第142話 新大陸の未来
イギリスから新天地を求めて移住したスミスたちの開拓村に住み着いたポカホンタスと、彼女に呼ばれてそこを訪れたエンリ王子たち。
彼等を追い出そうとしたイギリスとオランダの植民都市による介入は、エンリたちと現地人協力者の助けを借りて、阻止された。
撤退していくニューアムステルダム側のオランダ人勢力を見て、エンリはスミスに言った。
「この勢いで奴等の街を占領でもするか?」
スミスは悩み顔で「だとしても、次が来るだけですよ」
「けど、このままだと、また攻めて来ますよね」とポカホンタス。
「なら、休戦の話し合いと行くか」とエンリは言って周囲の人たちを見る。
ドラゴンに乗って敵の街に行くエンリとアーサー。そして開拓村代表としてスミスが同行した。
港に降り立つドラゴンに、武器を持って身構えるニューアムステルダムの市民兵たち。
エンリは自分達を取り囲む市民兵の指揮官らしい男に言った。
「話し合いに来た。我々はお前たちを追い出すつもりは無い。交易は自由であるべきだ」
まもなくオランダ人植民市の市長が出て来た。そして話し合いが始まる。
ニューアムステルダム市長は言った。
「我々とは誰のことだ。イギリスか?」
スミスは「イギリスとやり合うというなら、バージニアを相手にしたらどうだ?」
すると市長はスミスに「我々には、お前たち農業植民が脅威だ」
「どういう事だ?」
そう怪訝顔で聞き返すスミスに、市長は言った。
「逆に聞くが、なぜイギリスの植民市がこの地に二つもある? 交易都市なら一つで足りるだろう。だが、農業植民は新天地を求める農民の数だけ生まれる。お前たちの後を受けて次々に新たな植民地が出来たなら、この地はイギリスのコロニーだらけになり、この地全体がイギリス人のものになる」
「お前等も同じ事をすればいいだけだろう」とエンリ。
「オランダは小国で人口も少ない」と市長。
スミスは言った。
「俺たちは領地を拡大したい訳では無い。国教会が支配するイギリスからあぶれて来たジュネーブ派。つまり、お前たちと同じ宗派だ。だがジュネーブ派は本部から指令を受けて国教会と軋轢を起こす。そんな本国での生活を見限って、ここに移住した。ここはイギリス人のものになるのかも知れない。けどそれは同時にジュネーブ派のものになるという事だ。それでも俺たちを追い出したいか?」
エンリたち三人を乗せたドラゴンがメイフラワー村に帰還する。
「どうだった?」
そう心配顔で問う開拓者たちに、スミスは笑顔で言った。
「納得させたよ。奴等はここには干渉しない」
だが、エンリはなお、思案を込めてスミスに言った。
「宗派が同じから、って訳だよな。けどそれはバージニア植民地がお前等を認めない理由でもあるんだよな」
「なら、あそこの責任者とも話し合います」
そうスミスが言うと、エンリは「いや、どうせならヘンリー王と話したらどうかな? アーサー、通話の魔道具だ」
通話の魔道具でヘンリー王と話すエンリ王子。
「今、メイフラワー植民村に居ます」
「あそこか。ポルタ王太子の君が何故、あんな所に?」とヘンリー王。
エンリは「航海の自由が俺の信念・・・と言いたい所ですが、因縁があってね。奴等を何故潰そうとするのですか? ジュネーブ派だから? だが、信仰の自由は国教会の要ですよね?」
ヘンリー王は言った。
「イギリスでも本部の指令を受けた奴等の活動に大勢が迷惑している。信教の自由とは信者が信仰を選ぶ自由であって、教団が好き勝手やっていいというのは自由の履き違えだ」
「当事者の言い分も聞いてみてくれますか?」
そうエンリは言い、スミスと交代する。
そしてスミスは言った。
「俺はここの代表でスミスと言います。俺たちは本部に従うつもりは無いです。奴等が俺たちに出す指令で国が迷惑しているように、俺たちもうんざりなんです」
