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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第144話 売り手と買い手

ジャカルタの大半を版図に納めたマラッカ王国。

ポルタ商人の交易のための植民都市を認め、関係を築いてきた王国であったが、子供の冗談に端を発した誤解による反乱認定によって、植民都市は現地軍に包囲された。

この誤解を解こうと、エンリ王子とその仲間は、包囲網をかい潜って王宮に入り、王との直談判を計る。


王宮の扉の前に立つエンリ王子たち。

「ここからが正念場だぞ」とエンリは気を引き締める。

ジロキチは「待ち構えてるのは精鋭揃いの親衛隊だよね」

アーサーは「いや、きっと凄腕の魔法戦士だ」

カルロは「実権握ってるのが十代後半の敏腕王女で親衛隊は美女揃いの姫騎士軍団」

ニケは「鎧も剣も値の張る貴重品なのよね。倒して没収したらいくらで売れるかしら」

「お前等、何を期待してるんだ?」と、あきれ顔のエンリ。



扉を開けて王宮に入ると・・・ホールに受付が居た。

受付嬢が「いらっしゃいませ。どのような御用でしょうか」

全員前のめりでコケる。


エンリは気を取り直して、受付に言った。

「ボルタから来たエンリ王子だ。停戦交渉に来た。王様と話がしたい」

「アポイントはとっておられますか」と受付嬢。

「非常時なのでそれは無い。だが、こちらも王族なので相応の対応をお願いしたい」とエンリ。

「しばらくお待ち下さい」と受付は言って、通話の魔道具で上に連絡。


タルタは言った。

「何だか俺たち、どこぞの国際会議で会談拒否られた挙句、相手国代表に対するストーカー行為で無理やり捻じ込んで会談迫った、どこぞの国の国家元首みたい」

エンリは憮然とした顔で「俺は条約破って居直ってる訳じゃないぞ」



やがて受付嬢は「お待たせしました。こちらへ」

そして謁見室に案内されるエンリ王子たち。



謁見室では、正面の玉座に国王らしき男性。周囲に大臣や将軍らしき人物たち。そして大勢の警護兵。

あきらかにこの国の人ではない者が何人も居た。


「あなたがエンリ王子ですね?」とマラッカ王。

エンリは「はい。マラッカ国王陛下とお見受けします。ポルタ人植民市に対して行われている戦争は誤解によるものです。停戦交渉を求めます」

すると一人の外国人が「交渉の余地など無い」


エンリは彼に言った。

「あなた、アラビア商人ですね。そちらはインド人商人でそちらがミン人の方だ。何故、外国の方が返答するのですか? 私は国王陛下の答えが聞きたい」

マラッカ王は「このジャカルタは多様な文化を持つ多様な民が共存している。様々な国の民が多様性をもって共存する事でしか、まとまりを保てない」

「共存というより、自分達の立場をあたかもこの国の立場のように主張しているだけのようですが?」とエンリ。

「我々に矛先が向いている訳ではない」

そう言うマラッカ王に、エンリは溜息をついて「いいんですか? それで」



そしてエンリは、外国人商人たちに言った。

「あなた達、ポルタを排除してこの国の交易を独占したいだけですよね?」

するとアラビア人商人が「そんな事は無い。都の井戸に毒を投げて国を乗っ取るという陰謀があった」

案内役として連れて来たポルタ商人が「あれは子供が言った冗談です」


すると王の脇に居る大臣らしき人物が「そんな事は無い。市民兵の指揮官が言ったと聞いた」

将軍らしき人物が「いや、商人組合の幹部が言ったと聞いたが」

神官らしき人物が「市長が補佐役と話していたと」


「誰から聞いたのですか?」とエンリが問う。

「アラビア商人だ」と大臣らしき人物。

「インド人商人です」と将軍らしき人物。

「ミン人の業者代表から聞きました」と神官らしき人物。


エンリは溜息をついて「ポルタ商人から貿易の利権を取り返したくて煽って騒ぎを大きくしているだけですよ」

「すぐには信じられない。彼等とは建国以来からの付き合いだ」とマラッカ王。



エンリは彼等を見て溜息をついた。

