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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第193話 氷結の上陸戦

ロシアに占領されたデンマルクを奪還しようと、艦隊を組んで戦場へ向かうエンリ王子と、その同盟国の大艦隊。

海峡で立ち塞がるオランダ艦隊を突破し、首都コペンに向かう海峡入口で、彼等を迎え撃つ敵の超長距離砲の撃破に成功した。



エンリとアーサーを乗せてタルタ号に戻るファフのドラゴン。

通信の魔道具で同盟艦隊の首脳と話し合う。

「やりましたね」とエンリを労うカール王子。

エンリは「このまま上陸して港を占領しますか?」

するとヘンリー王が「いや、艦砲射撃で沿岸砲を沈黙させたら、一気に海峡を推し通ろう」


この時、エンリの脳裏に不安が過った。

(奴らはファフへの対抗策をとった。向うにだってドラゴンは居る。何故リバイアサンを出さない。撤退したオランダ艦隊が戻って来て退路を断つつもりではないのか?)

エンリはアーサーに命じ、鴎の使い魔を後方に偵察に出す。


間もなく報告が来た。

「オランダ艦隊、戻って来ます」

報告を聞いたヘンリー王は「退路を断ってこちらを全滅させる気だ」

「けど、それって海峡への突入に追い込むって事ですよ」とカール王子。

エンリは「海峡を突破させない自信があるんだ」



そしてエンリは隣に居るリラに「海峡入口の海中はどうなってるか、確認してくれ」

リラは魚の使い魔を海峡入口に向かわせる。


間もなくリラの魚たちは、海岸に隠されている緻密な防備網の情報をもたらした。

沿岸に多数の小型船が大砲を積んで隠れている。その周囲に多くの魚人。海中には小型船を牽引する使い魔らしき怪魚。

報告を聞いたエンリは「厄介な防衛体制だな。海峡の入口の海中は?」

「海底からたくさんのロープが水面に向って伸びています」とリラ。

「ロープの先には?」

そう問うエンリに、リラは「海面の少し下の所で丸い浮きのついた物が・・・」

エンリは呻くように言った。

「爆雷だ。そんな所に下手に突っ込んだら全滅するぞ」


連合各国に連絡するエンリ。

「引き返しましょう」とスパニア艦隊の将軍。

「プランBだな」とヘンリー王。



連合艦隊の退路を断とうと立ち塞がるオランダ艦隊。その前面にリバイアサンが出現した。

それを望遠鏡で捉えたカルロは「あいつはファフじゃないと倒せませんよ」

「いいさ。このまま奴を倒せ。俺たちで手を貸して速攻で片づけてやる」とエンリ王子。


再びファフはドラゴンになる。

アーサーが呪文を唱え、ドラゴンの剣と楯を召喚。

その頭の上にエンリとアーサーが乗り込んで、翼を広げて空へ、そして海上のリバイアサンの目の前へ。


リバイアサンの闇の波濤を楯で防ぎ、剣で切りつけるファフ。激しく剣で切り結ぶ二体の巨龍。

ファフの頭上でエンリは炎の巨人剣を伸ばし、リバイアサンの右目を突く。

叫び声とともに口から炎を吐くリバイアサン。それをアーサーが氷の楯で防ぐと、エンリは炎の巨人剣で残った左目を突いた。

両目を失ったリバイアサンは消滅した。



陸上から盛んに放たれる遠距離攻撃魔法の支援を受け、退路を塞ぐべく横長の陣形をとるオランダ艦隊。

背後からは魚人が乗り込んだ小型船が怪魚に牽引されて発進し追撃をかける。


連合側の艦隊は中央突破のため紡錘陣形をとり、速度を上げてオランダ艦隊に突入。

その先端にドレイク艦隊。その正面に立ち塞がるゴイセン海賊艦隊。

ゴイセンの旗艦に向けてドレイクは「今日で俺が勝ち越しだ」

ウィル団長は「それはこっちの台詞」


ドレイクは部下に「乗り込んで切り込むぞ」と号令をかける。

投石器を出してドレイクと数人の部下を空中に射出。

ゴイセン海賊団の旗艦に飛び込み、大剣を持って待ち構えていたウィル団長と激しく切り結ぶドレイク提督。

大砲を乱射しながらドレイク号が突入し、ゴイセン旗艦と接触。

その衝撃でウィルが体勢を崩した隙にドレイクは大斧で甲板をぶち破り、ファイヤーボールを放り込む。

そして部下とともにドレイク号に飛び移った。



次々に突入してくる連合側の艦船。

海中からはドレイクのクラーケンが触手を伸ばす。

敵味方が召喚した何体ものウォータードラゴンが鎌首を上げて互いに噛み付き合う。


タルタ号では、ファフはエンリとアーサーを船に降ろすと、上空から炎を吐いて支援。

そして大砲を乱射するオランダ艦船の群れに突入。

アーサーの防護魔法で船の正面を守り、右舷はリラが、左舷はタマが防護魔法を受け持つ。

エンリが炎の巨人剣を近づく敵艦に振り下ろす。

タルタが鋼鉄砲弾をお見舞いし、ニケが大砲を連射。


連合側は包囲を脱してノルマン半島側のノルウェー公領へと撤退した。



去って行く連合艦隊を見ながら、オランダ海軍ロイテル提督は呟いた。

「陸上ルートでコペンの対岸から海を渡る気だな」

「この期に乗じてイギリスの海軍を叩き潰しましょう」

そう進言する参謀に、ロイテルは「いや、我が方もかなり損害を受けた。それに、敵にはスパニアもポルタも、ついでにフランスも居る。何より、敵が海峡を渡るなら、我が海軍はそれをノルマン海で迎え撃つ事になる。そうなればノルマン海に自由に入れる我々が有利だ」


