第195話 独立のデンマルク
ロシアに占領されたデンマルクを奪還すべく、氷魔法で凍結させた海峡を渡って首都コペンを奇襲したエンリ王子たち連合軍。
これを迎え撃つピュートルの近衛猟兵の市街戦における伏兵攻撃を、エンリは光の魔剣との融合により、敵の位置を掌握する情報戦を以て破った。
そして陥落真近のコペン城から、実質幽閉状態のデンマルク公の救出が急務となった。
猫の姿のタマを肩に乗せて、カルロはコペンの王城に侵入する。
タマの隠身魔法で姿を消し、ロシア将兵たちが撤退準備で混乱する中を、デンマルク公を探すダウジング棒を持って城の廊下を進む。
まもなくカルロはデンマルク公の部屋へ辿り着いた。
その部屋に居た男性に、カルロは「あなたがデンマルク公ですね?」
「君は?」
そうデンマルク公に問われて、カルロは名乗った。
「エンリ王子の部下でカルロと言います。イタリア最強のスパイにして、世界の女をモノにする絶世のイケメンで・・・」
タマが人化してカルロの後頭部を思い切りハリセンで叩く。
そしてデンマルク公に「いつまでロシアやプロイセンの玩具やってる気よ。さっさと脱出するわよ」
デンマルク公は辛そうに「カール王子の所に戻れと? 今更どの面下げて」
「そのカール王子から伝言です」
そう言って、カルロは記憶魔道具の映像を再生した。
映像の中で語りかけるカール王子。
「デンマルク公、俺は君を友達だと思ってたよ。けど、そうじゃ無かった」
「そうだよな。お友達が居ると思ってる奴は馬鹿だ」とデンマルク公は呟く。
「友達ってのは対等が原則だ。けど、ノルマンとデンマルクは対等の独立国じゃない。済まなかった。今まで友達面して、いろいろ酷い事をした」とカール王子。
デンマルク公は「カール、お前・・・」
「交換留学の寮でお前のプリンを食べてしまった」とカール王子。
「・・・」
「婚約者にお前の黒歴史をバラした」とカール王子。
「・・・だんだん腹が立って来たんだが」とデンマルク公。
「けど、過去を水に流して未来志向で」とカール王子。
デンマルク公、思わず「お前はデジュンとかいう、どこぞの半島国の大統領かよ」
カルロが「まあ、デンマルクも半島国ですけど」と口を挟む。
デンマルク公、カルロに「頼むから、あんな国と一緒にしないでくれ」
そして映像の中のカール王子は言った。
「これから対等の主権を持つ独立国として付き合ってくれるか?」
「主権国家の対等・・・」
デンマルク公はそう呟き、俯いてその言葉を噛締める。そして顔を上げて言った。
「カルロ君と言ったな。私を連れて行ってくれ」
「了解です」
その時、ドアが開いてロシア兵がドヤドヤと入って来た。
「デンマルク公、撤退準備が・・・、って、お前達は何者だ!」
そう叫んだロシア兵たちに、タマは攻撃魔法を放つ。
そしてケットシーの姿になってドアの外に飛び出した。
「敵のスパイだ。撃ち殺せ」
そう叫ぶロシア兵たちに向って、猫の姿のタマは、小さな体で廊下を跳ね回って銃弾をかわしながら、風の矢を連射する。
おろおろするデンマルク公に、カルロは言った。
「大丈夫です。俺もあいつも強いです。それより、そろそろ迎えが来ます。壁際から離れて下さい」
窓際の壁が破壊され、開いた大きな穴からドラゴンが覗き込む。
そして「迎えに来たよ」
カルロ・タマ・デンマルク公を乗せたドラゴンが城を離れた。
ピュートルは残った兵とともにコペンの城下を撤退し、ヘルシンゲアに居る部隊と合流。
そしてコペン南の海岸のロシア軍主力・オランダ・ドイツ皇帝軍と合流した。
エンリたちは、救出したデンマルク公を連れて、カール王子の元へ。
「カール王子」
