第152話 ケットシーの女王
タルタは猫カフェ「ミケ子」の従業員レジーナと、怪我をした雌猫のタマを拾った。
だがタマはケットシーで、怪我は猫どうしの争いによるものだった。
タマとレジーナは猫たちの襲撃を受けてタルタのアパートに逃げ込み、タルタはニケから買ったマタタビ酒で猫たちを撃退した。
タルタはレジーナとタマを連れてポルタ城へ。そしてエンリ王子の元へ。
アーサーや他の仲間たちも集まり、全員でタルタから事情を聴く。
「なるほどね、女王の座を狙う反逆分子として狙われてるって訳か」とエンリ王子。
ニケが「こんなの本気で匿うの?」
アーサーも「猫の世界に関して人間は部外者だよね?」
するとタマが「一宿一般の恩義って言葉、あるわよね?」
「いや、恩義を与えてるのはこっちだろ」とジロキチあきれ顔。
「三日餌をやったら一生恩を忘れないって人間の諺よね?」とタマ。
エンリが「それは違うぞ」
「そうだよね。あれは犬の話だ」とタルタ。
「じゃなくて、だからお前は餌を貰った側だろ」とエンリはタマに・・・。
レジーナはタマを庇って「けど、見捨てるのは可哀想かと」
「レジーナさんは優しいなぁ」とタルタ。
リラも「私もこの子を一人で放り出すのは忍びないと思います」
「一人じゃなくて一匹だけどね」とカルロが突っ込む。
エンリは言った。
「話し合ったらどうかな?」
「猫に話が通じるのかよ」とジロキチ。
ニケが「人語喋ってるけど」
するとアーサーが「ケットシーは道理を弁えますよ」
タマも「そうですよ。猫を差別しちゃ駄目です。人間なんかよりよほど道理を弁えます」
エンリはあきれ顔で「お前、人間を差別してない?」
「まあまあ」
アーサーはそう言ってエンリを宥めると、ケットシーにまつわる言い伝えを話す。
「ある農民が家畜の餌を茹でていると、それを盗み食いした猫が居たので、農民はその猫を棒で殴りつけたそうです。猫は猫の王に訴え、猫の軍を引き連れた王が仕返しに来た。けれども農民から訳を聞いた王は、その猫に"お前が悪い"と言って引き上げたと」
エンリはタマに問う。
「そもそもお前、何をやったんだ?」
タマは「先代の女王が死んで、次の女王を決めるための正々堂々の決闘に参加しただけよ」
「それであの怪我を?」とレジーナ。
タマは不満そうに言った。
「候補として名乗り出た猫全員でのバトルロイヤルよ。なのに奴等は卑怯にも全員で私を狙って・・・」
ジロキチは「よっぽど人望・・・じゃなくて猫望が無かったんだな」
「それで決まった女王に再戦を。だって納得できないじゃない。堂々の決闘の筈が多勢に無勢の袋叩きよ」とタマ。
カルロはあきれ顔で「それも含めてのバトルロイヤルだろ」
「で、それで再戦って?」とエンリ。
タマは「女王の通り道に大トロの切り身を乗せた皿を置いて上に大きな籠を」
「そんな罠に引っかかる猫が居るのかよ」とタルタ。
「いや、猫だぞ」とジロキチ。
「けど知能はあるんだよね?」とカルロ。
タマは「籠を吊るした紐を持って待ち構えている所を半殺しに」
全員溜息をついて「やっぱりお前馬鹿だろ」
「ってかそれ決闘じゃないから」とエンリが指摘。
「あの大トロ、高かったのよ」とタマは不満げに言う。
「そっちかよ」
「それで、こいつ匿うの?」とニケがあきれ顔で・・・。
ジロキチもあきれ顔で「同情の余地は無いと思うが」
タマは「私の王位のために奴等をやっつけてくれるんじゃないの?」
全員、声を揃えて「あのなぁ!」
「こんなのの相手してると、下手すると猫と人間の戦争だよ」とアーサー。
ニケが「叩き出す?」
するとタルタは「いや、それはさすがに・・・」
その時、城の門番が報告に来た。