ロイテルはノルウェーの港での連合軍の動きを探らせ、やがてその主力がノルマン方面へ向かったとの情報を掴んだ。

「やはり敵はジェラン島東側の海峡を渡る気だ。問題はそのための艦隊をどうノルマン海に入れるか、だな」


ロシア軍とオランダ軍で作戦会議。

「ジェラン島西側の迂回ルートもあります。ここで待ち伏せて今度こそ」とロイテルの参謀。

「けど、ノルマン海にもイギリス海軍の別動隊とノルマン海軍が居ます」とロシア艦隊の提督。

ピュートルは「海峡を渡るとしても、コペンの港とその周辺には高い城壁があるが」

「いや、城壁はジェラン島の東側全てを守っている訳では無い。コペンの南の海岸線に上陸するという手もあります」とロイテル。



ロイテルはジェラン島の西側に艦隊の一部を残す。

そして主力をノルマン海に入れて、海峡南側での上陸戦に備えた。ロシア軍の主力はコペン南での上陸阻止のため布陣。


やがて、彼が予想していた通りの情報がもたらされた。

「ノルマンの港から艦隊が出撃しました。多くの商船も動員されているとの事」

「上陸用でしょうね」とロシア軍の主力を預かるイワン将軍。

「こちらはオランダ海軍の主力。奴らの主力は海峡の向こう側に居て、あの爆雷に阻止されている」

そう言って自信を示すロイテルは、有利を確信しつつも一抹の不安を感じた。


彼は脳内で自問自答する。

(あれは本当に突破不可能なのか。彼等も我々がそう思って安心していると見ているに違いない。だとすると、恐らく彼等は何らかの方法で突破を試みる筈だ)

ロイテルは艦隊の一部をエーレソン海峡を北に移動させ、爆雷海域の奥に配置した。



その頃、人魚姫の背に乗ったエンリ王子が海中を南に向っていた。

向かう先はエーレソン海峡北側入口。かつて海峡突破を試みて撤退したあの戦場だ。

数匹の魚の使い魔を先行させ、海峡入口に潜入。

海底から上に向って伸びている無数のロープの根本を、エンリは水の巨人剣を抜いて薙ぎ払う。

係留していたロープが切れて、爆雷は海面に浮上。


異変を察知して海に飛び込む敵の魚人。

それを察知した魚の使い魔がリラに警告を発する。

「ファフ、出番だ」

そのエンリの号令に応え、ファフのドラゴンがノルマン海側の岸から飛び込み、魚人たちを蹴散らして水中を驀進。

そして「主様、助けに来たの」

「海面に浮上して爆雷を焼くぞ」

そう号令したエンリとリラを乗せて、水面から離水したファフは、低空を飛びながら海面に炎を吐き、爆雷は次々に誘爆した。


やがて味方の連合艦隊が再び海峡入口に現れ、沿岸の砲台と大砲を積んだ小型艇に艦砲射撃開始。



コペン南に展開しつつあるノルマン・イギリスの艦隊と睨み合うロイテルの元に、海峡北入口の戦況が届く。

「奴らが爆雷を突破して海峡に突入して来ます」

「大丈夫だ。狭い海峡では数は生かせない。爆雷水域の奥の待機艦隊に連絡しろ。待ち伏せして撃破せよと」

そう指令を下すロイテルは、報告の続きを聞いて唖然。

「それが奴等、海峡入口のヘルシンゲアの港に上陸を」

「何ですとー」


ロイテルは焦った。

「陸軍の主力はコペン南岸の防衛に出払っていて、あそこにはろくな兵力が残ってないぞ」

参謀は「コペンを守ってるロシア軍に迎撃に出て貰うしか無いかと」

「だが、コペンが手薄になる」

そう言って頭を抱えるロイテルに、参謀は「海峡の南も北も我等が抑えて、コペンへの直接上陸に必要な艦隊は敵にはありません」

「解った」


指令を下しながらロイテルは感じた。

(何かがおかしい)


ロイテルは部下に「ヘルシンゲアに上陸した敵の中にドラゴンは居るか?」

部下は現地の連絡員に確認をとる。

「居ないようです」

ロイテルは部下に「上陸艦船の中にドレイク号は?」

部下は現地の連絡員に確認をとる。

「居ないようです」


ロイテルは脳内で呟いた。

(つまり、奴等はまだ切札を出していない。きっとそこは本命では無い。だとすると・・・)



その頃、コペンの街を取り巻く城壁の海に面した櫓で監視を続けていたロシア兵が、海峡に異変を感じた。

「何だあれは」

目の前の海がみるみる凍っている。

対岸のノルマン領の岸では、氷魔法を得意とするドレイクの部下の魔導士が呪文を唱えている。

アーサーとリラ、その他多くの従軍魔導士たちもサポートし、強力な魔力による氷魔法がコペンの城壁に面した海面を完全に凍結させた。


連合軍を指揮する王たちは全軍に指令を下した。

「よし、海面は完全な氷床となった。今なら歩いて海峡を渡れる。一気に城壁を落とすぞ。突撃!」

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