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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第173話 殺戮の故郷

最後の「秘宝の欠片」を求めて、西方大陸北辺に来たエンリ王子たちは、そこで出会ったビンランド村の人たちとフランス人のケベック植民地との争いを仲裁する中で、サーモンの人工孵化に取り組み、成功させた。

地元民と共存する中で収益を上げるケベックのフランス人たち。



ビンランド村では、エンリ王子たちは稚魚の放流を手伝っていた。


向うではトルフィンが木剣を持って、セルの剣術の稽古の相手をしている。

「もう剣ではセルが上かもな」

そうトルフィンが言うと、セルは「義兄さんには槍がありますから」

「けど俺は短剣の方が向いてる」

そう言ってトルフィンは木剣を置いて二本の短い棒を持って構える。

木剣で構えるセル。


その時、ジロキチが「俺が揉んでやろうか?」

二人は「お願いします」



ジロキチが四本の木剣を束ねて二人の前に立つ。

そして「一緒にかかって来い」

ジロキチに向って構えるトルフィンとセル。

「二対一ですけど」

そうトルフィンが言うと、ジロキチは「いや、四対二だ」


ジロキチは跳躍して両手両足で木剣を持ち、一瞬で二人を叩き伏せた。

そして「相手の動きをよく見ろ。どう対応するかを体で判断するんだ」

「ほんっとにジロキチは容赦無いな」と、河原の石に座ったエンリが言う。


若狭が「エンリさんもジロキチさんに剣を教わったんですか?」

「ボコボコにされたぞ」とエンリ。

するとアーサーが「それで、練習で四本相手は無いって言ったら、左足の剣を相手の練習で、ボコボコにされたんですよね?」

「いや、あれは・・・」

そう言って口籠るエンリを見て、タルタは「で、ジロキチ。寝転んで本を読みながら左足の剣で練習相手をして、王子はボコボコにされて・・・」

「いいだろ、昔の話だ」と言ってエンリは口を尖らせる。



左手に持った木剣でトルフィンとセルの剣の相手をするジロキチ。

その近くで若い二人の剣士に声援を送る若狭とムラマサ。


そんな彼等を見ながら、エンリは仲間たちに言った。

「なあ、俺たちって、こんな事やるために来たのかなぁ」

タルタは「違ったっけ?」


するとニケが「そうよ、こんなボランティアみたいな事をやりに来たんじゃ無いわ」

「そうだよね」とアーサー。

「サーモンのキャビアで巨額の利益を上げるために来たのよ」とニケ。

「それも違うと思うが」とエンリは残念そうに・・・。

だが、ニケはなお「ここの水産物をポルタ商人のルートに乗せて利益の上前をはねてお金ガッポガッポ。こうしちゃいられない」



ニケはエンリとアーサーに付き合わせて、ケベックの商人組合の商館へ。


そして「オクラの取引はどうなっているかしら。ポルタ商人のルートで捌けるよう、このお金の申し子ニケさんが仲介してあげるわよ」

すると、商館員が困り顔で言った。

「それが交易が困難になりまして。輸送船が海賊に襲われたんです」

「そんな・・・」


絶句するニケを横目に、エンリは「で、襲った奴って?」

「ドレイク海賊団の傘下の海賊ですよ。アイスランドに拠点を持っているとか」と商館員。

「イギリスはフランスの同盟国だぞ」と、エンリは深刻そうに呟く。



エンリ王子は通話の魔道具でルイ王に連絡をとった。

ルイ王は言った。

「ケベック商人の輸送船の事は聞いたよ。それでヘンリーの奴に抗議したんだが、あの野郎、ユーロの外ではイギリスに主導権を認めると約束したの一点張りで・・・」


エンリ唖然。

そして「何でそんな約束したんですか?」

「ユーロ内の事はフランスの主導権を支持すると煽てられて・・・」とルイ王は悔しそうに。

「それじゃ、我々ポルタとスパニアの海外活動に対してのイギリスのやりたい放題も容認するんですか?」とエンリ。

