第145話 国家の引き籠り
ジャカルタの島々を版図に納めるマラッカ王国がポルタ商人の植民都市を反乱者と誤解して包囲する中、王宮に乗り込んだエンリ王子の説得により、ポルタ植民都市反乱の認定は取り消され、包囲は解かれた。
そして交易の自由は確認され、ジャカルタ商人たちはポルタ商人から航海術を教わる事になった。
王宮を出て砦に戻る最中、案内役の商人はエンリに言った。
「あいつらが直接胡椒とか売り込みに来ると、俺たちの出番が無くなるんじゃないですか? その手助けをするって、どうなんですかね?」
エンリは「いきなりこの遠距離を航海するのは無理だろ。それに、俺たちが教えなきゃ、アラビアやインドの奴等に教わるだけだと思うぞ。要はお互いに利益の出る値段で取引するのが大事なんじゃないのか?」
騒ぎが片付くと、反乱の嫌疑を解かれた植民市の幹部は、和解を祝って、王宮の人たちやジャカルタ商人たちを招いて、宴を開いた。
ポルタのワインと御馳走に舌鼓を打つジャカルタの人たち。
「これは美味い」とマラッカ王。
「フランスという国の料理は世界三大料理の一つと言われています、政治争いに負けた貴族の料理人が屋敷を出て料理店を開いたのが始りでして」とエンリが蘊蓄を垂れる。
マラッカ王は「金持ちが没落したら誰が客になるんだ?」
「平民の商工業者が金持ちになって宴会料理を楽しむんですよ」とエンリ。
「このお吸い物も旨そうですね」とマラッカ王。
「これはジパングの料理です。黒豆と竹の子ですよ」と、隣に居るポルタ商人代表。
お吸い物の黒豆と竹の子をポリポリと美味そうに食べるポルタ人たち。
ジャカルタの人たちもお吸い物に口をつける。だが・・・。
お吸い物の具は硬くて、まるで歯が立たない。
マラッカ王は隣に居る大臣に小声で「何だこの豆は。まるで石のようだ」
「これ、タケノコじゃなくて竹じゃないですか?」と大臣。
「けどポルタの奴等、旨そうに食ってるぞ」とジャカルタ商人の一人が・・・。
「とんでもない頑丈な歯と顎の筋肉だな。俺たち、こんな奴等と戦ってたのかよ。噛み付かれたら一たまりも無いぞ」と、将軍が隣に居る部下に・・・。
「ユーロ人って、みんなこんなのか?」と大臣は将軍に・・・。
そしてジャカルタの人たちは一様に呟いた。
「怖ぇーーーーー」
宴が終わると、マラッカ王は言った。
「エンリ王子、それにポルタの皆さん。あなた方の強さがようやく解りました。今まで逆らったりしてごめんなさい」
そんな王にエンリは「はぁ?」と怪訝顔。
宴の後片付けとなる。
洗い場に運ばれるお膳を見て、片付けを手伝いながらリラが言った。
「ジャカルタの人たち、こんなにご馳走残して・・・」
「何だろうね?」とタルタも言うと、ファフも言った。
「美味しいのに。ファフが食べちゃっていい?」
「残飯処理かよ。児童虐待でクレームが来るぞ」とジロキチ。
「いや、こいつはドラゴンだから」とタルタ。
残ったお吸い物に箸をつけるファフだが・・・。
「これ、黒豆と竹の子じゃなくて、石と竹だよ」
宴を主催したポルタ商人たちを追及するエンリ王子。
商人たちは「今後のために俺たちの強さを解らせてやろうと。効果てきめんでしたよね?」
「あいつら騙したのかよ」と困り顔のエンリ。
「二度と逆らいませんって言ってたじゃないですか」
そう得意げに言う商人たちに、エンリは心配そうに言った。
「けどなぁ、恐怖心ってのは相手を従わせるプラスの側面だけじゃない。相手に敵対的な行動をとらせる最大の要因でもあるんだぞ」
翌日、街に出たエンリと仲間たち。
街はもぬけの殻だった。
「おい、どうなってる。現地人商人はどうした」
様子を見に行った商人が戻って来て「王宮にも誰も居ません」
「インド商人とアラビア商人は?」
