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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第156話 捕われの老騎士

800年ほど昔。オリエントから南方大陸北岸を経てイベリアを征服し支配したアラビア人勢力。

彼等からこの地を奪還しようと、続けられてきたユーロ人たちの軍事行動。

それがレコンキスタだ。


それは、アラビア人国家が分裂した後も各地で勢力を保ったアラビア人領主たちへの、ユーロ人騎士・諸侯たちによる征服戦争。それがスパニアやポルタの元となり、各地に存在する領主たちの元となった。


そうした過去の戦いによって追われたアラビア人領主の使い魔だった、ネズミ魔獣の首領、オーガラットが多くの魔獣たちを集めて蜂起した。

それをカラバ軍とともに迎え撃つケットシーたちを率いるのは、長靴の猫の伝説のペロ一族の長。

ミラーデザードの呪文を使うオーガラットは、ポルタ国軍を率いて駆け付けたエンリ王子の魔剣で撃退された。



呪文によるダメージから兵たちが回復すると、カラバ侯爵はエンリたちと共に反撃の作戦を練る。

「敵の本拠地は解りますか?」とエンリ王子。

「領地の外れ近くにある修道院跡です」とカラバ侯爵。

「守りを固めているでしょうね」とアーサー。

カラバは言った。

「奴はまだゴーストで、受肉による本格的な復活に至ってはいません。復活の鍵は我が方が握っています」

エンリは「ですが、疫病の虫を封じた壺を解放すれば、ペストが広がって大惨事になります」

「そうですね。早急に進軍して攻略する必要があるかと」とカラバ侯爵。



修道院跡に進軍するカラバ軍とポルタ国軍。そして猫たちの軍勢。

敵の拠点に着く。

崩れかかった石造りの建物と、周囲を囲む分厚い石塀。

それを背にして、魔物たちの大群が陣を成して待ち構えていた。


そんな敵軍の様子を見て、カラバ侯爵は言った。

「奴等、こっちを誘い込もうとしてますね」

「まあ、ミエミエだな」とタルタ。

アーサーが「奴等の前に転移魔法を使った多数の罠が仕掛けてあります」

「単純な代物だな」とペロ子爵。

カラバは「よっぽどの間抜けでなきゃ突っ込んで引っかかったりはしません」

「あいつ等、人間を舐めてるよね」とエンリ。



その時、痩せ馬に乗って槍を構えたキホーテ男爵は叫んだ。

「我こそはユーロの平和を守る遍歴の騎士キホーテ男爵。数多の戦場にて先陣を駆け、ドラゴンをも一撃で葬るこの技を味わいたくば、我が行く手を阻んでみるが良い、いざ!」

いきなり特攻して転移の罠にかかり、転送されてその場から姿を消す。


エンリ王子たち唖然。

「居たよ。よっぽどの間抜けが」とタルタがあきれ顔で・・・。

ファフが「キホーテさんが掴まっちゃったよ」と心配そうに・・・。

「どうしますか?」とアーサー。

エンリは「どうするもこうするも、攻め落として救出するしか無いだろ」



攻勢に転じようと、罠を消去して襲いかかる魔物軍団。


ゴブリンの大群にレイピアを振るうケットシーたち。

何匹もの猫がオークに襲いかかり、暴れる所をケットシーのレイピアが急所を貫く。

勢いの削がれたオーク軍団にカラバ騎士隊が突入し、ランスでオークたちを次々に串刺しにする。

その騎士隊をネズミの大群が襲う。それを猫たちが襲う。


ミノタウロスたちに長槍で立ち向かう国軍のファランクス隊を、巨大なサイクロプスが襲う。

その巨体を駈け上るペロ子爵は、頭に取り付いて一つ目にレイピアを突き立て、電撃魔法を流し込む。

地響きを立てて倒れるサイクロプスの巨体。



襲いかかる何匹ものタランチュラに鉄化したタルタが立ち塞がる。それを背後からタマが炎の波濤で焼く。

「最強の楯役ね」

そう言うタマに、タルタは「攻撃力だってあるんだがな」

ゴブリンの群れが雨のように矢を射る。それを部分鉄化で防ぎつつ斧を振るうタルタ。

猫の姿でゴブリンたちを攪乱しつつレイピアで次々と仕留めるタマ。


一匹のケルベロスが彼等に襲いかかった。

「大物だぞ」

そう言って、三つの口から吐く炎を鉄化で防ぐタルタ。

