第163話 魔導士の幼馴染
女子学生リリスが意中の男子を落とすために創作するチャームの呪文術式。
それに手を貸す破目になったアーサー。
精神と肉体を繋ぐ気の仕組みと、そしてカーマスートラで得た知識を参考に、ついに術式は完成した。
そして完成した翌日、リリスが涙目でアーサーの元を訪れた。
「アーサー先生」
彼女の残念な様子を見て、アーサーは「彼を魔法で落としたんじゃないのか?」
リリスは言った。
「落としましたよ。けど、女子会の他の全員が彼を落としてて、私のものになってくれないんですよ。酷くないですか?」
アーサーは「あーーーー。けど、他の子たちって魔法で落とした訳じゃないんだよね?」
「みんなマーリンさんから貰った媚薬で」とリリス。
(盛大に遊んでるな、あの人)とアーサーは脳内で呟いて、溜息をつく。
愚痴り続けるリリス。
「あいうのって、そのうち誰かが妊娠して、その子がヤンデレ化して男を刺して、その子は他の子に刺されて、最後は刺した子が男の首と一緒にボートに乗って漂流エンドに」
アーサーは冷や汗混じりの作り笑顔で「そういう危ない話は止めようよ」
そしてリリスは「それで私、彼のこと諦めました」と言いながら、異様にもじもじする。
そんなリリスの様子に気付かず、ほっとした口調でアーサーは「それがいいかもね」
リリスは上目使いで「でね、アーサー先生」
「何かな?」
能天気な口調のアーサーに、リリスは「私の彼になって下さい」
「へ?」
リリスはアーサーにチャームの呪文をかけた。
一筋のオーラの糸がアラサーの額に憑りつき、その奥底のイメージを読む。そのイメージを彼の自分に対する認識と重ねる。
アーサーの胸部に魔法陣を投影。自らの胸に投影した魔法陣からオーラが流れ込む。
だが、その流れはアーサーの胸の手前で弾かれた。
「どうして? 先生は私が嫌いですか?」
そう涙声で訴えるリリスに、アーサーは困り顔で「こういう類の魔法を遮断するよう、自分に術をかけておいたのさ。そもそも何で俺?」
「優しいから」とリリスはぽつり。
「優しい男なんて他にも居るさ」とアーサー。
するとリリスは言った。
「先生、マーリンさんの事が好きですよね? この魔法って、相手の中の異性のイメージと自分に向けた認識を重ねます。それを、体が異性を求める部分に働きかける、二段構えで構成されています。アーサーさんの心の奥の女性、マーリンさんでした」
「・・・」
「幼馴染なんですよね?」とリリス。
アーサーは目一杯の焦り声で「そうだけど、あの人にはいろいろ酷い目に遭わされて、それで女性不信に」
「酷い目に遭わせたのは女性じゃなくてマーリンさんです。それでアーサーさんの不信の対象が女性って事は、アーサーさんにとっての女性がイコールマーリンさんって事ですよね?」とリリス。
「・・・」
リリスはアーサーの上着の裾を掴み、彼の目を覗き込むように言う。
「子供って好きな子に意地悪しますよね? マーリンさんがアーサーさんに意地悪するのも、アーサーさんが好きなんじゃないですか?」
アーサーは俯く。
そして「そういう心理があるのは知ってる。女性にとって、自分が何をしても相手は許してくれるって証明なんだよね。けど、それで許したとしても実害は消えて無くなる訳じゃない」
リリスはマーリンのアジトを訪れた。
そしてマーリンに直談判を挑むリリス。
「マーリンさんって、アーサーさんの事が好きなのではないですか?」
「私は世界のイケメンを落とす千人切りの女よ」と鼻で笑う風を装うマーリン。
「そうやっていろんな人に手を出すのって、アーサーさんが手に入らない事の代償行為なんじゃないですか?」
そのリリスの言葉に、何かを突かれたように、マーリンの表情が変わる。
そして「どうしてそう思うの?」
「アーサーさんに意地悪するのって、彼が好きなんじゃないですか?」とリリス。
「・・・」
「幼馴染なんですよね?」とリリス。
マーリンは溜息をついた。
そして伏し目がちな表情で「確かに彼、可愛いわよね。つい意地悪したくなっちやう。彼は私の事をどう思っているのかしら」
「アーサーさん、あなたの事が好きです」
そのリリスの言葉に「どうしてそう思うの?」とマーリン。
リリスは言った。
「彼に創作したチャームの魔法をかけたんです。弾かれちゃいましたけど、その時に見た彼の深層の異性のイメージが、マーリンさんでした」
そして・・・。
リリスがアーサーの所に来た。
「お願いがあります」
「何かな?」