「あの、エンリ王子、城門の所で王子に話があるという方々が」
「誰だよ?」
そう問うエンリに門番は「それが、猫なんですけど」
「もう来たかよ」と仲間たちは言って、一斉に席を立った。
エンリは城門の上の櫓に立って、門の前に居る猫に向けて大声で言った。
「俺がエンリ王子だが、お前たちは何者だ?」
猫の中の一匹が二本足で立って、応える。
「私はケットシーの女王です。タマという反逆者を引き渡して頂きたい。これは人間とは無関係な、猫社会の問題です。おとなしく引き渡すなら、私たちは人間に危害を加えません。さもなくば・・・」
「さもなくば?」とエンリ。
女王は満面のドヤ顔で言った。
「あなたの秘密をバラします」
「はぁ?・・・」
そう唖然声を発するエンリに、女王は「人は猫に見られていると知らずに悪事や愚行を繰り返す。その秘密を猫たちは全部知っている」
「一体どんな秘密を?」とエンリは冷や汗顔で・・・。
女王はドヤ顔で「エンリ王子、あなたは魚に欲情する性癖がありますね?」
残念な空気の中、エンリは溜息をついて「それ、みんな知ってるから」
女王は焦り顔で「戦争でドラゴンを使う事を胡麻化すため、ロキ仮面という痛い芝居を」
エンリは溜息をついて「それもみんな知ってる」
とてつもなく残念な空気が流れる。
そして女王は言った。
「と・・・とにかく、私たちに敵対すると酷い目に遭いますよ。猫は執念深いです」
エンリは「蛇よりもですか?」
女王は涙目で「そんな言い方されたら私たち、滅茶苦茶嫌な生き物みたいじゃないですか」
「知りませんよ」と言って溜息をつくエンリ。
とてつもなく残念な空気が流れる中、エンリは言った。
「とりあえず、人間として介入するつもりはありません。猫の問題だというなら、当人・・・じゃなくて、当猫どうしで話し合って下さい。そしてなるべく穏便に、水に流す方向で行く事をお勧めします。猫はどうだか知りませんが、人間は血を見る事を好みません。それは理性であり、報復の対象となるものではない筈です」
「解りました」と猫の女王。
タマは慌ててエンリに「私を一匹で突き出すの?」
「付きそう希望者が居なければ、そうなるよね」とエンリは冷たく言い放つ。
タマは縋るような目で「レジーナさん」
仲間たちは溜息をついて「いや、彼女には無理だろ」
するとタルタが「俺が行くよ」
城門が開いてタルタとタマが猫たちの前に出て来た。
女王はタルタを指して「あの人は何ですか?」とエンリに抗議。
エンリは言った。
「ただの付き添いですよ。彼はあなた達を傷付けません。あなた達が彼のアパートを襲撃した時もそうでしたよね?」
「それは・・・」
エンリはドヤ顔で言った。
「彼の部屋のガラスを壊しても、あなた達を傷つけませんでしたよね?」
「そ・・・それは・・・」
痛い所を突かれた女王は尻尾を垂れる。
猫の軍団に向き合うタルタとタマ。にじり寄る猫たち。
「あのさ・・・」
只ならぬ殺気を前に、タルタがそう言いかけた時、ケットシーの女王は号令を下した。
「かかれ!」
女王のその掛け声で、猫たちは一斉に一人と一匹に襲いかかった。
タルタはタマを懐に入れると、蹲って鉄化。
そしてタマを包んだ衣服ごとオリハルコン化したタルタには傷ひとつつかなかった。
ケットシーの女王は城門の櫓に向けて叫んだ。
「エンリ王子。何故彼はこの叛逆者を庇うのですか? 人間は介入しないと言った筈だ」
エンリはドヤ顔で反論。
「私はこれを話し合いだと言い、あなたは同意した。ところが問答無用で彼らを襲った。約束を破ったのはあなた方です」
女王は言葉に詰まり、溜息をつくと、櫓の上のエンリに言った。
「解りました。今日のところは撤退します」




