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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第189話 炎のドラゴン

ついに始まった北方戦争。

北のフィンランド戦線では、山岳猟兵が活躍する中でロシア軍を相手にエンリたちが気楽な戦いを続ける間、南のバルト戦線では、連合軍はロシア本隊とタリンの街の攻防戦を繰り広げていた。

そして投入されたピュートルのファイヤードラゴンに対抗するため、エンリは救援を求められた。

リラのウォータードラゴンで相手をするつもりで来援したエンリたちは、実は強力なファイヤードラゴンを相手にウォータードラゴンがあまり役に立たないと知る。


「まあ、あれは並みの魔導士でも召喚出来るからなぁ」とエンリ王子。

「アーサーでも出来るもんね」とタルタ。

落ち込むアーサー。

「ファフ、頑張る」

そう気勢を上げるファフに、エンリは「けど、ファイヤードラゴンが吐く炎は火力が違うぞ」

ファフは「楯で防げると思う」

エンリは言った。

「なら、俺を頭の上に乗せて戦え。氷の巨人剣なら効く筈だ」



ドラゴンの姿のファフが空中から接近し、楯で炎を防ぎつつ剣で切りつけようとするが、炎の勢いが強くて、なかなか近付けない。

一緒に乗ったアーサーとリラとタマが氷の楯で炎を防ぎ、エンリが氷の巨人剣で切り付け、必死に敵の炎の体を削る。


やがて、飛び散る炎が民家に燃え移った。

「大火事になっちゃったよ」とタマ。

「今は戦時です。焼き討ちという例もありますし」とアーサー。

するとリラが「けど、家を焼かれた人たちに罪は無いと思います」


エンリは号令した。

「よし、ファフ、あの火事に近付け」

「消火ですか?」

そう疑問顔で言うアーサーに、エンリは「いや、もっといい方法を思いついた」



ファフはファイヤードラゴンから離れて、燃え盛る家並みに近付く。

リラが「あまり近づくのは危険ですよ」


エンリは氷の剣を収めて炎の巨人剣を抜いた。

「消すんじゃなくて火事の追い打ちですか?」とアーサーが唖然顔で・・・。

「まあ見てな」

そう言うとエンリは、燃え盛る火災の炎に、炎の巨人剣を突き立てた。


そしてエンリは一体化の呪句を唱えた。

「我が炎の剣よ。ミクロなる汝、マクロなる大火と繋がりて、ひとつながりの我が剣たれ。活動たる汝は自在の変幻。その姿最強を示すは武神の星たる本懐ならん。汝の欲する所を成すべく我が手に龍たる姿を示せ。炎龍あれ!」


大火の炎は剣を突き刺した場所へと収束し、焼けかけた街中より天に向かって炎は立ち上り、巨大な陀竜の形を成して咆哮した。



巨人剣と一体となったそれを、エンリはピュートルのファイヤードラゴンへと向け、その炎の龍は身をうねらせて襲いかかる。

絡み合い格闘する二頭の巨大な炎の龍。

エンリが炎竜の尻尾と繋がった剣を天に向けるとともに、二頭の炎竜は宙に浮き、そのまま海へ。

激しい水蒸気爆発とともに膨大な蒸気が立ち上り、二頭の炎竜は相打ちとなって消滅した。


食料不足で弱っていたロシア兵たちは、頼みのファイヤードラゴンの消失により戦意を喪失。

敗北を悟ったピュートルは撤退の号令を下した。

密集隊形を組んで正門周辺の連合軍を突破し退却するロシア軍。


エンリは各国の司令部に具申を送った。

「深追いはしないように、各隊に徹底させましょう。寄せ集めの我が軍が各隊の思い付きで行動したら、思わぬ返り討ちに遭います」



ロシア軍は補給の届く国境近くの農村に布陣し、衝突を避けて連合軍と睨み合う。

プロイセンの囚人騎兵がロシア軍にゲリラ戦を仕掛ける。


襲撃して損害を与え、ロシア軍が反撃体制に入る頃を見計らって撤退する囚人騎兵。

追撃するロシア軍部隊を、寒さに慣れたノルマン騎士団が迎え撃つ。

ロシア側が反撃された部隊を救うべく増援を送ると、エンリたちの遊撃隊が増援部隊を攪乱し、その間に駆け付けたフランス小銃歩兵隊が包囲し銃撃。

その救援に差し向けられたドイツ魔導士官の召喚オーガ隊を、ファフのドラゴンが蹴散らす。


潰走状態で辛うじて逃げ延びたロシア士官は、ピュートルにこっ酷く叱られた。

「軽率な深追いは控えろと何度言ったら解るんだ」

「ですが皇帝陛下。このままでは削られる一方です」と、困り顔で弁解する士官。

ピュートルは溜息をつくと「拠点の砦でも造るか」



ロシア軍は周囲に防柵を巡らせた砦を築いて守りを固めた。

そして、ちょっかいを出しにくくなったプロイセン囚人騎兵は、周囲の農村で略奪を始めた。

連合軍の元に苦情が殺到する。


エンリ王子と一緒に、フリードリヒ王の天幕へ苦情を言いに行くカール王子。

「どうにかして下さい。現地民に嫌われたら、バルトの領主だってそう保ちませんよ」

フリードリヒは涼しい顔で「そんなの秘密警察で弾圧すればいいだけだ」

そんな彼にエンリは困り顔で「そーいう危ない発想はいい加減卒業してくれ」


フリードリヒは言った。

「まあ言い聞かせはするが、あまり期待しないでくれ。なんせ奴等は元々犯罪者だからな」

エンリは溜息をついて、脳内で呟いた。

(期待されてないのはフリードリヒ自身なんだが)



フリードリヒの天幕から出ると、エンリはカールに言った。

「けど、どうしますか? このままじゃ領主が敵に寝返るって事もありますよ」

「それは有り得ない。彼等と我々は血の友誼で結ばれている」と、ドヤ顔のカール。

エンリは溜息をついて「いや、王のあるべき姿は、そういうお友達関係より、民の"国民としての利益"を優先する事です」

「そんな道徳は私だって弁えている」とカール王子。


エンリは言った。

「これを道徳だと思ってる時点で、あなたは過去の遺物ですよ」

「では彼等は何を求めていると言うのですか?」とカール。

エンリは「独立ですよ。自らが国民としての自らの利益を追求し、国民という集団が利己主義によって行動する権利」

カールは「利己主義は悪徳です。他人を優先する利他こそ美徳だ。だから君主は率先して他人たる国民のために・・・」

「それは、目の前に居る他人に対して"あなたはあなた自身ではなく他人である俺を優先しろ"と言っているのと同じです。それは美徳ですか?」

そうエンリに言われて、カールは「それは・・・」



連合軍の作戦会議で、エンリ王子は提案した。

「総攻撃をかけよう。そして早いうちに終わらせましょう」

ルイ王は「ですが、冬が終われば寒さに弱い我々が有利になる」


すると「いや、終わらせましょう。冬が終われば農繁期だ。兵たちを戦場に縛り付けておく訳にはいかない」

そう発言したカールにフリードリヒは「カール王子、あなたは"お花畑"という言葉を御存じか?」

カールは言った。

「いえ、私の頭はお花畑ではなく小麦畑です。農繁期で蒔くのは麦の種ですから」

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