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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第178話 氷山のトラップ

アイスランドで、ドレイク配下の海賊が村人を虐殺して作った拠点を奪還したエンリ王子は、火山の精霊の助力でドレイク海賊団の襲撃を撃退した。

戦場を離脱したドレイクとその部下たちは、知らせを聞いたエリザベス王女が手配したイギリスの商船に収容され、ロンドンの病院で手当てを受けた。


ドレイクが病院のベットの上で目を覚ますと、エリザベス王女が見舞に来ていた。

「おじさま、具合はどうかしら」

ドレイク、いきなりテンションを上げて「殿下の声を聞けたら怪我なんて吹っ飛びますよ」

「傘下の海賊たちも、随分とやられたようですわね」とエリザベス。

ドレイクは「奴らは殿下のために命を捨てる覚悟はとうに出来ています。俺たちの死に場所は海の上です。俺だって戦って死ぬのは本望だ」


その時、彼の部下たちが何人も顔を出す。

待ちに待った親分の復活に、いきなりテンションを上げて好き勝手言う部下たち。

「提督が目を覚ましたって?」

「生きて帰って来れたんですよ。提督」

「クラーケンの触手の上で、死ぬのは嫌だって泣いてましたよね?」

「おい!」と、ドレイク慌て顔。


「あれ、エリザベス殿下、来てたんですか?」

そう、すっ呆けた事を言う部下たちに、ドレイクは赤くなって「お前等なぁ、せっかく人が姫の前で見栄を張ってるのに、何バラしてくれてるんだよ!」



残念な空気の中、エリザベスは笑いだした。部下たちも笑う。

バツが悪そうに頭を掻くドレイク。

そしてエリザベスは立ち上がると、侍従から剣を受け取り、それを抜いた。

ドレイクは神妙な顔でベットの上で跪き、頭を垂れる。


エリザベス王女はドレイクの肩に剣を翳して言った。

「おじさま、いえ、ドレイク子爵。臣従の儀により、大英帝国王太子として、あなたに伯爵の爵位を授けます」

「有難き幸せ」とドレイク。

エリザベスは「そして命じます。けして死なないように」

「・・・」

「返事は!」

飛んで来た王女のきつい調子の声に、ドレイクは「謹んで承ります」


「そして命じます。ケベック植民都市を我等の手に」とエリザベス。

「この命に代えて」とドレイク。

「違いますわよね!」とエリザベス。

「そうでした。この名誉に代えて、かの地を我等大英帝国の手に」

そう言って彼が見上げたエリザベスの目に、涙が滲んでいた。



ドレイクは怪我の治療を終えると、海賊団の立て直しを始めた。イギリスは総力を挙げてこれを支援する。


「それで本格的にケベックを攻め落とそうって訳かよ」

アイスランドからケベックに戻る途中のタルタ号の甲板で情報を受け取ったエンリ王子は、仲間たちと作戦会議。


「どうやって迎え撃ちますかね?」とアーサー。

ファフが手を挙げて「やっぱりファフのドラゴンで」

「クラーケンの毒は厄介だよね」とアーサー。

タルタが「俺の鋼鉄砲弾で」

「また提督と一騎打ちかよ」とエンリ。

リラが「王子様、私がセイレーンボイスで」

「それ、奴らはもう知ってるから」とカルロ。

ジロキチが「やっぱり海賊は乗り移って切りまくりだろ」

「お前みたいに刀で銃弾跳ね返す奴は向うにもゴロゴロ居るぞ」とエンリ。


すると、ニケが舵を握りながら「船に乗ってるだけの人はお気楽でいいわよね。戦闘だけ考えてればいいんだから。航海士は船を動かしてる時がもう戦時なのよ」

「いや、嵐になりゃ働くけどね」とタルタ。

ニケは言った。

「それだけじゃないわよ。ここらへんは危険なのよ。あちこちに氷山が浮いてて、気付かずに衝突でもしたら、船は大破して海の藻屑よ」

「氷山って、あれみたいな?」と、ファフが前方に浮かぶ巨大な氷を指した。

「あ・・・。右に取り舵いっぱい!」と、大慌てで舵を切るニケ。

タルタが「言ってる傍からこれかよ」


急激な方向転換で船はバランスを崩し、各自何かに掴って体勢を保つ。

