第175話 温泉の島
トルフィンの故郷、アイスランドのヘルダ村を占領していたガイル海賊団を倒したエンリ王子たちは、この島を統べるアルシング議会に、捕虜とした海賊たちの裁きを求めた。
だが議会はガイルを傘下に収めるドレイク海賊団の報復を恐れ、海賊たちを罰しようとはしなかった。
アイスランドには至る所に温泉がある。
エンリは仲間たちを連れ、アルシング議会の人に案内されて温泉を訪れた。
タルタとファフが全裸で歓声を上げながら温泉に飛び込む。お湯のしぶきが盛大に上がる。
ニケはあきれ声で「児童ポルノは弾圧が厳しいわよ」
タルタは「何の話だよ」
ファフは、衣のようなものを着てお湯に入るニケを見て「ニケさんのそれって何?」
「バスローブよ。お金出すんなら脱いでもいいけど」とニケはドヤ顔。
「いや、要らないから」とタルタ。
「あっそー、って人魚姫は裸?」
そう言う怪訝顔のニケに、エンリは「下半身は魚だけどね」
リラは「王子様はその方が喜ぶので」
お湯の中でイチャイチャするエンリとリラ。
ニケはジロキチたち三人を見て怪訝顔で「若狭さんも裸?」
ジロキチは「無粋な奴だなぁ」
若狭は「草津を思い出します」
「箱根も良かったぞ」とジロキチ。
そしてムラマサは「温泉に浸かれる人間の体は最高でござるな」
ニケはタマを見て怪訝顔で「タマも裸?」
タマは「猫の体はお風呂が苦手なのよ」
「にしても、カルロは何でそんなに冷静?」と、ニケはカルロを見て怪訝顔。
カルロは「女性を不快にさせないのは、モテの基本です」
「たまには、まともな事も言うんだな」とエンリ。
「カルロじゃ無いみたい」とニケ。
「雪でも降るんじゃ・・・」とタルタ。
カルロは「俺を何だと思ってるんですか? それよりここって女湯は無いの?」
エンリはあきれ顔で「あるかよ。ってか混浴状態で何言ってるんだ?」
「だって覗きは男のロマンですよ」とカルロはドヤ顔。
「あの・・・皆さんっていつもこんな?」
そう言ったのは、腰にタオルを巻いて赤くなっているトルフィン。
「やっぱり子供だな」とエンリが笑う。
ファフが「ねえねえ何の話?」
タルタが「タオルの前が気になるって話だ」
「違いますよ」とトルフィン、ますます赤くなる。
「気にするな。これはただの生理現象だ」とエンリ。
「だから違うって」と言って口を尖らすトルフィン。
「大きさを気にしてるのか? 大丈夫、まだこれから成長する」とタルタ。
「いや、大き過ぎも良くないです。あまり大きいと女性が痛がります」とカルロ。
タルタが「何なら見せっこするか?」
ニケはハリセンでタルタの後頭部を思いっきり叩いた。
そして「女性が居る前で変なものを見せびらかすものじゃ無いわよ」
「変な物かな?」とジロキチ。
「まあ、ボディービルポーズで腹筋をピクピクさせるのは、さすがに気持ち悪い」とエンリ。
ニケは赤くなって「どこから筋肉の話になったのよ」
そんなに仲間たちの馬鹿騒ぎを眺めて、アーサーが「何だかなぁ」
そんなアーサーに、エンリは「ドレイクとの戦いが心配か?」
「今回追い返したとしても、次が来ますよね?」とアーサー。
エンリは思案顔で言った。
「アルシング議会は抵抗しないだろうな。ノルウェー公の介入に従い続けて来た奴等だものな」
そして彼は思考を巡らす。
この地を誰かが守らなくてはならない。
それは外国人である自分達ではない。その主体はこの地に住む人々でなくてはならない。
だが、彼等のその力が弱いとしたら・・・。
力とは相対的なものであり、奪いに来る者より力で劣る事は、恥でも罪でも無い。
そんな場合に誰かに助力を求める権利は、誰にでもある。
誰かに助力を求める必要があるとしたら・・・。
エンリは言った。
「なあアーサー。ここって、温泉があるという事は火山もあるんだよな?」
「火山だらけですよ。ここの地下は球体大地の中心から炎の魔素が湧き上がる所ですからね」とアーサーは答える。
エンリは仲間たちを連れて、再びアルシング議会を訪れた。
そして事務局に居た議長に尋ねた。
「火山の精霊に助力を求めるとしたら、どこの火山が最適かな?」
「カトラ火山の精霊グリーラでしょうね。女性ですけど、かなり怖いタイプですよ」と議長は答えた。
「ジャカルタの天下一武闘会で戦った女性格闘家みたいな?・・・」とカルロ。
議長は「下手すると食べられちゃうとか」
("私を食べて"ってのの逆パターンかぁ)
そう脳内で呟き、カルロは涎を拭いて身を乗り出した。
「そういうの、俺の得意分野です」
案内されて山へ。
噴火口の縁に立って、エンリは精霊サンクリアンから貰った短剣を火口の溶岩に投げる。
そしてアーサーが召喚の呪文を唱えた。
噴火口の底の溶岩から「私を呼ぶのは誰だい?」と、怖そうな女性の声が響く。
「確かに怖そう」と、仲間たちは身を竦める。
だがカルロは「いや、こういう女性は、いざとなると情熱的ですよ」
エンリは精霊の声の響く溶岩に向けて、言った。
「この島の人々を、外から来る海賊団から守って欲しいのです」
「この短剣は他の山の精霊から貰ったものだね?」と溶岩から響く火山の精霊の声。
「ジャカルタのサンクバン火山の精霊からです」とエンリ。
精霊は「あのイケメンかい。ああいうのは趣味じゃないんだけどね」
「見かけより中身って事ですか?」とカルロは期待を込めた声で・・・。
「ひょろくて食べでが無いだろ」と精霊の声。
カルロは「マッチョが好みなんですね? けど俺、テクニックでカバーできます」
精霊は「あたしの所で一週間、相手になるかい?」
「喜んで」
そう答えるカルロに、精霊は「気に入らなかったら食べちまうからね」
溶岩の中から現れたのは巨大なメスのトロル。
唖然顔で固まったカルロを右腕を伸ばして掴むと、精霊グリーラは言った。
「じゃ、この男を借りていくよ」
グリーラは噴火口の溶岩の中に消える。
エンリは唖然顔で「カルロの奴、焼け死んだりしないよな?」
アーサーも唖然顔で「大丈夫。あの向こうは固有結界ですよ」




