第153話 長靴の騎士
タルタがレジーナと一緒に拾った、怪我をした雌猫のタマ。
彼女はケットシーで、しかも猫の女王の座を争って追われる身。
彼等が逃げ込んだポルタ城に猫の軍勢を率いて乗り込み、タマの引き渡しを要求するケットシーの女王を、タルタとエンリはどうにか追い返す事に成功した。
エンリと仲間たちは全員でタマを説得する。
「とりあえず女王の座とか諦めて平和共存を考えようよ」
そう言うエンリに、タマは頑として「嫌だ」
ニケが「もう、こんなの放り出そうよ」
「タルタは戦ってくれるよね?」
そう言ってタルタにすり寄るタマに、彼は「猫を傷つけるのは嫌だ」
タマは「私がいればいいじゃないのよ」
タマは延々とタルタを口説いて同情を引いた。
そして・・・・・・・・・。
「それで結局懐柔された訳かよ」と、ジロキチはあきれ顔でタルタに・・・。
タルタは「いいだろ。猫可愛いだろ。可愛いは正義だ」
「何だかなぁ」と溜息をつく仲間たち。
「それでまた鉄化で防戦一方かよ」とエンリ。
タルタは「それは向うの出方次第だと思うが」
その時、いつの間にか入って来た一匹の猫が、タルタの足元に・・・。
「シロちゃんじゃないか」
そう言ってタルタが抱き上げた白猫の首輪に、何か結んである。
「手紙だな」
その場に居る全員で手紙を読む。
曰く・・・。
「あなたにチャンスをあげます。猫のスタジアムにおいて三日後、総力戦による決闘で決着をつけましょう。あなたが勝てば女王の座はあなたの物です。決闘を受けるなら、この猫にそう伝えなさい。現女王より。叛逆者タマへ」
タマはタルタに擦り寄る。
そして「タルタ、助けてくれるわよね?」
「けど総力戦って?・・・」
そうタルタに問われて、タマは「助っ人無制限の決闘バトルよ」
ジロキチは「タルタ、お前。猫に反撃できるのかよ」
「この間みたいに鉄化して諦めるまで待つさ」
そう答えたタルタに、タマは「私、狭い所は十分が限度なんだけど」
「誰のためだと思ってるんだよ」とあきれ顔のタルタ。
「それと、制限時間を越えると挑戦者の負けだから」とタマ。
「駄目じゃん」と仲間たちは言って溜息をつく。
するとニケが言った。
「それはどうかしら。攻撃用の魔道具って手もあるわよ」
「またマタタビ酒かよ」
そう言って溜息をつくタルタを他所に、ニケは白猫に言った。
「シロって言ったわよね? 女王猫に決闘を受けると伝えてくれるかしら」
三日後、シロが迎えに来た。
タマとタルタ、そしてエンリ王子と仲間たちは、先導する白猫の後をついて城を出て街の外へ。
森に入って細道を歩く。
リラは周囲を見回しながら「どこに行くんでしょうね?」
アーサーが「恐らく、ケットシーたちの固有結界かと」
森を歩いてしばらく行くと、大きな木の洞を闇が閉ざしている。
その闇をくぐると、周囲を崖で囲まれた場所に出た。
その中央にケットシーの女王と、それを囲んで無数の猫たち。
エンリたちを見て、猫の女王は「皆さんは参加者じゃないですよね?」
「立会人ですよ」とエンリ王子。
「参加者は俺一人だ」
そう宣言するタルタに女王は「あなたは確かに守りは鉄壁ですが、攻撃は出来ないですよね?」
「それはどうかな?」とタルタ。
すると女王猫は「魔道具を使うのですよね? けど、その手は通用しません」
一斉にガスマスクをつける猫たち。
「な・・・・・」
唖然顔のタルタに、女王猫は勝ち誇ったように言った。
「マタタビ酒で酔わせるつもりですね? それはそこの女が用意した。けれどもこれでマタタビの匂いに惑わされる事はありません。では勝負開始!」
女王の号令とともに、猫たちが一斉に飛び掛かろうとした時、タルタは記憶の魔道具を取り出した。
録音したリラの人魚の歌が再生され、猫たちはバタバタと倒れて眠った。
猫たちが眠った事を確認し、タルタとタマ、そして立会人のエンリたちは耳栓を外す。
ニケは「彼等は私が薬物の専門家だと知ってるから、魔道具と言えばマタタビ酒の事だと思い込んだのよね」と言って、したり顔。
アーサーも「タカサゴ島で魔道具に記録した音が使えると知ってたからね」
目を覚ましたケットシーの女王は言った。
「約束は約束です。タマ、女王の座はあなたに譲ります。ですが猫は自由です。その意味をあなたは思い知る事になるでしょう」
決闘場の固有結界は消え、猫たちの姿も消えた。
タマは嬉しそうにタルタに飛びついて「タルタ大好き」
「現金な奴だなぁ」とタルタ、あきれ顔。