そう言って俯くデンマルク公に、カールは「済まなかった。プリンとか黒歴史とか」
「そういうのはいいから、それよりこの国の独立の話を」とデンマルク公。
カールは「そうでしたね。とりあえずロシアと結んだ条約は?」
「もちろん破棄します」とデンマルク公。
「我々と一緒に戦ってくれますか?」とカール王子。
デンマルク公は「もちろんです」
ロシア軍による拘束を脱したデンマルク軍は連合軍と合流。
そしてデンマルク全土への命令系統を回復した。
デンマルク公を加えて、連合軍の作戦会議。
デンマルク公が状況を説明する。
「彼等はオランダ・ドイツ皇帝軍と合流した後、ユトランド半島に移動しました。そして南部二州へ、つまりそこでプロイセンと合流するようです」
「ロシアとプロイセンは我がフランスに続くユーロの二大陸軍国」とルイ王。
「そうですね」
そうカール王子が相槌を打つと、ルイ王は「それで、我がフランスに続くユーロの二大陸軍国の彼等とどう戦うか」
「そういう枕詞は要らないから」とエンリが困り顔で言う。
その時、いつの間にか会議に加わっていたスパニアのイザベラ女帝が発言。
「けど、向こうにはドイツ皇帝というお荷物が居るわ」
エンリ、唖然顔で「イザベラ、何でここに?」
「こんな面白いイベントに参加しないのは勿体ないでしょ?」とイザベラ。
「面白いって・・・」と、エンリは困り顔で・・・。
イザベラは「つまり、彼等を仲違いさせればいいのよね?」
「何か奥の手があるの?」とエンリ王子。
「まあ見てなさい」
イザベラはそう言うと、通信の魔道具を取り出して、ドイツ皇帝に連絡。
「御機嫌よう、テレジアドイツ皇帝陛下」
「御機嫌よう・・・じゃないわよ、この名誉男性が! どの面下げて・・・。しかも今、私たち敵同士よね?」と、通話魔道具の向うから、思いっきり喧嘩腰のテレジア女帝。
するとイザベラは「その事なんだけど、スパニアは連合を離脱して、そっちに付くから」
「へ?・・・」
イザベラは言った。
「だって、こっちにはフリードリヒが居るのよ。あの男って気は効かないしセクハラ連発するし靴下は臭いし趣味はキモいし、おまけにオラオラ系で女を馬鹿にして、どこの九州男児よ」
テレジアは「そ・・・そうよね、あんなの女の敵よね」
「それで、スカートの同盟を復活しようと。そっちにはエリザベータ女帝も居るのよね?」とイザベラ。
「元女帝・・・だけどね」とテレジア。
イザベラは「それでシレジア、取り返したくない?」
「・・・」
イザベラは言った。
「フリードリヒ、今、デンマルクに居るわよ。軍の主力を連れて、のこのこドイツの反対側に来てるの。チャンスだと思わない? 今、私たちが合流すれば、シレジアはおろかベルリンだって占領できちゃうわよ」
「けどドイツ皇帝軍もそっちに居るんだけど」とテレジア。
イザベラは「引き上げちゃいなさいよ」
「そ・・・そうよね」とテレジア、その気になる。
「人間の半分は女よ。そして男は闘争本能剥き出しで互いに争って。私たち女が結束すれば、女尊男卑の世界を創って男は奴隷よ」とイザベラは語る。
「そ・・・そうよね。男なんて死んじゃえ」とテレジアは気勢を上げた。
通話の魔道具を置くと、イザベラは笑いながら言った。
「ざっとこんなもんよ。あの女、これでスパニアの助けを期待して、プロイセンに戦いを仕掛けるわよ。フリードリヒは軍を引き返して応戦せざるを得ない。せっかく密約を結んでロシアが味方につけても、これでパーね。当然、密約もパーだから、プロイセン側のドイツ諸侯も敵に回る。皇帝の味方してこの連合と戦う諸侯なんて居ないから、ロシア軍は敵地の中を逃避行よ」
「こ・・・怖ぇー」と、その場に居る一同は、一様に呟く。




