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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
140/513

第140話 二つの外敵

農業移民として西方大陸北部に移住したスミス達が建てたメイフラワー村。そこに住み着いたポカホンタス。

彼女に呼ばれてエンリ王子たちがこの植民村を訪れた翌日・・・。



オランダ人植民都市ニューアムステルダムの一団が、メイフラワー村に押しかけた。

そして「我々はイギリス人に立ち退きを要求する」


そんな彼等にスミスたちは反論する。

「ここはどこの国のものでも無い」

「この地域に先に来たのはオランダ人だ」と、ニューアムステルダムの人たち。

「いや、イギリス人だ」とスミス達が言い返す。


そんな両者にエンリが割って入る。

「ちょっと待て。そもそも"この地域"ってどの範囲を言うのですか? 西方大陸を見つけたのはコロンボという人物で、彼はイギリス人でもオランダ人でも無いぞ」

ニューアムステルダムの人たちは「ならば実力で立ち退かせるまでだ」

エンリは「やれるものなら、やってみろ。ファフ」

「了解」



ファフがドラゴンに変身し、炎を吐いて威嚇した。

「今日の所はこれくらいにしといてやる。後日また来るから、それまでに撤退の準備をしておけ」

そう言って、尻尾を巻いて撤退するニューアムステルダムの一団。



撤退する彼等を見ながら、エンリは溜息をついてスミスに言った。

「あんな地上げ屋みたいなのまで来るのかよ」

スミスは「いろいろ大変なんですよ。それに、立ち退きを要求して来るのは、あいつ等だけじゃないんで」



間もなく、イギリスが国家事業として建設したバージニア植民市の一団が、メイフラワー村に押しかけた。

そして「非合法な植民活動を停止して、速やかなる撤退を勧告する」

そんな彼等にスミスたちは反論した。

「航海は自由であり、ここは誰のものでも無い」

「お前等はイギリス人だろ。国の方針に従うべきだ」と、バージニア植民地の人たち。


そんな彼等にエンリが物言いに入る。

「いや、彼等はジュネーブ派として迫害されて追い出された人たちですよ」

バージニアの顔役らしい人が「あなたはポルタのエンリ王子じゃないですか。つまり部外者ですよね?」

「私はスパニア国教会の首長であり、信仰の自由はイギリス国教会との共通教義の筈です」とエンリ。

バージニアの人たちは「面倒だ。従わないなら、実力で立ち退かせるまでだ」

エンリは「やれるものなら、やってみろ。ファフ」

「了解」


ファフがドラゴンに変身し、炎を吐いて威嚇した。

「今日の所はこれくらいにしといてやる。後日また来るから、それまでに撤退の準備をしておけ」

尻尾を巻いて撤退するバージニア植民市の一団。



立ち退きを要求する二つの勢力を追い返したものの、再び来るであろう彼等との争いを予想し、不安な表情を見せる開拓者たち。

「どうする?」とスミスが仲間の開拓者たちに・・・。

そんな彼等にエンリは「話し合いでどうにかならんの?」

「話の通じる奴等か?」とタルタ。

「ここは自分達のものじゃないのに、理屈を通そうと思ってないですよね」とアーサー。


憤懣やる方無いといった体でスミスが言った。

「そもそも何で俺たちの所に来るんだよ。目障りなライバルを潰したいなら、イギリス側とオランダ側で勝手にやり合えばいいじゃん」

リラが「とりあえず潰しやすそうな所を狙ってるんじゃないかと」

ポカホンタスが「そうですよね。農業の素人のくせにろくな準備もせず、現地人におんぶにだっこな、駄目植民地ですものね・・・ってスミスさん、どうしました?」

目一杯の落ち込み顔で、スミスがポカホンタスに「君って、時々容赦無いね」

「よく解らないけどごめんなさい」とポカホンタス。


するとカルロが言った。

「だったら、奴等どうし鉢合わせさせて潰し合わせたらどう?」



その夜、カルロがバージニアとニューアムステルダムにハシゴで潜入して流言飛語を流した。

曰く「メイフラワー村は、先に来た方に村を明け渡す方針を決めた」と・・・。

 