ヘンリー王は「なるほどな。バージニア植民地の代表も交えて話そう」
ドレイク提督の案内でバージニア植民市へ。
市の代表と向き合う、エンリ王子たちと植民村代表のスミス。
そして通話の魔道具をイギリス王に繋ぐ。
「ヘンリーだが、例の非合法植民村の事で、そこに居るポルタのエンリ王子が話があるそうだ」
「ポルタの王太子が何故?」とバージニア代表はエンリに・・・。
「知り合いに頼まれたんですけどね」とエンリ。
「それで用件とは? まさかジュネーブ派の村を認めて欲しいとか・・・って事じゃ無いですよね?」
そう問い質す代表に、エンリは言った。
「あれはジュネーブ派じゃない。ジュネーブの奴等に従わないために、彼等はユーロから離れたここに来たのですから」
代表はエンリと、そして通話の魔道具の向こうのヘンリー王に「ですが、国教会の基で国王に忠誠を誓う訳でも無いですよね?」
ヘンリー王は言った。
「そうだな。本国から遠く離れた植民地で宗教による統制が無ければ、他国と争う中で王のリーダーシップはとれない。我々はオランダと争っている。ジュネーブの統制を離れたとしても、オランダと同じ宗派であれば、奴等に同調してジュネーブの奴等に再び組み敷かれる事になりかねない」
するとスミスは「王の危惧するように、ここはやがて独立します」
エンリは慌てて「ちょっと待て。せっかく乗せやすい方向に行ってるのに」
「嘘を言っても仕方ありませんよ」とスミス。
そんなスミスにヘンリー王は「君は植民村のスミス君だね? 独立と言ったか?」
スミスは言った。
「私には未来を予知する能力があります。この土地はまもなくイギリスのものになりますが、やがて独立し、宗教はジュネーブ派が主流になります。そしてイギリス人の子孫を中心に、様々な国から来た植民者の連邦になる」
ドレイクは言った。
「エリザベス殿下のものではなくなると?」
「そうです」
そう言うスミスにドレイクは「君が王になるのか?」
「王は国民が選び、大統領と呼ばれる。共和制の、国民の持ちたる国です。ですが広大な国土と豊かな資源を背景とした国力を以て、独立しても同盟国としてイギリスの後ろ盾となります」とスミス。
「我が国が風下に立つのか?」とヘンリー王。
スミスは「それ以外の世界の多くの国がイギリス領となり、イギリスが発行した紙幣が世界中で決済に使われ、イギリスの言葉が世界の共通語となります」
ヘンリー王とバージニア植民市はメイフラワー植民村の存続に同意し、エンリたちは植民村に戻った。
対話の内容を植民村の人たちに話すスミスとエンリ。
そしてエンリはスミスに「すごい予言能力だね」
するとスミスは「いや、煙草を吸うと、たまに町中のイメージが見えるだけです。さっきのは殆ど、適当に言った事ですから」
全員唖然。
イギリスの正式な植民地となったメイフラワー村は、現地人部族と同盟を結んだ。
そして部族の族長はポカホンタスに自らの養女になる事を求めた。
「あなたは魔法少女として、いろんな所で人々を助けていると聞きました。そうした他部族や、移住して来る人たち、交易商たちとの仲立ちになって欲しいのです」
そう族長に言われて、ポカホンタスは改めて、自分が西方大陸の人間だと思い出す。
養女としての儀式が終わる。
儀式に立ち会ったエンリ王子とスミスがポカホンタスとともに植民村に戻ると、ノミデスが周囲の森を眺めて、言った。
「ここはいい所ね」
スミスは「向うのアパラチアの山並みまで、ずっとこんな平原が広がるからね」
「あの山並みの向うには、もっと広大な土地があるわ。気候は温暖で夏は海からの風で雨が降る。大地には豊かな森が育てた肥えた土壌」とノミデス。
楽しそうに畑で鍬を振るう開拓村の若者たち。
彼女はスミスが断片的に見たこの土地の人々の未来が、確かなものである事を知っていた。
