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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第147話 火山の精霊

ジャカルタを支配するマラッカ王国とポルタ植民都市との誤解による争いを終わらせたエンリ王子。

その和解の宴の中、ポルタ商人たちがマラッカ王国の人たちを騙して自分たちの強さを誇示しようとした事が裏目に出た。

王国の人たちはシンガポール島に閉じ籠り、交易が出来なくなった。

その状況を打開すべく、その対岸で派手なイベントを開いて、島に閉じ籠った彼等を誘い出そうと・・・。


そのイベントとして開かれた天下一武闘会で優勝したのは、決勝戦でジロキチを破ったエンリ王子だった。



エンリ王子優勝を高らかに宣言した司会兼審判。

彼は続けて「では、優勝者のエンリ王子には・・・、エンリ王子には・・・、あの、賞品とか何かありましたっけ?」


とてつもなく残念な空気が流れ、大会を運営する植民市幹部たちが額を寄せて相談開始。

「賞金じゃないの?」

「そのお金、誰が出すんだよ」

「商人ギルドだろ」

「普通、言い出しっぺじゃないのか?」

「誰だっけ?」

「エンリ王子でしょ」

「こういう時は政府が補助金出して賄うものだ」


そして・・・。

「なので王太子としてポケットマネーで」と、声を揃える大会運営の人たち。

エンリは困り顔で「いや、俺、受け取る側なんだが」

「そんなぁ」

出場者達が一斉にブーイング。



困り顔のエンリは必死に思考を巡らす。そして・・・。


彼は観客席に一画に、ある人物を見つけた。

そしてそこを指して「いや、それはそこに居るマラッカ王にお願いしたい。何しろここはマラッカ王国なのだから」


「いや、人違いでは」

そう言って慌てるマラッカ王にエンリは言った。

「あなた、目立ちまくってますよ。何しろピエロ服って目立つための服装ですから」

ピエロ服で仮装したマラッカ王は、困り顔で「けど賞品って」


「航海の自由でどうかと」とエンリ王子。



「あなたはその力でこのジャカルタを支配したのではないのですか?」

そう困り顔で言うマラッカ王に、エンリは言った。

「支配して、どうすると言うのでしょうか? 支配した相手から奪うのですか? ですが、誰かを支配しても、その誰かが持っている物以上を奪う事は出来ない。しかし、取引は互いを豊かにし、より多くの物を互いに与え合う。対等な者どうしの取引は、上に立つ事による支配より、遥かに多くの実りをもたらす。私たちは、そんな関係が欲しい」



