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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第146話 武闘の王者

マラッカ王国の人たちを騙して自分たちの強さを見せつけようという、ポルタ商人たちの計略。

それは完全に裏目に出て、商売相手である筈の現地人王国は半島先端のシンガポール島に閉じ籠った。


これでは商売にならない、何とか彼等を誘い出そう・・・というエンリ王子たちの思案により、シンガポール島の対岸で開催されたのが、各地の猛者たちを集めた天下一武闘会。



急ごしらえの武闘会場。

広場の真ん中には、石敷きの格闘場。そして周囲に造られた客席に、多くの観客が集まった。


司会兼審判がマイクを持って格闘場に立つ。

「ではルールを説明します。相手を降参させるか戦闘不能にしたら勝ち。石敷の格闘場から出たら場外で失格。相手を殺したら失格。武器は使用可だが、相手を殺さぬように武器に不殺の呪いをかけて頂きます」



そして、いよいよ選手登場。

司会のアナウンス。

「では先ず第一試合。モロッコから来た格闘王ミスターサタン」


いかにも腕自慢といった体のマッチョ登場。

「俺は誰の挑戦でも受ける」とマッチョは叫ぶ。

そして司会は「対するは、タルタ海賊団率いる鋼鉄のタルタ」


出て来たタルタを見て、マッチョは「お前、いつぞやの殴られ屋」

「あの時のカモかよ」と、タルタは余裕の構えを見せる。

マッチョは精一杯の威嚇顔で「あの時みたいにならないように、メリケンサックでぶっ飛ばしてやる。お前、鉄になると動けないんだよな? 勝負は貰った!」


「では試合開始」と司会はゴングを鳴らす。

部分鉄化で構えるタルタを殴ろうと、メリケンサックをはめた右手で構えるミスターサタンは、タルタに殴られて場外に吹っ飛ばされた。


「勝者タルタ選手」と、タルタの手を上げる司会。

そんなタルタを見て、マッチョは「動けないんじゃなかったのかよ」

タルタは「部分的な鉄化で動けるようになったのさ」



「では第二試合、タルタ海賊団所属、曲芸サムライジロキチ。対するは東の国のミンから来た戦う銀幕星、ブルース選手」


その司会のアナウンスとともに出て来た眉の太い長身のマッチョを見て、ジロキチは言った。

「お前、俺の知り合いと似てるが、ケンゴローって奴の親戚か?」

「奴は俺のパクリさ」とブルース選手。

ジロキチは困り顔で「お前、ブロンソン先生にぶっ飛ばされるぞ」


「では試合開始」と司会はゴングを鳴らす。

「香港一の格闘家と言われた技、見るがよい」

そう言ってブルース選手はヌンチャクを持って構える。ジロキチは四本の刀を抜く。


「アチョー!」と奇声を上げるとともに、ヌンチャクを高速で回転させるブルース選手。それを左手に右手にと持ち替える。

「見よ、この華麗な技を。だが、こんなものではないぞ」


もう一本のヌンチャクを出して両手で高速回転させ、右手にあったものを左手に、左手にあったものを右手に・・・。

更に三本目、四本目。高速回転するヌンチャクをお手玉のように・・・。

そんな彼の技を見て、観客たちは・・・。

「すげー」

「けどあれ、いつまで続くの?」


ヌンチャクを延々と回し続けるブルース選手に、ジロキチは言った。

「お前、何か勘違いしてるだろ」

「何を言うか。曲芸勝負で俺に勝てる奴など居ない」とブルース選手。


ジロキチのこめかみがピクリと反応し、嶺打ちでブルースを気絶させた。

そして「曲芸じゃなくて武闘だ!」


「勝者ジロキチ選手」

司会のアナウンスとともに、担架で運ばれるブルース選手。



「第三試合。西の国スパニアから来た老骨の騎士、キホーテ男爵」

その司会のアナウンスとともに出て来た、鎧に身を固めた老人は叫んだ。

「ドラゴンある所にキホーテあり」

観客席のエンリたちはあきれ顔で「あの爺さん、まだ居たのかよ」


「対するはタルタ海賊団所属、ドラゴン少女ファフちゃん」

その司会のアナウンスとともにファフ登場。仲間の男性陣が観客席で盛り上げ役のオタ芸をやりながら「ファフたーん」と叫ぶ。

ニケとリラが「それ、恥ずかしから止めて」


ファフが「お爺ちゃん、腰、大丈夫?」

キホーテは「何の。内戦の時は邪魔が入ったが、今度こそ」


「では、試合開始」と司会はゴングを鳴らす。

ファフがドラゴンに変身。

そして・・・。

「尻尾が場外に出たためファフ選手失格。勝者キホーテ選手」

観客全員前のめりでコケる。


キホーテは勝ち誇る。

「見たか、聖騎士の技を。ドラゴンバスターキホーテ男爵ここに在り・・・こ、腰が痛い」

担架で運ばれるキホーテ男爵。

観客席のエンリはあきれ顔で「いや、技じゃないだろ」


そしてファフは観客席に戻って「主様、負けちゃったよ」

エンリは「お前は頑張った」

