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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第164話 大陸の東岸

南方大陸の東岸はアラビアの海に面する海岸線が南北に延び、内陸には様々な現地人の部族が居住している。

彼等は農耕・牧畜・狩猟など部族によって生業は異なり、そしてしばしば互いに対立していた。

海岸部では、古くからアラビア人商人たちが植民都市を建て、そこを拠点に現地人部族と取引をしている。

ポルタ商人たちもこの交易に参加するため、自分達の植民都市を建設した。

そしてポルタ人とアラビア人が結んだ、交易の自由を保障する協定。

だが、ポルタ商人とアラビア商人との争いが絶える事は無かった。



「で、トガルの植民市の奴等が、キルワっていうアラビア都市の奴等と争ってるって訳かよ。交易自由の協定で共存できないのか?」

毎度の厄介事にうんざりするように、ポルタ城の執務室で航海局長の訴えを聞くエンリ。

航海局長は困り顔で報告する。

「それが、現地人部族どうしの争いが絡んでまして、争ってる部族の一方をキルワが、もう一方をトガルが味方してるって言うんです」



エンリ王子たちの船がトガルの港へ向かう。

トガルに上陸すると、商人ギルドで話を聞いた。


「俺たちが町として味方してる訳じゃ無いんです。過激分子みたいなのが現地人に加担して突っ走ってまして」

そう困り顔で報告する商館長に、エンリは「危ない奴はどこにでも居るからなぁ」

商館長は「キルワの奴等は、取引現場を襲撃されたとか言ってまして、その報復だとか何だとか・・・」



その時、植民市の街で爆発音が響いた。

街が海上からの砲撃を受けている。


エンリは通りに飛び出して、街に居る人に「何の騒ぎだ」

「キルワの武装船が砲撃しています」と街の人たち。

エンリは仲間たちと顔を見合わせ、そして「とりあえず反撃だ」



街に居る水夫を何人か助っ人として船に乗せて、エンリたちの船が出撃した。

港を出ると、四隻のアラビア船が船団を組んで砲撃しているのが見えた。

ニケが「あんなの一撃で仕留めてやるわよ」と言いながら、大砲の準備を始める。

だが、エンリは「いや、話し合いたいので、出来れば沈めたくない」


するとタルタが言った。

「だったら海賊の流儀で、ってのはどうよ」

「どうするんだ?」とエンリ。

タルタは「乗り込んで船を乗っ取る」と言って、四隻の敵船を見て不敵に笑った。



ファフのドラゴンに全員が掴まって水中を進み、海上からリラの人魚が顔を出して位置を確認。

一隻をタルタとアーサーが担当。

銃や刀で反撃して来る敵を部分鉄化のタルタが殴り倒し、アーサーが広域雷撃魔法で鎮圧。


一隻をカルロとニケが担当。

カルロの瞬足でナイフを振るって敵を攪乱し、ニケが麻酔弾で次々に仕留める。

 