そしてその頃ポルタでは・・・。


五人の男女が大きな式神烏に乗って、大洋横断へと向かう。

それを見送るのは、赤ん坊を抱いたイザベラ女帝。


「後はお願いね」

そう言うイザベラに、遠坂が「俺たちの仲間のためですから」

マーリンが「こんな面白いイベント、見逃す手は無いわよね」


夜の闇を飛び立つ式神烏を操る間桐は、ボルタ王都を見下ろす。

そして眼下に広がる夜景に向けて、言った。

「翼よ、あれがポルタの灯だ」

「何の台詞?」と、あきれ顔で言うローラ。



翌日、二つの艦隊がメイフラワー村に圧力をかけるため、港の沖に姿を見せた。

海上から拡声の魔道具で要求を発する双方の勢力。


「こちらはニューアムステルダム植民地。不法植民村の接収に来た。直ちに村を引き渡して撤収しろ」

オランダ船から要求を発する人物を見て、エンリはあきれ顔で「あれ、ゴイセン海賊団のウィルじゃないか」

「こちらはバージニア植民地。不法植民村の接収に来た。直ちに村を引き渡して撤収しろ」

オランダ側に対抗するようにイギリス側で要求を発する人物を見て、タルタが「ドレイク提督じゃないか」


するとウィルがイギリス側に「おいこらそこのイギリス海賊。ここは俺たちが接収するんだ」

ドレイクも負けずにオランダ側に「オランダ海賊引っ込め。ここは俺たちイギリスの物だ」

互いに言い争いを始める双方の艦隊は、やがて物の投げ合いを始めた。

「やったな」

「これでも喰らえ」

やがて鉄砲の撃ち合いを始め、双方大砲を引っ張り出しての本格的な海戦となる。



当初はドレイク側が優勢かに見えた。

だが、いきなりドレイク側の海賊船の一隻が大破。

謎の攻撃により次々に船を沈められ、ドレイク艦隊は壊滅した。



救命ボートに乗って上陸するドレイク提督たちを、スミスたちが鉄砲で迎える。

武器を構えて上陸を強行する構えのドレイクたち。

そんな両者を止めに入るエンリ王子たち。

「何やってるんですかドレイク提督」

ドレイクは「エンリ王子にタルタに・・・お前等こそ何やってるんだ」


「天下の大海賊がこんな辺鄙な植民村で、何、地上げ屋みたいな事やってるんですか」

そう、あきれ顔で言うエンリに、ドレイクは困り顔で「そう言うけどなぁ」

ポカホンタスも「そうですよ。こんな現地人におんぶに抱っこな駄目植民村を・・・」

スミスは落ち込み顔で「頼むからそういう言い方止めて」


ドレイクの部下たちも消耗している。

そんな彼等を見てエンリは言った。

「にしても提督らしくないですね。ワンサイドゲームじゃないですか」

ジロキチも「圧倒的ではないか、敵軍は」

カルロも「赤子の手を捻るとはこの事」

ドレイクは落ち込み顔で「頼むからそういう言い方止めて」



とりあえず水筒の水を飲んで一息ついたドレイクは、顔を曇らせて海戦を語った。

「いや、不思議なんだ。大砲でも魔法でも召喚モンスターでも無い。いきなり船底が爆発して大破だぞ。何なんだあれは」


するとニケが「多分、潜水艦ね」

「潜水艦だと?」

そう驚いた様子で聞き返すドレイクに、ニケは「海の中を潜って進む特殊な船よ」

「どうにかなるのか?」とドレイク。


エンリは「大丈夫。こっちにはドラゴンも、それに人魚姫も居ます」



出撃するため船に乗り込むエンリ王子たち。


出航しながらエンリは仲間たちに言った。

「潜水艦が接近するのをどうやって探知しようか」

するとリラが「魚の使い魔が居ます」

エンリはリラに「そうだよな。お前も魔導士なら、使い魔は居るよな」


「あの子たちです」

そう言ってリラが船縁で水面を指さす。それを見てエンリは懐かしそうに言った。

「あれは・・・ブチじゃないか。それにクロにぎょぴに・・・」

「金魚に似てますけど空飛んだりしませんよね?」とアーサー。

エンリは「そんなの漫画やアニメの中だけだ」

「・・・ってか、何で名前?」とタルタが怪訝な声で・・・。


エンリは言った。

「忘れたのかよ。城の水槽に居た魚たちだよ」