身構え気味にそう言うアーサーに、リリスは「マーリンさんに決闘を申し込んだので、立会人になって欲しいんです」
アーサー唖然。そして慌てて止めに入る。
「そりゃ無茶だろ。レベルが違い過ぎだ。絶対返り討ちに遭うぞ。ってか何でそんな事に・・・」
「ああいう、いろんな男性に手を出す人、女として許せない」と頑なな表情を見せるリリス。
「それは人それぞれだと思うけどね」と言ってアーサー溜息。
リリスは「国教会は恋愛自由だし・・・ですか?」
「宗教はとりあえず置いておこうよ」とアーサー。
「媚薬とか使ったり」とリリス。
「それはまあ・・・」
「アーサーさんの女性不信だって」とリリス。
アーサーは目一杯の困り顔で言った。
「・・・いや、俺の事を考えてくれるのは嬉しいけどさ」
その時、横からニケが口を挟んで、言った。
「つまり手を貸して欲しいのよね?」
リリスは困り顔で「そういう訳では・・・」
ニケは眼に$マークを浮かべた売り込みモードでリリスに迫る。
そして怪しげな魔法道具を出して「これは相手の魔力を奪う煙玉よ。自分はマスクで防いで相手が一息吸えば魔導士として無力化よ。お安くして金貨50枚で譲ってあげるわ。こっちは・・・」
「ニケさん、そういう話じゃないと思うんだが」と困り顔で止めに入るアーサー。
リリスも「大丈夫です。私は絶対に傷つかない秘策がありますから」
「秘策って何?」
そう怪訝顔で言うニケに、アーサーは「それを言ったら秘策にならないだろ」
真夜中の競技場で向き合うマーリンとリリス。そして立ち合い人としてのアーサー。
マーリンは余裕顔で「覚悟はいいわね?」
「望む所です」と真剣な表情のリリス。
アーサーはおろおろ顔で「頼むから怪我だけはさせるなよ」
「始めるわよ」とマーリン。
「怪我するような事は止めろよな」と、しつこく念を押すアーサー。
マーリンとリリスは同時に金縛りの呪文を詠唱し、そして二人同時に・・・、アーサーに向けて金縛りの魔法を放った。
いきなり矛先を向けられて慌てるアーサー。
「おい、何だよこれは」
「ごめんなさい、アーサーさん」とリリス。
そしてマーリンはアーサーに言った。
「私、あなたの事、好きなの。今まで意地悪して、ごめんね」
「それで何でこうなる」と、混乱MAX状態のアーサー。
「男性って童貞だとセックスへの憧れが先立って、うまく女性と向き合えない。だから卒業させようと・・・」
そう言ってアーサーのズボンを脱がしにかかるマーリン。
アーサーは焦りまくり状態で「けどこれ逆レイプ」
「こういうのって、女性から求めたとしても、結局男性が悪者になりますよね?」と言いながら、リリスもアーサーを脱がしにかかる。
「私はアーサーを悪者にはさせないから」とマーリン。
そして二人の女性は衣服を脱いだ。
そして翌日・・・。
アーサーが目に隈の状態で城の研究室に上がると、仲間たちが祝杯を上げる準備を整えて待ち構えていた。
彼等によって、盛大にいじられるアーサー。
「で・・・アーサーもようやく大人への階段を登ったって訳だ」とタルタ。
アーサーは憮然とした顔で「それ中学生の発想な」
ニケが「けど大丈夫なの? アーサーって30まで童貞だったから魔法使いに」
「何の迷信だよ。俺が魔導士になったのは童貞と関係無いし、そもそもまだ30になってない」とアーサー。
「で、明日はマーリンさんとデートって訳だ」とエンリ王子。
「あんなのと結婚して大丈夫か?」とジロキチ。
アーサーは「恋愛と結婚はイコールじゃないってマーリンが言ってたんだが・・・」
そして更に翌日・・・。
柄にも無く清楚系な服装のマーリンが、柄にもなく洒落た服装のアーサーの右腕に腕を絡める。
そしてマーリンは、アーサーの左腕に腕を絡めて歩く女の子に言った。
「それで何でリリスまで?」
リリスは「三人デート、楽しいじゃないですか」
「彼は渡さないわよ」とマーリン。
「私、若いですから。女は若さが全てです」とリリス。
「幼馴染は最強って言うわよね」とマーリン。
「尻軽は軽蔑されるって言いますよ」とリリス。
「ものを言うのは恋愛経験って知らないの?」とマーリン。
「年増の遠吠えって知ってます?」とリリス。
マーリンは「あなた、好きな人の前で尻尾巻いて逃げたのよね? 私は狙った獲物を逃がした事は無いわよ」
リリスは「媚薬なんて使って何言ってるんですか」
マーリンは「チャームの魔法に頼ろうって人の幼馴染引っ張り回したのは誰よ」
両側で頭越しに言い合う二人に、アーサーはうんざり声で言った。
「お前等なぁ!」