ルイ王は「そっちはそっちで処理してくれ。これは君達とは無関係な二国間問題だ」


「けど、フランス商人を見殺しには出来ませんよね?」とエンリ。

「海軍を出して対処するさ」とルイ王。

「けど、フランス艦隊って弱いですよね?」とエンリ。

ルイ王は泣きそうな声で「それは言わない約束だろ」



エンリ王子はイザベラに連絡した。

「まずい事になったわね」

そうイザベラに言われ、エンリも「航海の自由にとっての危機だ」

イザベラは言った。

「それだけじゃない。ケベック植民地自体が奪われる事になるわよ。そこと協定を結んだ地元民もろともね。こちらでも対処を考えてみるけど、とりあえず動くのはドレイク提督の手勢だから、そっちを何とかして貰えるかしら」



エンリ王子は仲間たちと作戦会議。そしてトルフィンを呼んだ。


「君の故郷がアイスランドにあるんだよね? そこが海賊に奪われて奴等の拠点になっている。どんな所か憶えているかい?」

「ヘルダ村という漁港のある村さ」とトルフィン。

「その拠点を潰して村を奪い返す」とエンリ。


トルフィンは立ち上がり、拳を握りしめて、言った。

「連れて行ってくれ。そこに居るのは親父の仇だ」



タルタ号が出港し、アイスランドを目指した。

村の近くの海岸に上陸し、村の見える高台へ。


「ここがトルフィンの故郷かよ」

そう言ってエンリが見下ろす家並みには、見るからに海賊といった風体のマッチョがゴロゴロいる。

唇を噛締めながら村を見下ろすトルフィン。

「ってか元々の住民らしい人が居ないんだが」とジロキチ。

するとファフが「女の子が居るよ」と言って、木桶を下げて歩く女の子を指した。



女の子が村はずれに水汲みに来る。

「ああいうのは俺の領分だ」


そう言うとカルロは、女の子の背後から忍び寄り、抑え込んで口を塞ぐ。

「静かに」

「殺さないで」

そう小さな声で言う女の子に、カルロは言った。

「大丈夫。欲しいのは君の命じゃない。君の心が欲しい」

女の子は頬を染めた。

「あなたは?」

カルロは「君の虜さ。ずっと君を見ていた」


歯の浮くような台詞で女の子を口説き始めるカルロの後頭部を、ニケはハリセンで思い切り叩いた。

「違うでしょうが、この女の敵が!」



唖然顔で女の子が周囲を見回すと、十人ほどの男女が居る。

「あの、皆さんは?」 

不思議そうに問う女の子に、エンリは言った。

「君達を助けに来た・・・と言いたい所だが、とりあえず村の状況を知りたい」



「あそこに居る奴等って海賊だよね?」とエンリ。

「はい」

「君はここに住んでた人?」とアーサー。

「いえ、私は奴隷として連れて来られました」

「ここに住んでた人たちは?」と若狭。

「彼等に殺されたそうです」


「一人残らずか?」とトルフィン。

そう言って怒りに身を震わせている、自分と同年代の少年を見て「あなたは?」

「ここの生き残りだ。子供だった俺は小舟に乗せられて逃がされた」

トルフィンのその言葉を聞くと、女の子は悲しそうに言った。

「村の人は皆殺しにされたそうです。今、輸送船襲撃の拠点になってて、あと、回りの村を支配するための人質も居ます」

「支配って?」

リラがそう言うと、エンリは言った。

「アルシング地区だな。この島を統治しているのは議会なんだよ。その議員を送り出す単位地区を丸ごと占領して、議会の一員として居座ってるって訳か」


トルフィンは「そんな奴等は皆殺しにするんだよな?」

「今居るのは留守番役です」と女の子。

アーサーは「主力は海に出てるって訳か。そいつ等から連絡が来る。情報が必要ですね」



ニケが女の子に睡眠薬を渡して食事に仕込ませ、眠った所でアーサーが自白の魔法を使って情報を引き出す。

彼等はガイル海賊団。ドレイク傘下の海賊団の一つだ。

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