第181話 聖槍の英雄
ドレイク海賊団の総攻撃が始まり、エンリ王子たちとビンランド村のトルフィンたち、そしてノルマンのカール王子が呼んだ手勢の加勢で、とりあえず海賊軍の攻勢を凌いだケベック植民市の砦。
一旦敵の攻勢が止んだ隙に、負傷者を手当する。
正門内側の広場では、ソルがドレイクとの戦いで傷ついたトルフィンに治癒魔法をかけている。
治療が済むと、ソルはトルフィンに言った。
「私も戦います」
トルフィンは「駄目だ。君は俺が帰る場所だ」
ソルは「トルフィンが死んだら意味が無い。私だってあなたを守りたいの」
「奴らは俺の故郷の仇だ。これは俺の報復のための戦いだ。君の戦いじゃない」とトルフィン。
「けど、トルフィンは私を守りたいよね?」と、ソルは物欲しそうな目で訴える。
「そうだ。だから・・・」
そう言いかけたトルフィンに、ソルは言った。
「だったらこれは報復じゃない。私たちの故郷を守る戦いなの。あなたは私を何から守る? 敵から? けどそれじゃ私を幸せには出来ないよ。飢えからも寂しさからも、全てから守るの。そのために居場所があって、みんなが居るの。みんながみんなを守るの。トルフィン。あなたはその中で私を守ってくれている。私も同じよ」
その時、カールが持つ剣が反応して光を発した。カールはその剣を抜き、セルに翳すと、剣の光は強まった。
「君はセルさんと言ったね」と、カールはソルに・・・。
「はい」
そう答えるソルに、カールは「君はワルキューレなのか?」
トルフィンは「そんな筈は無い」
だがソルは「いいえ、多分私はそうだと思います。天馬が引く戦車に乗って空を翔る夢を何度も見ました」
カール王子は言った。
「実は私がここに来た目的の一つは、グングニルの使い手を助けるワルキューレを探す事なんだ。そしてこれはワルキューレの剣だ。君はおそらく生まれながらのワルキューレなんだ」
タルタが怪訝顔で「あれって養成学校で育てるんじゃないの?」
ジロキチが「世の中には形骸化ってものがあるからなぁ」
アーサーが「そもそも聖槍の使い手を助けると言っても、聖槍自体が偽物だったものなぁ」
落ち込むカール王子。
そんな中でトルフィンはソルに言った。
「けど君は俺が守る相手だ。それが戦乙女として戦いの先頭に立つなんて」
「そういうの最近流行らないけどね」とカルロ。
カールはトルフィンの肩に手を置く。
「トルフィン君。ラグナロクで先頭に立つのは、勇戦して戦死しヴァルハラに招かれた戦士だよ。ワルキューレはそれを導き助ける存在だ。グングニルはワルキューレによって本来の力を発揮するんだ」
リラが「だからあの洞窟の12人のワルキューレさん達・・・」
エンリが「あの婆さんたち」
タルタとジロキチとアーサーが頭を抱えて「せっかく忘れてたのに、思い出しちゃったよ。戦うヒロインのイメージがぁ」
カール王子はワルキューレを叙任する儀式を行う。
魔法陣の中央で向き合うセルとトルフィン、そしてカール王子。
カールはワルキューレの剣をセルの肩に翳し、叙任の呪句を唱えた。剣に幾つもの古代文字が浮かぶ。
カールはセルに剣を授け、セルはこれを、聖槍を掲げ持つトルフィンの肩に翳して、叙任の呪句を唱えた。
トルフィンの槍とセルの剣を交差する。
セルは頭に浮かんだ召喚の呪文を唱えた。
そして剣で地上を指して、もう一つの魔法陣を描く。
一頭の天馬とそれが引く馬車が召喚された。そして天馬は言葉を発した。
