ救援を」


「やっぱり」と、その場に居る全員が顔を見合わせる。

カール王子、必死な表情で「直ぐにイギリス・スパニアの艦隊で兵を乗せて救援に」

「間に合うかなぁ」とヘンリー王。

するとエンリ王子が「俺たちの船ならファフに牽引させる事も出来る」

「私も乗せて下さい」とカールは縋るような目でエンリに言った。



エンリたちの船にノルマン騎士団を乗せられる限り乗せると、ファフのドラゴンが牽引して全速でノルマンを目指した。

「もっと早くなりませんか?」

そう訴えるカール王子に、ファフは「精一杯だよ」

するとアーサーが「風魔法で追い風を吹かせますか?」

リラも「なら、私が海流で」


エンリは言った。

「アーサーとタマもそっちに回ってくれ。風は俺が受け持つ」

リラ・アーサー・タマが水魔法で海流を作って船を進める。


エンリは風の魔剣を抜き、大気との一体化の呪句を唱えた。

大気と一体化した魔剣が、帆の背後からの気流を導く。


船の速度がどんどん早く進み、まもなくノルマンの港が見えた。



港の岸壁に船を横づけにする。

先を争って下船するノルマン騎士たち。そして彼等は壮絶な戦いの中に飛び込み、敵軍に切り込む。


そしてエンリたちもロシア兵に立ち向かう。

鋼鉄砲弾で敵中に飛び込み、部分鉄化で斧をふるうタルタ。

ジロキチ、カルロ、若狭、カールと並んで魔剣を振るうエンリ。

ファフはドラゴン化するが、混戦状態の中でそのパワーを思うように発揮できない。



そんな中でエンリたちは、先端を尖らせただけの簡素な長槍を構えて集団で固まって抵抗する市民兵たちの、異様な様子に気付いた。

彼等はそこに居る敵に切り込んで排除し、市民兵たちと合流した。

「どうなっている?」

そう市民兵に問うカール王子に、彼等は目に涙を浮かべて「カール様、グスタフ様が、国王陛下が・・・」

「父上がどうした」とカール王子。

市民兵の一人が「戦場で倒れたと」

カールは愕然とした表情で「何だと。父上はどこに」

市民兵たちは言った。

「城門の前で大臣たちと共に先頭に立って、壮絶な最期を」

「父上・・・」



打ちひしがれるカールを見たエンリは、上空に居るドラゴンに号令した。

「ファフ、俺たちを乗せて飛べ」


エンリとカール、そしてアーサーを乗せて戦場の空に舞うファフのドラゴン。

城門前の味方の一団の中に、担架の上で横たわるグスタフ王が居た。


舞い降りるファフの背中から、転げ落ちるようにカールは地上に降りて、担架に駆け寄る。

「父上!ーーーーーーーーーーーー」

「カールか。こ・・・腰が痛い」と、担架の上のグスタフ王。

「はぁ?・・・・・」


呆気にとられるカールに、グスタフ王は言った。

「ロシア兵の奇襲と聞いて、役人たちを鼓舞して防衛の先頭に立とうと、ここまで来た所で腰痛が。ノルマン騎士の見本たろうと神が与えて下さった機会なのに、実に残念」



エンリも呆気にとられた表情で「じゃ、戦死って、ただの勘違い?」

「伝言ゲームって奴か?」とカール王子。


「けどあれ・・・」

そう言ってアーサーが指す戦場では、戦い続ける騎士と市民兵の間で伝言ゲームは続いていた。

「敵を指揮するロシア皇帝に一騎打ちを」

「千本の矢を受けて立ったまま息絶えたと」

「城の最上階で百人のロシア兵と道連れに」


どんどん大袈裟になる武勇伝。

「王に続け」を合言葉に異様な熱気の中、女も老人も武器を執って戦場に飛び込む。


そんな市民兵たちの前に一人の騎士が立って叫んだ。

「グスタフ陛下の最後のお言葉を伝える。我が屍を踏み越えて前進し、ノルマンの栄光を掴め。王は全てのノルマンの民の明日を背負い、ヴァルハラへと続く戦いの道の先陣を切られた。ここは我等が神より賜りし聖なる地。これを荒らすロシア人を駆逐せんと、王は戦神トールの化身となられたのだ。今こそこれに続き、我等の大地を守る時ぞ。王に続け!」

怒涛の如く沸き立つ武器持つ群衆は、ロシア兵に向けて突撃。



他の仲間たちもエンリの元に集まり、話を聞いて唖然。


タルタが「どーすんだ、これ」

ジロキチが「いーんじゃね? 戦意高揚って奴なんだろ?」

カルロが「けどこいつ等、王様が生きてるって知ったら・・・」

「ま、俺ら外国人だし」とアーサー。

「後始末は俺たちの仕事じゃ無いよね」とタルタ。


そしてエンリは言った。

「それにさ、国を守るのも、守れずに侵略されて痛い目を見るのも、最後は王じゃなくて民衆自身だよ。だから本当は王様の生き死にとかの問題じゃ無いと思うぞ」

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