彼女はスミスに言った。
「あなた、ここが本当に成功すると思う?」
スミスは「成功するか、じゃない。成功させるのさ。未来は誰のものでもない。それは同時に、誰のものでもあるという事さ。誰かから奪うのではなく、みんなで豊かになる。俺たちはずっと、そんな世界を求めて来た筈だろ」
「そうね。それは未来を託す価値のあるものだと思うわよ。けど未来は誰かに託すんじゃない。価値のある想いに託すの。その想いをあなたたちはずっと持ち続けている事は出来る?」
そうノミデスに問われ、スミスは答えた。
「もちろんさ」
ノミデスは大地の精霊の祝福の呪文を唱えた。
「我等大地の精霊。万物を産み育む母なる女神。我と汝が統べる豊穣のイデアをこの地に宿し、種蒔く勤勉なる人の子への大いなる報酬と成さん。祝福あれ」
目の前の地面に古代文字が浮かび、それは螺旋状に連なる文字列となって周囲へどこまでも広がる。そして一瞬で砕けて光の粒となって大気を舞う。
周囲の木々は一斉に花開き、足元に草が伸び、周り中を緑が覆った。
そしてノミデスは言った。
「予言します。この土地は穀物が豊かに実る大地となり、世界中の人々の飢えを満たすでしょう」
そして周囲に居る開拓者の若い男性たちに「誰か私の愛人にならない?」
開拓者たちは声を揃えて「喜んで」
そんなノミデスにマーリンは「はいはい、ポルタに帰るわよ」
「そんなぁ」
そう言って口を尖らすノミデスを引っ張って行きながら、マーリンき「ボエモンさん、あの娘に取られちゃうわよ」
ポルタに戻る支度を始めるエンリ王子は、現地人の村の方角を眺めて、その場に居たスミスたちに言った。
「彼等には何が必要かな?」
開拓者の一人が「馬と鉄は輸入するしか無いけど、荷物を運ぶなら荷車があれば便利だよね」
別の開拓者が「それと、トウモロコシを粉に引くには水車があると便利かも」
ポカホンタスが「磁石とか時計とか」
「それも輸入だよね」とアーサー。
更に別の開拓者が「唯一神の信仰は?」
他の全員が声を揃えて「それは要らないと思う」
「けど、荷車くらいなら俺たち作れるよね」
そう開拓者の一人が言い出し、手製の荷車を現地人の村に持っていく。
そして彼等に見せると「これは便利だ」と大喜び。
現地人を開拓村に連れて行き、村で使っている水車を見せる。
「これも便利だ」と大喜びする現地人。
磁石と時計を見せる。すると長老が言った。
「磁石なら持ってますよ。針が常に北を指すのですよね?」
タルタが「ここの奴等、磁石を独自に発見したのかよ」
「西方大陸文明スゲー」とジロキチ。
アーサーが「キンカ帝国の文明もレベル高かったもんなぁ」
すると長老が「いえ、爺さんの代に大きな船に乗った人から貰ったんです」
残念な空気が漂う。
そんな中でエンリが言った。
「ちょっと待て。大きな船に乗った・・・って、その人の名はバスコとか言わなかった?」
長老は「確か、そんな名前だったような」
「秘宝の欠片だ。彼が拠点にした洞窟とか」
そう勢い込んで問うエンリたちに、長老は「ありますよ」
現地人の案内で、海賊バスコが拠点にしていた洞窟に行く。
その奥にあった宝箱の中に、西方大陸北部沿岸の地図があった。
それを手にしてエンリは「バスコの秘宝の片割れ、ゲットだぜ」
エンリ王子の船が去るのを見送るスミスとポカホンタス。
そしてポカホンタスは言った。
「私、また村を離れて大陸を廻りたいと思うの」
スミスは「支配されてる現地人の人たちを助けるの?」
「ここの生活は楽しかった。みんないい人たちだし・・・。けど、移住して来るのは、そんな人ばかりじゃない。支配されて苦しんでいる人たちが大勢居るの」とポカホンタス。
「戻って来る?」
そう問うスミスにポカホンタスは「きっと終わったら戻って来るわ」
「愛してる。ポカホンタス」
「私も」