一隻をジロキチとファフが担当。

上空でファフのドラゴンが敵を威嚇しつつ、ジロキチが四本の刀を翳して敵のど真ん中に飛び込み、全員嶺打ち。


残る一隻にエンリ王子とリラ。

リラが水の散弾で敵を牽制し、エンリが風の魔剣と一体化した素早さスキルで次々に仕留める。



四隻の船に乗ったアラビア人全員を捕縛し、エンリたちの船に集めた。

タルタが捕虜たちを見て「こいつら、どうするよ」と仲間たちに・・・。

エンリは捕虜たちに訊ねた。

「とりあえず、お前等の指揮官は誰だ」


キルワ側の指揮官が名乗り出る。

「争いを治めたい」

そうエンリに言われて、その指揮官は「俺は艦隊を預かって報復を任されただけだ」

「キルワの市長となら、話し合いは可能か?」とエンリは問う。

「そもそもお前等が現地人との取引を妨害して、こういう事になった」と指揮官。


エンリは言った。

「奴等はトガルの意思で動いてる訳じゃない。ただの過激分子で、こちらで何とかする」

指揮官は「口約束では信用できない」



彼等を乗せてトガルの港に戻るエンリたちの船。

そして商館に、街の主だった人たちを集めて、言った。

「話し合いをやりたいので、街の代表を連れて行きたいんだが」

「だったら市長の出番だよね?」と商人の一人が言った。


市長は全員の視線を向けられ、尻込み状態MAXで言った。

「私には年老いた母と病気の妻と五人の子供が・・・」

そんな市長に商館長が「その五人って奥さんの子供じゃないよね?」

船大工ギルドのマスターが「ってか、奥さんと離婚したよね?」


市長は涙目で「のこのこ出向いて行った所を囲まれて人質にされるのは真っ平だ」

「俺たちが、そんな事はさせない」とエンリは言って溜息。

「たった八人で、うち一人は子供じゃないですか」と市長。


「あんた市長だろ。そのために高い給料貰ってるんじゃないのか?」と倉庫長。

市長は「俺には貯金を貯めて田舎に畑買ってスローライフするって夢があるんだ」

「往生際が悪いぞ。あんたが死んだら、市長の仕事は俺が引き継いでやる」と一人の商人が・・・。

「いや俺が」と別の商人が・・・。

「俺だろ」と更に別の商人が・・・。


市長の後釜の座を巡って言い争いを始めるトガルの商人たち。

そんな彼等を見て、市長は溜息をついて「この街の将来が心配だ」

タルタはそんな市長を見て、あきれ顔で「あんたが言うかよ」



嫌がる市長を乗せて、エンリたちの船は出航した。

捕縛した四隻の武装船の乗組員を人質にキルワの港に入る。


船を降りたエンリ王子は、武器を持って彼等を取り囲む人たちに言った。

「トガルの代表として話し合いたい」

弓矢や鉄砲を向けるアラビア市民兵たちは「生きて返れると思うなよ」と彼を威嚇する。

「四隻の武装船の奴等を捕虜として連れて来たんだが」とエンリ。

「人質をとるとは卑怯な」

そうブーイングするアラビア人たちに、エンリは「攻め込んで来たのを返り討ちにして捕えれば捕虜にするだろーが」


「で、捕虜というのはその縛られてるオッサンか?」と、アラビア兵の指揮官らしき人が・・・。

「やっぱり人質にして楯にとってるじゃん」とアラビア兵たち。

エンリは困り顔で「いや、こいつは人質じゃなくてトガルの代表なんだが」

「話し合いに来てる当事者とは思えない」とアラビア人指揮官。

エンリは更に困り顔で「いや、責任放棄して逃げようとするから・・・」


トガル市長は縛られた状態で「敵地に乗り込むなんて真っ平だ」と叫ぶ。

アラビア人側全員、あきれ顔に・・・。



そしてアラビア側指揮官はエンリに「で、トガルの代表がこいつとすると、あんた達は?」

「俺はポルタの王太子エンリだ」と彼は名乗る。

アラビア人たち、互いに顔を見合わせながら「そんな奴居たっけ?」

エンリは思いっきりの心外顔で「俺は交易自由の協定結んだ当事者だぞ」


すると一人のアラビア人が言った。

「あの聖櫃戦争で神様と聖櫃の偽物持ち込んだインチキ魔導士の仲間か」

エンリは憤懣顔で「そりゃお互い様だろーが!」



捕虜を引き渡して交渉の席につく、エンリ王子たちとキルワの市民たち。

「とりあえず現地人どうしの争いから互いに手を引きませんか?」

そうエンリが言うと、キルワの市長が「彼等とは長い取引の付き合いで、親族同様に仲良くして来た。助けを求められたら応えるだろ」


カルロが「そういう人間関係で絡め取って味方に引き込まれてるのを"ズブズブ"って言うんだが」

「アレだろ? 歴史を捏造して一致団結して一方的に敵対してる隣国の奴らを批判すると、"ああいうのはごく一部で、その中の一人と個人的に付き合えば解る"とか見え透いた嘘を言って、もし、それを真に受けて相手国の人と知り合いになると、表面ヅラだけ敵意を隠して親切なフリをして友達ごかして人間関係に引きずり込んで洗脳して味方につけようと」とジロキチ。

「トーイツ教とかいう変なカルト宗教の勧誘手口もそれだろ。その他いろんな敵国系・敵性コミュニティも同じ手口で、自分達の国を排斥する活動に加担してる奴らとかも、そうやって絡め取られたんだよね?」とアーサー。


キルワ市長は迷惑そうに言った。

「いや、それはガブリエルとかいうドイツ人自称賢者が提唱した、思想とか無関係なテクニックで、平和学とかいう偽学問が採用して、リベラルとか称する奴らが絶賛正当化して"人権の常識"だと勘違いしてるけど、我々の現地人との付き合いは違うから。そもそもナベ族だって昔は取引相手だったんですよ。それが、あなた方と一緒になって、我々とフタ族との取引を妨害し始めた」



すると、未だに縛られたままのトガル市長が言った。

「ナベ族と一緒に居るのはトガルの人ではない」


「ユーロ人ですよね?」とキルワ市長。

エンリはトガル市長に「どういう人なんですか?」と尋ねる。

「魔導士なんですよ。女性のね。ナベ族の奴等は女神様とか言ってます」とトガル市長。

アーサーが「まさか鏡の中に居るとか?」

トガル市長は「いや、普通に人間の姿ですけど」


そしてエンリはキルワの人たちに言った。

「とにかく、彼女は私たちで何とかします」

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