外国人たちは、結束して自分達を排除しようとしている。それは自分達という共通の敵を前に、初めて可能なのだ。


エンリは言った。

「解りました。私たちはどうやらこの国で嫌われたようです。植民市を畳んで撤退する方向で検討します」

マラッカ王は驚き顔で「何と・・・」

「エンリ王子、それは・・・」

そう言って慌てるボルタ商人に「まあ、任せておけ」


そしてエンリは言葉を続けた。

「ついては、我々が残した交易拠点を引き継いでくれる誰かを選んで貰えますか?」



外国人商人たちの顔色が変わり、彼等は好き勝手言い出す。

「是非我々アラビア商人に」

「いや、インド商人に」

「ミン人の我々が祖国との交易で大いに活用できる」

「我々インド人はずっと昔からこの地に関わっていたんだ」

「アラビア人は宗派が同じ取引相手なら信用は絶対。既に多くのジャカルタ人商人が我が教えに改宗している」

「我々ミン人は多くの労働力を提供できる。祖国でも多くの者が商売に携わっている」


いきなり利権争いを始めた三勢力を目の当りにして、マラッカ王唖然。

エンリの仲間たちもあきれ顔で「こいつらって・・・」と呟く。



そんな中でエンリは言った。

「あの、王様。ジャカルタ商人が自分達で交易をやったらどうですか?」

マラッカ王は「彼等はジャカルタの中では盛んに取引を行ってきた。その拠点として、多くの地方領主が港を中心として城下を発展させてきたんだ」

「ジャカルタから出て世界と取引はしないんですか? あいつらがあんなにも利権に拘るのは、他の地域との交易が儲かるからですよ。それに自分達も参加したらどうですか?」とエンリは王に問う。


アラビア・インド・ミンの商人は慌てた。

「それでは過当競争になって旨味が無くなる」

エンリは言う。

「だからこそ交易は自由であるべきです。独占すれば利益は大きい。それは取引する財貨を絞って売り込み先を品不足にするからです。相手はそれで高くても買おうと言い出す。不当に高く売ってボロ儲けできる。その儲けは全て、それを運んだ外国商人のものになる。彼等に物資を供給する側はそれを知らずに安く売り、彼等から高く買った側は供給を絞られて社会は豊かにならない」


「交易とはそんなに儲かるのか?」とマラッカ王。

「産出する所で安く買って必要とする所で高く売る。遠く離れた場所は気候風土が異なり、育つ産物も大きく異なる。だから交易でしか手に入らないものがある。それを中間に居る者が運んで高く売る事で差額を自分の利益とする。そうやって高い値で売り付けられた最後の買い手が私たちユーロなのです。かつてそれで胡椒一グラムを金一グラムで取引していました」とエンリ王子。

「そんな暴利を」とマラッカ王唖然。

エンリは「本来ならあなた達の利益だった筈です」


「では、これからは我々から胡椒一グラムを金一グラムで買ってくれると?」とマラッカ王。

「それは駄目です」とエンリ。

マラッカ王は外国人商人の方を見て「ではアラビア商人たちよ。これからは胡椒一グラムはを金一グラムだ」

アラビア人商人は慌てて「そんなの昔のユーロ人だけです」


そんなマラッカ王にエンリは言った。

「王様。胡椒の値段は下がっても、その分多く売れば儲けは出ます。他にも買ってくれる所は必ずある。その交易を自由化する事で、大勢で多くの財貨を運べば世界が豊かになります。ジャカルタの人たちも欲しい海外の産物はあるのですよね?」

マラッカ王は「そうだな。綿織物、ガラス器、時計や眼鏡、それに鉄砲や火薬も・・・」

「多分それは産地で売っている値段より高く買っている筈です。産地では安く売っている。自ら海を渡れば、その値段で買えるんです」とエンリ王子は言った。



マラッカ王は深く溜息をつき、正面に居るエンリ王子と、脇に控える外国人商人たちを見比べる。

アラビア・インド・ミンの商人たちは、いずれも嘘が露見した子供のように俯いていた。

そして王は言った。

「ポルタの王子よ。あなた方の立場はよく解った。反乱が誤解だというあなたの言い分は認めよう。これからも交易の相手として、誠実な付き合いをお願いしたい」

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