「じゃ、頭撫でて」と言って甘えるファフ。



「第四試合、ポルタの魔術師アーサー。対するは西方大陸の海賊ギラ」

司会のアナウンスとともに出て来たマッチョを見て、アーサーは言った。

「お前、まだ居たのかよ」

マッチョは勝ち誇ったような声で「あの時、魔法勝負で俺に負けたヘッポコ魔導士かよ」


「では試合開始」と司会はゴングを鳴らす。

ファイヤーボールを繰り出すギラを前に、抗魔の短剣を翳すアーサー。

ファイヤーボールはアーサーの目の前で消失。

アーサーはアースブレッドの魔法でギラを倒した。



試合の様子は魔導通信で中継され、音声実況でシンガポール島へ届けられた。

実況を聞きながら、あれこれ言う人たち。

「何だか面白そうな事をやってるぞ」

「あいつらってやっぱり強いんだよね」

「どんなふうに戦っているんだろう」



さらに試合は続いた。

アラビア人海賊と対峙したエンリは、水の魔剣と一体化して戦った。

三日月刀の一撃を受けながら、瞬時に回復して反撃。



ヒンドゥー聖騎士と戦ったニケは、無敵の魔法防御を誇る敵を銃撃で倒した。

「女は魔法で戦うのがセオリーじゃないのか?」

そう言う聖騎士にニケは「変な漫画やアニメの見過ぎよ」



カルロが戦ったのは、スリットの入ったスカートのワンピースを来た女性格闘家。

スリットを摘んで太腿をちらり。思わずカルロが身を乗り出した所を一瞬で詰め寄り、蹴りを叩き込む。

だがカルロは余裕でかわし、ナイフを一閃。服のかすめた部分が裂ける。


「何で戦えるのよ。男ってこういうので鼻血を噴いて戦闘不能になるものじゃないの?」

そう言う女にカルロは「変な漫画やアニメの見過ぎですよ」

すると女は「あなた、女性に慣れてるのね。今夜私の部屋に来ない? その時までこの体、傷つけて欲しくないんだけど」


「解りました。降参します」

あっさり降参した彼に、観客席に居た仲間たちは「カルロ、お前なぁ」



植民市の腕自慢たちも参加し、盛り上がる武闘会。

シンガポール島の人たちも試合の様子が気になって仕方ない。


「映像は見れないのかよ」と不満MAXであれこれ言う。

「見たけりゃ出て来いって事かよ」

「気になるなぁ」

「見に行こうよ」

「今更どの面下げて島を出るよ」

「変装してマラッカの人だとバレないようにすればいいんじゃないのかな?」


続々と小舟が海峡を渡り、観客席は仮装した人でいっぱいになる。



試合が進むにつれて次々に強敵が現れる。


アーサーに対するヒンドゥーの賢者が繰り出す攻撃魔法は、抗魔の短剣を翳すアーサーを倒した。

賢者は言った。

「その短剣は、相手の魔法に込められた敵意による効果そのものを打ち消すものですね? ですが、修行を積んで敵意の全く無い澄んだ心で戦う相手に効果はありません」



ニケとタルタが対戦。

部分鉄化したタルタの、鉄化していない左腕の関節に、ニケは銃弾を撃ち込む。

被弾箇所を右手で押さえるタルタに、ニケは「私に、その技は効かないわよ」

「だったら、鋼鉄の砲弾!」

そう叫んで跳躍しようとしたタルタは、そのまま眠り込んだ。

ニケは「さっきのは麻酔弾だから」



そのニケは次の準決勝で、全ての弾を弾き返すジロキチに敗れた。

そしてエンリ王子に準決勝で対したのは、あのカルロを破ったチラリズム女。

だが、彼女の技はお魚フェチのエンリには通じなかった。



そして、ついに決勝戦。

格闘場でエンリと向き合うジロキチは言った。

「まさか最後の相手が王子とは」

エンリは「俺だって進歩ってものがあるんだからな」


風の魔剣と融合したエンリは素早さをMAXにしてジロキチの四本の刃と切り結ぶ。

戦いながらジロキチは「上達しましたね。けど、技能はまだまだ」

エンリは「そりゃ四本も相手じゃ・・・。俺だってもっと刀があれば」


ジロキチは言った。

「本数ありゃいいってもんじゃない。複数の刀をそれぞれどう動かすか、複数の相手のどの刀がどこに来るかを見極めなきゃ意味が無いです。実戦では相手が一人とは限りませんから」とジロキチ。

「そんな事、今まで言ってなかっただろ」とエンリ。

ジロキチは「剣術は言葉より体で覚えるものです。王子にはもっと合ったやり方がある筈だ」


「そうだな」

そう一言言うと、エンリは呪句を唱えた。

「我が剣に宿りし汝風の精霊。ミクロなる汝、マクロにして母なる大気とひとつながりの剣となり、天翔ける如く舞い踊れ。操風あれ」


エンリの周囲の風が渦となる。その風を魔剣の刀身を包む風の気が取り込み、魔剣が指し示すジロキチの周囲の大気を取り込む。

高密度の風の壁に動きを封じられたジロキチは、風の魔剣の一撃を受けて倒れた。


「勝者エンリ王子」

司会のアナウンスとともに、会場に歓声が上がった。 

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