第180話 攻防の植民市
海上でのエンリ王子との戦いに敗れて船を失ったドレイク海賊団は、バージニア植民地の船に救助されて西方大陸に上陸すると、陸上からケベック植民地攻略を目指し、ケベック側の川舟によるゲリラ戦を受けた。
ゲリラ戦に参加したエンリ王子は、参加兵とともに、川舟に乗って拠点に戻る。
「どうだった?」
そう問う仲間たちに「バッチリだよ。100人くらいは戦闘不能にしてしてやった」
ニケも「食料の方もね。彼等は燃やされた食料の補充が必要になるわ。それはニューアムステルダムの商人から買い付けるしかない。オランダ人はその足元を見て暴利を狙える・・・って談合で立てた作戦だもの。こっちも見返りの分け前貰えてお金ガッポガッポ」と、笑いが止まらないといった体。
「次、俺も行っていいよな?」とタルタとジロキチが声を揃える。
エンリは「あまり大勢で行って目立つと奇襲にならんぞ」
ソルが「トルフィン、私も行きます」
「君は後方に居てくれ」とトルフィン。
「私だって戦えます」
そう言うソルにトルフィンは「俺が帰る場所で居て欲しい。頼む」
エンリたちは進軍する敵に襲撃を繰り返し、ドレイク軍団を消耗させた。
川岸から離れた所で野営する襲撃隊。
夕食を食べながら、以降の戦いについて話す。
「これで諦めてくれればいいんだが」とビンランド村民兵。
「それは無い」とエンリ。
ケベック市民兵の一人が「敵は二千人以下だろ。こっちの市民兵はもっと居るぞ」
「数だけならね。けど一人一人の戦闘力は全然違うぞ」とタルタが言った。
「一人あたりの戦闘力なら俺たちだって負けないけどね。俺だってこの魔剣がある。炎で凄い攻撃力」
そうエンリが言うと、ジロキチがぽつりと「攻める事、炎の如し・・・だな」
エンリは「何だそりゃ」
「俺の故郷に居た領主と戦ってた武将の言葉ですよ」とジロキチ。
「なるほどな。けど攻撃力だけじゃない。風の魔剣で素早さMAX」とエンリ。
「早き事、風の如し」とジロキチ。
「他に何があるんだ?」とエンリ。
ジロキチは「動かざる事、山の如し・・・ってのもありますよ」
エンリは「山って大地だよな。どんな攻撃にもびくともしない。後は?」
「静かなる事、林の如し」とジロキチ。
エンリは「つまり敵に察知されないって訳か。けど、魔剣に林モードなんて無いぞ」
「いや、別にその魔剣について言った台詞じゃないんで」とジロキチ。
「そりゃそーか」
そんな事を話しながら、エンリはふと思った。
(そーいや、俺が大地の魔剣と一体化すると、どうなるんだろう)
度重なる襲撃を凌ぎながら、ようやくドレイク海賊団はケベック植民地が見える所に辿り着いた。
海賊兵の一人が万感の思いを胸に「あれがケベックの砦ですね」
「長かったなぁ」と、もう一人の海賊兵。
「やっと家に帰れる」と、更に別の海賊兵。
そんな間抜けな事を言い合う部下たちを見て、ドレイクは溜息をつき、言った。
「違うだろ、戦いはこれからだ。今までの分をまとめて返してやる」
向うに姿を現したドレイク海賊軍を砦の櫓の上から仲間たちとともに眺めるエンリ王子。
「来たか」
「いよいよですね」とアーサー。
街並みを囲む城壁と、頑丈な正面門。その上に櫓が建つ。
正面の門のこちら側には、カール王子と50人ほどの騎士が居る。
それを見てタマは「どうせならノルマンの正規軍とか連れて来れば良かったのに」
「ロシアの情勢が緊迫してるから、本国も手薄には出来んさ」とエンリ。
砦で待ち構えるのはビンランド村から来た数十名とエンリたち。そしてケベックの市民兵。
開戦とともに、双方の大砲が火を噴き、城壁に何発もの砲弾が命中する。
突撃してくる海賊軍の中には幾つもの攻城用の梯子。
「正面門の所に100人。他は城壁の右側と更に右側に主力が来ます。多数の攻城梯子も」
そんな展望台の市民兵からの報告を聞いて、エンリは「正面門は囮か?」
正面門に向かう敵を望遠鏡で見ていたカルロが「けどドレイク提督も居ますよ」
「総大将自ら囮役って訳かよ」とエンリ。
アーサーが「誘い出して門を開けさせようって作戦かも。あの人は一人でも突破力は強力ですからね」
エンリは「そんな手にひっかかる奴が居るかよ」
すると正面門が開き、カール王子が五十名の騎士とともにドレイクの手勢を迎え撃つ。
「あの単細胞が」とジロキチが呟く。
「トルフィンも居ますよ」とカルロ。
「人数が少ないからって甘く見過ぎよ」とニケ。
エンリは「けど、あそこで提督を倒せば奴等は撤退せざるを得ない。どっちみち見殺しには出来ん」