そしてタマはエンリたちに言った。
「とにかく私は今日から猫の女王よ。みんなを猫の国に招待してあげるわ」
更に森の奥へ進むと、巨大な欅の幹に大きな洞。
タマが二本足で立って手を翳すと、その中は真っ暗な闇に変わる。
その中に入ると街があり、街の中心に城。
タルタは周囲を見回して「ちゃんとした街なんだな」
ファフが「けど、誰も居ないよ」
「そんな筈は・・・・・」とタマは不安顔で言う。
城に入るが、もぬけの殻だ。
青くなってタマは周囲に向けて叫んだ。
「みんなどうしたのよ。衛兵は? メイドや執事は? 家来たちは?」
そんなタマに、エンリは溜息をついて、言った。
「さっき女王が言ってたよね。猫は自由だって」
「全員出て行ったって事かよ」とジロキチも溜息をついて・・・。
タルタは「お前どれだけ人望・・・じゃなくて猫望が無いんだ?」とタマに・・・。
タマはヤケ気味な声で言った。
「いいもん。権力なんて要らない。私は女王として手に入る、たった一つのものが欲しかっただけなんだから。それをこれから取りに行く。タルタ、一緒に来てくれるわよね?」
「どこに行くんだよ」とタルタは怪訝顔で・・・。
タマは「カラバ侯爵領よ。そこに私の好きな男性が居るの。ケットシーの騎士団長、ペロ子爵よ」
「あの長靴を履いた猫の一族の長かよ」
そう驚き顔で言うタルタに、タマは「代々の女王は、あの一族の長を婿に迎える習わしなの。私は彼を手に入れるために女王になったの」
ある粉挽き職人に3人の息子が居た。
父親が死ぬと、その遺産は二人の兄が山分けし、三男は一匹の飼い猫を押し付けられた。
三男が途方に暮れていると、猫は言った。
「私に長靴と袋を下さい。そうすれば、私があなたに全てをあげましょう」
猫は長靴を履くと、ウサギを捕まえて袋に入れた。
そして王が家来を連れて狩りに来るのを見計らい、森の動物に警告して彼らを逃がした。
獲物をとれずがっかりしている王様に、猫は「我が主人カラバ侯爵が狩りをして得た獲物を献上せよとの事ですので」と言ってウサギを差し出した。
王は喜び、カラバ城を訪問する事になった。
だがその周囲の土地は、オーガという魔法を使う巨鬼が支配しており、村人たちはその支配に苦しんでいた。
猫は村人たちに「カラバ侯爵を主と仰げばオーガを退治してやる」と言って彼らに領民になる約束をさせる。
そして、オーガの城に行って、魔法比べを持ちかけた。
「どんなに大きなものに化ける事は出来ても、小さなものに化ける事は出来ますまい」
そう言って挑発し、オーガを鼠に変身させた所を食い殺した。
そして王の訪問を迎える三男が礼服を持たないため、一芝居打って、村人の一人を案内役に使って王の一行を誘導させた。
そこで三男に水浴びをさせ、"自分の失態で衣服が泥棒に盗まれたので死んでお詫びを"と騒いでいる所に王が通りかかった。
王は同情して礼服を用意させ、同行した姫はカラバ侯爵を名乗る三男を気に入り、彼は王の婿になった。
そして猫はその家来として貴族に取り立てられた。
「ただの伝説だよね?」
そう疑問顔で言うタルタに、タマは「ペロ様はケットシーの英雄よ。ペロ一族の長を継ぐ彼の子孫は、代々のケットシーの女王の婿に迎えられる習わしで、私は今の当主になる彼に恋をしたの。だから私は女王になって、彼と結ばれるの」
「そんな事のためにこの騒ぎを起こしたのかよ」とジロキチ、あきれ顔。
「そんな事って何よ。女の子の恋は全てに優先するのよ」と言ってタマは口を尖らす。
「何だかなぁ」と仲間たちは溜息。
一人と一匹は首都を出てカラバ侯爵領に向かい、その城下の街に入った。
「こっちよ」
タルタがタマについて行くと、路地裏を通って空地に入る。
小さな小屋と古い異教の神を祀る祠。そして何匹もの猫。
そんな様子を見て、タルタは「ここがケットシーのたまり場かよ」
「ペロ一族の連絡場所よ」とタマ。
彼女はそこに居る、一番強そうな猫に言った。
「私が新しいケットシーの女王よ。私のお婿さんはどこかしら」
猫は言った。
「タマさんですね。話は聞いています。彼は当主の座を放棄しました。代りの当主が誰になるかも当分決まらないと思いますよ」
「そんなぁ」とタマ、絶句。
タルタは溜息をついて「お前が結婚相手になるって聞いて逃げたんじゃないのか?」
「そんな訳・・・・」とタマ、絶句。
「お前、どんだけ嫌われてるんだよ」とあきれ顔でタルタは言った。