衝突を回避すると、後ろに去っていく氷山を見て、エンリは呟いた。

「氷山かぁ。そーいやあんなの、前に見た事あったっけ」


エンリは脳内の記憶を探り、そして言った。

「なあ、アーサー、前に魔剣の島でファフのドラゴンに追いかけられた時に使った魔法カード、まだあるよね?」

アーサーは「あの、大きな大きな山になれ・・・って奴ですか?」



ドレイク海賊団がついに復活した。大船団を率いて大洋を西北に向かう。

「それをたった一隻で? せめてポルタ艦隊を動員しません?」

情報を受け取って出撃するタルタ号の甲板上での作戦会議でアーサーがそう言うと、エンリはにべも無く言った。

「足手纏いだ」

「だよな。海賊は本来、群れずに行動するものだ」とタルタはドヤ顔。

アーサーは肩をすくめて「そういう精神主義が危ないんだが」

するとエンリは「それに、こっちには秘策がある」


やがて、魚の使い魔を展開させていたリラが言った。

「王子様。魚たちが敵艦隊を捉えました」

エンリは「来たか。クラーケンは?」

「見当たりません」とリラ。


エンリは甲板上の全員に号令を下す。

「よし。この作戦の決め手は海中だ。だが、重要なのはそれを敵に悟らせない事だ。敵は艦隊運用を駆使した総力戦で来るだろう。獅子は兎を狩るにも全力で、って訳だ。その分動きは読みやすくなる。それが狙いだ。兎には兎の戦い方があるって所を見せてやる」



やがて、マストの展望台に居たカルロが叫んだ。

「敵艦、見えました」

「ニケさん、全速前進」とエンリは号令。


帆を全開にして速度を上げて敵艦隊に向かう。

「敵艦隊が左右に別れました」とカルロが報告。

「数は」

そう問うエンリに、カルロは「右に七割、左に三割」


エンリは言った。

「少ない側を狙った各個撃破を誘おうって腹かよ。おそらくそっちの先にドレイク号が居る。右側艦隊の前方を突っ切って外側に回り込むぞ。ファフ」

「了解」



ファフはドラゴンとなって船を牽引し、速度を上げて敵右側艦隊の正面を右へ横切るコースに突入する。

敵右側艦隊は隊列を組んで突進し、一斉に砲撃。雨のように降って来る砲弾をアーサーとタマの防御魔法が防ぐ。

タルタ号の甲板からリラの姿は既に消えている。


敵右側艦隊の更に右側に回り込むタルタ号。

盛んに砲撃してくる敵右側艦隊の背後から左側艦隊が迫る。

「敵左側艦隊からドレイク号が出てきました」とカルロが報告。

エンリは「こっちの頭を抑えようって訳か。そうはいくか!」


敵右側艦隊の更に右側を通過するタルタ号を追って、敵右側艦隊は左へと回頭。

敵左側艦隊はこれと合流。

ニケは操舵をジロキチに任せ、敵艦を観測するカルロの報告を受けて海図に位置を書き込み、矢印を引く。

そして「会敵地点、割り出せたわ」

「よし、海中のリラに連絡だ」とエンリ。

「人魚姫、散布を開始しました」とアーサー。



隊列を組んで一丸となってタルタ号を追うドレイク艦隊の先頭に、船足の速いドレイク号が姿を見せた。

「人魚姫、散布完了しました」とアーサーが報告。

エンリは「敵艦の位置は」

「間もなく会敵地点に入ります」とニケが答える。


ひりつくような緊張の中、ニケは海図を持ち、望遠鏡で敵艦隊を見つめる。

そして「敵艦隊、会敵地点に到達」

エンリは号令を下した。

「よし、トラップ発動!」



ドレイク艦隊真下の海中に漂う無数の魔法カード。

リラが水中を泳ぎながら散布したものだ。

カードの裏には、あのタカサゴ島で五毛たちが街中に貼って洗脳の笛の音を送った通信札と同じものが貼ってある。

そして人魚姫は海中で、通信の魔道具に向けて叫んだ。

「大きな大きな氷になれ!」


これに反応した海中の魔法カードはたちまち周囲の海水を凍らせて巨大な氷山となり、ドレイク艦隊の船がひしめく海上へと一斉に浮上した。

いくつもの船が真下から浮上する氷山の直撃を受けて転覆。

他の船も周囲を氷山に囲まれ、ドレイク艦隊は完全に動きを封じられた。

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