鎧に身を固めた騎士たちの先頭に立って、偽グングニルを振るうカール王子。
だがカールは、大斧を風車のように振り回すドレイクに圧倒され、騎士たちは猛者揃いのドレイク直属の海賊たちに押されまくる。
そんな中で、大刀を振り下ろすマッチョの一人を、背後から飛んできた槍が貫いた。
槍は倒れた海賊の体を離れて宙を舞い、二本の短剣を下げたトルフィンの手に戻る。
「ドレイクはどこだ」とトルフィンは叫んだ。
カール王子と戦っているドレイクを見つけたトルフィンは、斧を振りかざすドレイクに向って槍を投げた。
ドレイクは飛来した槍を斧で弾く。
「ドレイク、俺が相手だ」
そうトルフィンは叫ぶと、戦っているカールに言った。
「あんたは別の奴の相手をしてくれ。ぼやぼやしてると、あんたの騎士、全滅だぞ」
カールが近くに居る騎士の助けに入り、何人もの海賊を相手に槍を振るう。
そこにエンリたちが到着した。
ジロキチが炎と闇の刀を抜いて海賊を次々に倒す。
若狭が妖刀を抜いて、敵の大剣を真っ二つに。
エンリが炎の魔剣と一体化。タルタが、カルロが、海賊たちに切り込む。
トルフィンはドレイクの巨体の周りを瞬足で駆け、両手の短剣で攻撃を試みる。
ドレイクの巨体はそれに遅れる事無く、その斧はトルフィンの小柄な体を捉える。
その大斧を左の短剣で受け流して、右手の短剣を突き出す。ドレイクは左手で剣を抜いてそれを弾く。
ドレイクは「自慢の聖槍とやらはどうした」
「この戦い方だと長い槍は足を引っ張る」とトルフィン。
「いい判断だ。だが、そんな短剣じゃ俺は倒せん」とドレイク。
「そうだろうな。だから」
そう言うと、トルフィンは一瞬で敵の背後に回り込んで、頭上の空中に浮いていた聖槍を握った。
そして振り向いたドレイクの腹を渾身の力を込めて着いた。
だがドレイクの腹筋の壁がその穂先を阻む。
そしてドレイクは「空を飛べても固いものは貫けないぞ」
その時、櫓の上から正門前で戦っているエンリたちに、味方が呼びかけた。
「大変です。右奥向うの城壁が破られそうです。すぐ増援を」
エンリは「ここは引こう」とカールに呼び掛ける。
「だが今門を開けたら、閉じる前に突破される」とカール王子。
するとエンリは「俺に任せろ。しんがりは追撃に耐えられる奴の仕事だ」
タルタが「だったら俺が部分鉄化で」
「関節を狙われるぞ。こういう時にものを言う魔剣の遣い方があるんだ」とエンリは言った。
門が開き、味方勢が駆け込む。
そして、追撃しようとするドレイクたちの前に、エンリが立ちはだかる。
エンリは大地の魔剣を抜いた。
そして頭に浮かんだ呪句を唱える。
「俺は大地。あらゆる攻撃を跳ね除け微動だにせぬ屹立の巌」
巨大な岩山となって無数の兵を見下ろす自分をイメージし、一体化の呪句を唱えるエンリ王子。
「我、我が大地の剣とひとつながりの宇宙にて、万物を阻む絶対の不動なり。金剛あれ!」
ドレイクが振り下ろす大斧を、大地の魔剣との一体化で最強の防御力を得たエンリの体が余裕で跳ね返す。
周囲を取り囲む海賊たちが一斉に突き出す刃にも傷ひとつつかず、エンリは大地の剣を振るう。
それを大斧で受け止めて、ドレイクは「タルタの鋼鉄並みの硬さだな。だが門は閉じた。ここで俺たちに囲まれて何時まで保つ」
エンリは大声で言った。
「そいつは味方次第だな。防御MAXでお前等の攻撃を跳ね返すなら、味方の攻撃にだって耐えられるさ」
その意味を察したアーサーの指示で、門の上の櫓から鉄砲の一斉射撃。
多数の銃弾を浴びる海賊たち。
だが、一緒に銃弾を浴びるエンリは、これにも傷ひとつつかない。
門前の海賊たちは退却し、上から投げられたロープに掴ってエンリは引き上げられた。
突破されそうになっていた正面門右の城壁での戦いに、エンリの仲間たちが駆け付ける。
城壁の上に取り付いた海賊たちにジロキチと若狭が斬り込み、次々に追い落とした。
だが、城壁の下には多くの海賊たちが取り付いて、上からの銃弾を楯で防ぎ、城壁の上に鉄砲を撃ち込み、次々に梯子を上る。
タルタの鋼鉄砲弾が城壁下の海賊の鉄砲陣に炸裂。
登ってくる海賊をニケの銃弾が撃ち落とす。
アーサーとタマが攻城梯子をファイヤーアローで焼く。
若狭が城壁の下にひしめく海賊たちを見下ろして「まだあんなに居る」
「ファフ、ドラゴンで蹴散らしてくれ」
そうエンリに言われて、「了解」と一言言うと、ファフはドラゴンに変身し、城壁下の海賊たちに殴り込みをかける。
リラが召喚したウォータードラゴンも海賊たちを攻撃した。
海賊軍はひとまず退いて距離をとった。