そう問うエンリに、その商人は「商売にならないと言って引き上げたようです。それと王子、王宮にこんな書置きが・・・」
書置きはマラッカ王からのものだった。
書面に曰く。
「ポルタの皆さんの強さはよく解りました。おとなしく首都は明け渡しますので、ご自由にお使い下さい。私たち王家と臣下、そしてその民一同、皆さんに逆らった愚かさを反省し、引き籠る事にしましたので、探さないで下さい」
エンリ唖然。
「いや、ご自由にったって、俺たち商売しに来たんだが、相手が居なきゃ話にならんだろ。どーすんだ、これ」
「まあ落ち着いて下さい、王子」
そう言う商人にエンリは「誰のせいだよ」
商人は「胡椒はここで獲れる訳じゃありません。地方に行って買い付ければいいだけの話ですよ」
だが・・・、やがて買い付けから戻った商人たちから報告。
「取引、拒否られました」
エンリは「何ですとー」
「それと、こんな手紙が・・・」
そう言って商人が渡した現地人からの手紙に曰く。
「お話はマラッカ王から聞きました。私たちみたいな雑魚が皆さんのような無双豪傑と対等ヅラして取引とか、千年早かったのだと知りました。これからジャカルタの民一同、皆さんの相手に相応しい者になるよう頑張りますので、それまで取引は自粛させて頂きます」
エンリは頭を抱えて「だから言わんこっちゃない。どーすんだ、これ」
そして植民市の人たちに「とりあえず王家の奴等はどこに行った」
アーサーは植民市に居る魔導士と協力して、各地に使い魔を飛ばす。
商人たちは情報網をフル回転。
そして・・・。
「エンリ王子。マラッカ王の行方が解りました。半島の先端にあるシンガポール島です」
「とにかく事実を話して誤解を解こう」とエンリはポルタ人たちに号令した。
シンガポール島に行くと、島全体が結界で覆われていた。
タルタはあきれ顔で「よくこんなデカい結界を」
「声は向うに届くんだよな?」とエンリ。
アーサーは「その筈ですが・・・」
拡声の魔道具で事実を話して島から出るよう促すが、反応は無かった。
「聞く耳も持たないって訳かよ」と溜息をつくエンリ。
「今更言っても信用されないって事か?」とアーサー。
「よほど怖がられたんだな。どうするよ」とタルタ。
その時、ジロキチが言った。
「俺の故郷にこんな話があるんだが・・・」
大昔、姉女神と弟神が賭けをした。
勝った弟神は調子に乗って悪さをしまくり、みんなに迷惑をかけた。姉女神は困って洞窟に引き籠り、世界は闇に覆われた。
みんなは弟神を追放すると、何とか姉女神に出て来て貰おうと説得した。だが頑として出てこない。
そこでみんなは一計を案じ、洞窟の前で宴会を開いた。
そして芸をやって盛り上がり、姉女神を誘い出した。
話を聞いたエンリは言った。
「つまり、島の対岸で宴を開いて、芸で盛り上がって誘い出すって訳か」
「見たくなって自分から出て来るような芸でなきゃ・・・だな」とタルタ。
するとカルロが「おれ、ジョークをやります」
「お前のはつまらん」
そうエンリに言われてカルロは「そんなー」
ジロキチが「なら俺が曲芸で」
「三日で飽きられたわよね?」とニケ。
「ファフがUМAで」とファフ。
「ドラゴンは怖がられるだろ」とジロキチ。
リラが「私が人魚の芸で」
「あれ、人魚じゃなくてイルカの曲芸」とアーサー。
するとリラは「いえ、人間もやるそうです。島崎君という人の得意技と聞きました」
「何の話だよ」とエンリ、あきれ顔。
タルタが「芸ならアーサーのイリュージョンかと」
「俺、手品師じゃなくて魔法使いなんだが」とアーサー。
カルロが言った。
「ってか、彼等は俺たちを最強だと思ってるんだよね? だったらそれを逆手にとった見世物はどうかな?」
「何をするんだよ」
そうエンリが言うと、アーサーは思いついたように言った。
「そうか。天下一武闘会ですよ」