「あのソティにすると美味しいっていう」とジロキチ。

「いや、食べないから」と困り顔のエンリ。

カルロは「ってか、水面に顔出してるのを見て解るって王子だけかと」


エンリはしみじみと「みんな可愛い奴等なんだ。なぁ、アーサー。犬は三日餌をやったら忘れないって本当だったんだな」

「犬は魚よりは人間に近いですけどね」とアーサー。



魚たちが船の周りの海中で警戒陣を張る中、エンリ王子の船はゴイセンの船団に接近する。

大砲を撃ってくるゴイセン海賊艦隊。

大砲を避けるためジグザグに舵を切る役を任されたジロキチは言った。

「潜水艦が来る前に一撃かけたいよね」


すると、アーサーがニケと目配せして「あれで行きますか」

ニケが大砲に特殊な弾を込める。

「それって・・・」

そう訊ねるエンリに、ニケは「散弾砲よ。たくさんの小さな弾を一度に打ち出すのよ」

「そんな小さな弾で船が沈むの?」とカルロ。

「まあ見てなさい」

そう言ってニケは敵艦隊に向けて散弾砲を発射。


多数の小さな弾が敵艦隊に向かって散らばりながら飛び、敵上空で爆発して盛大に煙を広げた。

「煙幕弾かよ」

そうエンリが言うと、ニケは「まあ見てなさい」


アーサーがファイヤーレインの呪文を唱える。

だが、真上に張られた煙幕で敵側の魔導士は上空の魔法陣の展開に気付かず、盛大に降る火の雨で各艦一斉に船火事。

何隻もの敵船が火を消し止められずに炎上沈没。



ゴイセン艦隊は後退して距離をとった。

「そろそろ潜水艦が来る頃ですね」

その時、リラは海中の使い魔からの情報を受け取った。

「王子様、五隻の潜水艦が接近して来ます」


人魚姫に乗ったエンリは呼吸の魔道具を咥えて海中へ。そして水の巨人剣を振るう。

高密度な水圧の剣身が潜水艦の船板を突き破り、次々に潜水艦を撃破した。



潜水艦隊が退く。

「退却かな?」

そう言ったエンリに、リラは「距離をとっているようですね」


再び潜水艦が向かって来た。それに向けて水の巨人剣を構えるエンリ王子。

その時、潜水艦から何かが次々に発射され、高速で水中を突っ込んで来た。

「危ない」

とっさにエンリは人魚姫の前に身を乗り出して彼女を庇う。

エンリの背中に何かが突き刺さった。


「王子様」

そう悲痛な言葉を発するリラに、エンリは痛みに耐えながら「とにかく逃げて体勢を整えよう」



退避しようとするリラを潜水艦が左右から挟み込む。

一隻が背後に回り込む。

エンリは呟いた。

(弱ってる場合じゃない。一隻でも沈めて突破口を開くんだ。こんな所でリラを巻き添えにしてたまるか)


必至に水の巨人剣を潜水艦に向ける。

そして気力を振り絞ってイメージする。(もっと水の力を、もっと強く、鋭く、遠くまで)


魔剣を動かそうとするが、水圧が体の自由を阻む。

傷の痛みで途切れそうになる思考に、ありったけの気力を込める。(もっと自由に、水の流れる如く自由に)



すると、エンリは体の周りを流れる水流を感じた。そして体の中を流れる水流を感じる。

内と外の水が融合する。そして剣身を形作る水と融合する。


エンリの口がひとりでに言葉を発した。

「我、我が水の剣とひとつながりの宇宙なり。奔流あれ!」

傷口から抜けていく生命力の流れが逆転を始め、傷が回復していくのを感じる。


そしてエンリは悟った。

(水の魔剣との融合で得るものは回復力か。これがエクスカリバーの鞘)



危機を脱したエンリは反撃に転じ、頭に浮かんだ呪句を唱えた。

「汝、水の精霊。海神の子たる大海の潮。数多の命の母たる汝と対を成したる、数多の命を守りし我が王の剣と"ひとつながりの剣"となり、万物を導く螺旋を描け。渦潮あれ!」


水の魔剣が周囲の海水と融合し、その剣身を取り巻く奔流が巨大な渦となる。

巨大な渦は周囲の潜水艦を捉え、これを破壊した。 

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