その背後からタマが雷撃を放ち、そちらに気を取られたケルベロスに至近距離からタルタの鋼鉄砲弾。

倒れたケルベロスの三つの首をウォーターカッターで斬り落とすタマ。



乱戦のただ中に居るエンリが魔剣を振るい、それをアーサーとリラが魔法で援護。

「オーガラット、出てきませんね」とリラ。

エンリは「光の巨人剣を警戒しているんだろうな」

「ただのオーガなら何体も居るけど」とアーサー。

オーガたちを蹴散らすファフのドラゴン。


トロルの軍団をエンリが炎の巨人剣で焼いていると、四つ足スケルトンの大群が迫る。

それを光の巨人剣で薙ぎ払うエンリ。それをかわして迫る四つ足スケルトンをジロキチが光の刀で倒す。

両脚を刀を収め、左手の闇の刀で敵を防ぎつつ右手で光の刀を振るいながら、ジロキチは「こいつら素早いぞ」

「素早さなら負けませんから」とカルロ。


カルロは光属性を付与したナイフを両手に持って四つ足スケルトンたちを次々に倒す。

そして「大学に魔法学部があると便利ですね」

「作って貰ったのは二本しか無いんだから、いつもの調子で間違って投げたりするなよな」

そう冗談めかして言うジロキチに、カルロは「解ってますよ」


二体のスケルトンが飛び掛かる。咄嗟に光のナイフを投げるカルロ。

「あ、やっちゃった」

「言ってる傍からこれかよ」とジロキチ、あきれ顔。

また二体のスケルトンが飛び掛かる。それをニケが光の銃弾で仕留めた。



オーガラットが現れた。

アーサーが「ミラーデザートをやる前に光の剣で」

「解ってる」

そう言ってエンリが光の巨人剣で斬りつけると、オーガラットは右の前足で闇の楯を構えて防ぎ、光の魔剣と魔力比べ。

ファフのドラゴンが炎を吐くと、左の前足で氷の楯を構えてそれを防ぐ。


ボエモンが聖槍を投げる。その聖槍をハーピーが空中でキャッチし、そのままファフのドラゴンに突っ込んだ。

「危ない、ファフ」

そうエンリが叫ぶ中、全てを貫き倒すとうたわれたロンギヌスの槍を背中に受けて、地響きを立てて倒れるドラゴンの巨体。


槍を抜こうと騎馬で駆け寄るボエモンを見て、オーガラットは「奴に槍を渡すな」と号令し、多数のミノタウロスがボエモンを阻む。

エンリはミノタウロス達の群れに炎の巨人剣を叩き込むと、風の巨人剣を大地の突き立て、棒高跳びの要領でボエモンの所へ飛んだ。

「俺に掴れ」

ボエモンの手を掴んだエンリは、そのまま風の巨人剣を伸ばしてファフの背中へ。

ボエモンは槍を抜いてオーガラットに投げ、命中したオーガラットは叫び声を上げて消えた。



傷ついたドラゴンにエンリが「ファフ、しっかりしろ」

ファフは少女の姿に戻り、エンリの腕の中で「痛いよ、主様」

「早急に手当が必要です」とアーサー。

エンリは「オーガラットを倒した隙に制圧出来る筈だ。他の奴等に任せて、とりあえず我々は戦線を離脱するぞ」


その時、三つの頭と翼をもつ蛇龍が出現した。

それを見たボエモンが「アジダカーハだ。あれはドラゴンが居ないと無理だ」


エンリはカラバ侯爵に連絡し、全軍撤退の号令を下した。

カラバ軍とポルタ国軍は退却。



戦いが終わった修道院跡。いまだ魔物たちの拠点となっているその場所で、キホーテ男爵が目を覚ます。

そこには人間と同じ大きさのネズミのゴーストが居た。


「お前がオーガラットだな。落とし穴とは卑怯な」とキホーテ。

ネズミのゴーストは「お互い様だ。私も卑怯な手で敗れた」

「何の話だ?」

そう問うキホーテに、オーガラットは言った。

「かつて私はこの地を治める領主として平和に暮らしていた。それをあの猫が・・・。奴は悪い魔法使いの使い魔だった。そして私をネズミの姿に変えて猫に食い殺させた。私は奴に復讐し、カラバ侯爵の地位を取り戻す。そしてあなたを正式に叙勲する。あなたは名のある騎士なのですよね?」


思いがけず、おだてられたキホーテは「私はスパニアにその人ありと言われたキホーテ男爵」

「あなたは世界を遍歴する正義の味方でしたよね?」とオーガラットは、更にキホーテをおだてる。

そしてキホーテは得々と妄想を語る。

「オランダで四枚羽のドラゴンを倒し、スパニア内乱では風の縛めの呪文を以て敵の主力たるドラゴンを倒し、かの国の守護神と呼ばれた。そして女帝の代理として、ここに来たのだ」