「我は太陽の戦車アルスヴィズ。太陽神のワルキューレ、汝の名はセル。これよりあなたに聖槍の呪法を授けます」
セルは頭に浮かんだ呪句を唱えた。
「汝神の槍。魔王を貫く宇宙の怒りよ。汝の名はゴッドランス。我が太陽の右手に顕現せよ」
頭上に掲げたセルの右手に浮かんだ古代文字が光となり、ゴッドランスが召喚された。
セルは右手のゴッドランスをトルフィンが持つ聖槍と交差し、呪句を唱える。
「光に宿りしゴッドランスよ。汝に真の依り代を授けん。依り代の名はグングニル。霊体なる汝、実体たるグングニルとひとつながりの槍となり、万人を守る柱となれ。聖槍合体」
ゴッドランスの光がグングニルに吸い込まれ、その槍身に古代文字の列が浮かぶ。そして今までに無かった光を放つ。
「これが本当の聖槍か」とカール王子が呟く。
「すげー」とエンリも・・・。
その時、正面門の上の櫓から「ドレイク隊、動き出しました」と報告の声が上がる。
ドレイク提督が正面門に向って来る。少し離れて彼の部下たちが続く。
そんな彼等を見て、エンリは「また特攻かよ」
鉄砲の一斉射撃でドレイクに集中砲火。だが全て弾き返された。
「やっぱりあの人は化物だな」とタルタ。
だが、タマは「けど、ちょっと変だよ」
アーサーとタマが魔法攻撃の連射を浴びせる。だがドレイクはびくともしない。
エンリが櫓の上から炎の巨人剣を振り降ろす。それをドレイクは右手で受け止めた。
「火傷するぞ」とカルロ。
アーサーは「いや、あれは身体強化の魔法です」
ドレイクは櫓の上のエンリを見上げてニヤリと笑い、その右手は蒸気を発しながら、長く伸びた炎の剣身を握り砕いた。
巨人剣の炎の剣身は消滅し、元の魔剣に戻る。
ドレイクは拳で正面門を破壊し、背後の部下たちに向けて叫んだ。
「突撃だ」
エンリたちがドレイクを取り囲むが、彼の正面に立ち塞がる部分鉄化のタルタをドレイクは殴り飛ばす。
そしてその背後からなだれ込もうとするドレイクの部下たち。
トルフィンはドレイクの前に立ち、光を放つ聖槍を持って叫んだ。
「こいつは俺がやる。他の奴らを入れるな」
櫓の上からはニケが「城壁に居た奴等もこっちに来るわよ」
「彼等は私が空から押えます。誰か攻撃役をお願いします」
そう言ってセルはアルスヴィズの戦車に乗って手綱を握る。リラがその戦車に乗り込んだ。
海賊たちの頭上を飛ぶ戦車の上からリラの水魔法攻撃。
ファフのドラゴンが海賊たちを襲う。
正面門から乗り込んで来たドレイクの部下たちに立ち向かうタルタ、ジロキチ、若狭、カルロ、エンリ王子。そしてカール王子と騎士たち。
ニケは鉄砲隊とともに櫓の上から後続の海賊兵を狙い撃つ。
ドレイクは大斧を振り回してトルフィンに切りつける。
その斧を掻い潜って二本の短剣を振るうトルフィン。
聖槍はトルフィンに呼応するように、ドレイクの巨体の周囲を飛び回る。
そしてトルフィンはドレイクの背後に回って槍で一撃。
聖槍はその筋肉の壁を突き破って提督に深手を負わせ、ドレイクはついに倒れた。
「止めを刺せ。仇討ちなんだろ」
そう言うドレイクに、トルフィンは「もうそんなものに興味は無い。俺は俺の村を守るために戦うんだ」
「また戻って来るぞ」とドレイク。
トルフィンは「そしたらまた迎え撃ってやるさ」
砦の脇を流れるローレンス川からクラーケンの触手が伸び、傷ついたドレイクを掴んで、彼の部下たちとともに撤退した。