ピエロ服を着て観客席に紛れていたマラッカ王の所に、エンリは、あの宴会を主催したポルタ商人たちを連れて行った。

「ごめんなさい。皆さんに出したのは黒豆と竹の子じゃなくて、石と竹です」と商人たち。

「何でそんな事を?・・・」とマラッカ王。


エンリは言った。

「力で上に立てば何でも出来る。力で上に立った者には何でも従わなくてはならない・・・。そんな勘違いは誰にでもあります」

マラッカ王は「それは勘違いなのでしょうか?」

「勘違いでしょう。だって人は自由です。嫌なら離れればいいだけだ。それをあなた達が、あの島に籠る事で証明したではありませんか」とエンリ。

「私たちはあなた達に逆らったのですか?」

そう言うマラッカ王にエンリは「それはあなた達の権利です」


「そんなつもりは無かったのですが。どうすればいいのでしょうか」とマラッカ王。

エンリは「これから正せばいい。こいつらも正します」

「解りました。私たちはマラッカに戻ります」とマラッカ王は言った。



その時、マラッカ王の元に王の侍従が来て、知らせをもたらした。

「大変です。タンクバンの火山が噴火しようとしています。何とかこれを止めて欲しいと地元の民から」


周囲が緊張した空気に包まれ、マラッカ王は真剣な目でエンリに言った。

「エンリ王子、あなたの力を貸して貰えませんか?」

エンリは困り顔で「いくら何でも火山を止めるって・・・」

仲間たちも「そんな事をしに来た訳じゃ無いんだけどなぁ」


だが、アーサーが言った。

「けど王子。あの辺には秘宝の片割れがあります。噴火で洞窟が埋まって回収不能になったりしたら・・・」

「それは困る」とエンリ王子。



地元民の案内で、ジャワ島のサンクバン火山の麓へ向うエンリ王子たち。


煙を噴いている山を見てジロキチが言った。

「あれが火山か? 何か違うような気がするんだが」

アーサーも「火山って普通、左右対称の円錐形だよね? けど、この山って、船を伏せたみたいな形だよ」


すると地元民が言った。

「あれは巨大な船を伏せたものです」

「いや、あんなデカい船は無いから」とエンリ。

「それに船は木で出来てますよね」とアーサー。


タルタが「土で出来てる泥船というのもあるけど」

「それはおとぎ話の中だけ」とニケ。

「ってかそもそも、その山が船を伏せたものだってのも、おとぎ話だよね?」とエンリ。



麓の村に着く。


心配そうな大勢の村人たち。

彼等を見て、エンリ王子は「何で村人は避難しないんだ?」


村長は答えた。

「行く所がありません。それで火山を鎮める儀式を王に求めたのだが・・・」

そしてエンリたちを案内した村人に「王からは供物に使う百頭のヤギを貰えなかったのか?」

その村人は「その代わりに、この人たちが来てくれた。彼等が火山を止めてくれる」


村に居た人たちがブーイングして「儀式のご馳走は?」

そんな彼等に、タルタはあきれ顔で「こいつら、そんな事期待してたのかよ」

村長は心配そうに「それに、いくら何でも、人の力で火山を止めるって・・・」

「それはこっちの台詞なんだが」とエンリは困り顔。



広場に、輿の上で着飾った女の子が泣いている。

そんな彼女を見て、エンリは「あの女の子は?」

「火山の精霊サンクリアンへの生贄に選ばれたんです」

そう言う村長に、エンリたちは「そんな・・・」


村人はサンクリアンの伝説を語った。


サンクリアン王子は、国を滅ぼされた王女に産み落とされた。

青年となった彼は、母親の元を離れて修行者として術を習得し、各地を旅する中、悪魔を配下に従え、仇敵ガルダ王国を滅ぼした。

そして旅を続ける中で、自分を産んだ王女と再会する。彼は母と知らずに王女に恋をし、結婚を申し込む。

困った王女は諦めさせようと「一夜で大きな船を造ることができたら」と結婚の条件を出す。

だがサンクリアンは船を作り始め、本当に一夜で船を完成させようとするが、王女は東の空に赤い布を翳して朝焼けのように見せかけ、サンクリアンは船を造る前に朝が来たと思い込まされた。

サンクリアンは造りかけの船を怒って投げ飛ばし、船はひっくり返ったまま大きな山になり、サンクリアンの怒りの炎を噴き上げる火山となった。



リラは叫んだ。

「そんなの駄目です」

「そうだよね、生贄なんて」と他の仲間たちは・・・。


リラは続けて「誰かに恋をした人は、他の女性をけして好きになりません」

「そそそそうだよね」と焦り顔のエンリ。

更にリラは続けて「生贄として差し出されたからって、他の女性を受け入れちゃいけないと思います」


そんなリラに、アーサーは「もしかしてそれって」

リラは慌てて「わわわ私は別にイザベラ様やファフちゃんに嫉妬してる訳じゃ・・・」

「嫉妬してるんだ」と溜息をつく仲間たち。


「解ってます。政略結婚は王家に生まれた者の義務なんですよね?」

そう寂しそうに言うリラに、エンリは「済まない」と言って、彼女を抱きしめる。

リラはエンリの腕の中で「いいんです。ただ、私も王子様の子を産みたいです」



沈痛な雰囲気が流れた。

そんな中でエンリ王子は訊ねた。

「アーサー、人化した魔物が人の子を産む事は可能か?」

「可能ですよ。人の形相を有しているのですから」とアーサー。

エンリは一瞬、嬉しそうな声で「本当か?・・・。けど何か条件があるんだよね?」

「妊娠期間に相当する間、魔物に変身できない事になりますね」とアーサー。

リラは寂しそうに「それじゃ、いざという時に王子様の役に立てません」


エンリはリラに向き直り、笑顔で言った。

「秘宝の片割れの回収が終わって、いろんな問題が片付いたら、俺の子を産んでくれるか?」

「王子様」と言って、リラはエンリの胸に顔を埋める。

「姫」とエンリはリラを抱きしめる。

「王子様」

「姫」

「王子様」

そうやって二人の世界に浸るエンリとリラに、アーサーは困り顔で「非常時なんで、そういうのは後にしてくれませんか?」

残念な空気が漂う。



アーサーは訊ねた。

「けど、どうやって噴火を止めますか?」


エンリは「溶岩を魔剣融合でコントロールしてみる」

「溶岩は炎ですよね?」とリラ。

「けど火山は大地なんじゃ・・・」とカルロ。


「大地の魔剣か炎の魔剣か・・・どっちだろう」

そう言って悩む仲間たちに、ニケが「熱は炎だけど、溶岩は熱による大地の流動よ」



村人の案内で火山に登るエンリ王子たち。煙を吐く噴火口が見える所まで来る。

エンリはそんな山頂を眺めて「ここら辺でいいだろう」

「今にも噴火が始りそう」と心配そうなリラ。


「始めるぞ」

そう言って、エンリは大地の魔剣を抜いて地面に突き立て、融合の呪句を唱えた。

だが・・・。


大地は震動し、地響きとともに地下から重々しい声が響いた。

「拒否する。我が名は火山の精霊サンクリアン」

エンリ王子たち、唖然。

「マザコン王子、本当に居たんだ」

そうアーサーが言うと、地下から響く声が「誰がマザコン王子だ!」



アーサーは真剣な表情でエンリに「どうします。戦いますか?」

タルタが「マザコン王子対ロリコン王子」

「俺はロリコンじゃないから」とエンリは言って口を尖らす。

「でもお魚フェチ」とカルロ。


落ち込むエンリにリラは言った。

「王子様が変態でも私の愛は変わりません」

「姫」

「王子様」

アーサーは困り顔で「だからそういうのは後にして」

「ってかその性癖で姫との相性がピッタリだったのでは?」とタルタが指摘。



エンリ王子は気をとり直して言った。

「とにかく火山の精霊と話をつけよう」

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