オーガラットは言った。

「私はネズミの姿で倒された。遺骨を依り代としてゴーストとして復活したが、頭骨は奪われたままで、それはカラバ城の地下にある。それがあれば完全な姿で復活できる」

キホーテはネズミのゴーストの手を執って「解りました。正しい歴史観のために、あなたの力になりましょう」



カラバ城ではファフがボエモンの治癒魔法を受けていた。

「もう大丈夫なの」と元気な声で言うファフ。

「それにしても、あのミラーデザードの魔法呪文は厄介ですね」とカラバ侯爵。

「キホーテさん、救出出来ませんでしたね」とリラ。

ボエモンが「まあ、居なくなったらなったで、面倒事が減って助かりますが」

「それは可哀そうだよ」とファフが言った。


その時、館の窓から門前を見ていたアーサーが言った。

「あれ、キホーテさんじゃないでしょうか?」

鎧に身を固めて槍を持ったキホーテが乗る痩せ馬が、とぼとぼ歩いて来る。

そして彼は城門の前で叫んだ。

「聖騎士キホーテ男爵参上」



出迎えようと出て来たエンリたち。ボエモンやカラバ侯爵、そしてペロも出て来る。

タルタははあきれ顔で「いつから聖騎士になったんだよ」

エンリは「とにかく良かった」とキホーテに笑顔を向けた。


だが、そんな味方たちの安堵を他所に、キホーテはカラバ侯爵に言った。

「カラバ侯爵、そしてケットシーのペロ。全て話は聞かせて貰った。善良な領主だったオーガ殿を騙し、ネズミに変えて虐殺した悪しき魔法使いがお前たちの先祖」

エンリ、唖然顔で「それ、作り話だから」

「問答無用」

そう叫んでカラバ侯爵に向けて突撃するキホーテは、侯爵によって、あっさり返り討ちに遭った。


そして地下牢に幽閉されるキホーテ。

連れていかれるキホーテを見ながら、タルタが「何だったんだ? あれ」

「オーガラットに騙されたんだろうね」とアーサー。

エンリは「困った人だなぁ」と溜息をつく。



その夜、キホーテの居る地下牢で・・・。


キホーテが牢の中で呆けていると、目の前に一匹のネズミが・・・。

見ると、鍵を咥えている。

キホーテはその鍵で牢の扉を開け、鼠に導かれるまま地下通路を進んだ。


厳重に鍵のかかった部屋の前に辿り着くと、もう一匹のネズミが持ってきた鍵で、重そうな扉を開ける。

扉を開けると部屋の真ん中に魔法陣。その中心に古代文字の書かれた台。

そして台の上に封印の施された木箱。

封印を破って木箱を開けると、人の頭骨ほどの大きさのネズミの頭骨があった。



その頃、エンリたちは客間で、次の戦いに備えてお茶を飲みつつ体を休めていた。

戦闘についてあれこれ言う中で、話題は自然と敵に丸め込まれたキホーテの話になる。

「キホーテが言ってたのって、昔話だよね?」とタルタ。

「だからオーガラットに騙されたんだよ」とエンリ。

「魔法使いにネズミに変えられたとか、ここの領主だったとか」とジロキチ。

「騙されて自分で変身したんじゃなかったっけ?」とニケ。


「平和に暮らしてた人間の領主だったって」とリラ。

エンリは「いや、あれはレコンキスタで追われたアラビア人領主の使い魔だよ」

「けどさ、彼等にしてみればレコンキスタ自体が侵略って事になるんじゃ・・・」とアーサー。

「その前に彼等がここを侵略して支配した訳だろ。それまで平和だったとか言うけど、要するに"実効支配"とか言って居座ってただけだよ」とエンリ。

「つまり、どっちもどっちと・・・」とカルロ。


エンリは言った。

「要は、実力による奪い合いの時代って訳だろ。けど、正義を名乗って相手にその認識を受け入れろと、奴らは主張してる訳だよね? それは実力による奪い合いを越えた正当性が前提だよ。その正当性が通用する時代だったかどうかって事も含めてね。その正当性と称するものが歴史を改竄した一方的な被害者意識だってんじゃ、話にならない。ただの詐欺だよ」

「それで相手が譲ってくれたとしても、どうせ後になって戦勝国による力の正義だとか、騙された方が悪いとか言い出すんだろうし」とニケ。

「それは通用しないよね。正義の名を騙って相手に譲らせた側の責任ってものがあるんだから」とアーサー。



その夜、ポルタ大学から大きな烏が飛び立った。烏の背にはローラ・遠坂・間桐。そして若狭とムラマサ。

パラケルサスと図書館長が見送る。

烏が飛んでいく空を見上げて、図書館長は「頼みましたよ」と呟いた。

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