第133話 心中の親子
ボエモンとジェルミが夜の公園で起こした公然猥褻罪騒ぎで捕まり、釈放された翌日。
聖堂からすっきりした顔で出て来たボエモンを聖堂の出口で迎える、彼の部下たちとエンリ王子たち。
「教皇猊下の前で懺悔したら、心から悔い改めたので神の許しを得たと言って貰えました」
そう嬉しそうに言うボエモンに、エンリはあきれ顔で言った。
「それ、教会の坊主の常套句だから。相手の罪が盗みでも立ちションでも殺人でも全部同じ事を言うんだよ。記憶の魔道具をエンドレス再生するようなものさ」
「そうなの?」
そう怪訝顔で言うボエモンにエンリは「寄進とか要求されなかった?」
「あの方はそんな事はしません。神の慈悲はお金で買うものではないと仰いました」とボエモン。
エンリは「壺とか買わされなかった?」
「かなり値の張るものでしたが、それで罪が許されるのならと」とボエモン。
エンリは溜息をついて「あいつら、まだそんな事やってたのかよ」
「あと免罪符を十枚」とボエモン。
エンリは頭を抱えて言った。
「もういいよ。どうしよう俺、祝辞であの新教皇に、外交辞令で同じ未来を見ようとか言っちゃったよ。またズブズブとか言われるかな」
リラは「王子様は悪くないと思う」と言ってエンリを宥める。
「けど俺、敵が多いからなぁ。特に教皇派の奴等とか」とエンリは溜息。
アーサーは「いや、あいつ等は自分たちがそっち側ですから」
「最近のアンチはそういう理屈が通用しないんだよなぁ」とエンリは溜息。
気を取り直すとエンリはボエモンに言った。
「ところでジェルミさんはどうするの?」
ボエモンは真顔で「あの人もきっと懺悔すれば神に許して貰えるかと」
「いや、神様じゃなくて、あんたに許して欲しいんじゃないの?」と残念そうに言うエンリ。
ボエモンはドヤ顔で「私は過去は水に流して未来志向で」
「ジェルミさん、あんなに可愛いんだもんな」とタルタ。
「そうすですよ可愛いは正義です」と思わずボエモンも・・・。
残念な空気が漂う。
エンリは残念そうな声でボエモンに言った。
「いや、今まで彼女が頑張ってアプローチしてきた過去を水に流しちゃ駄目だろ」
「けど聖騎士は純潔が」
そう言って抵抗するボエモンに、ジロキチが「あんたもう童貞じゃないよね?」
「眠らされてたんだ。無効ですよ」とボエモン、抗議声。
カルロが「まあ気持ちはわかるけど」
「だからセックスってどんなだか経験出来てない」とボエモン。
「そっちかよ」と溜息をつくエンリの仲間たち。
その後、エンリはボエモンの部下たちから相談を受けた。
「ジェルミさんが引き籠ってまして」
「あんな事やらかした後だもんなぁ」と溜息をつくアーサー。
ボエモンの部下の一人も、溜息をついて「けど、それは騙されて媚薬を飲まされたからで、だから彼女は悪くないと、説得したのですが、納得してくれなくて」
「それで俺たちに彼女を宥めて欲しいと?」
そう言うエンリに部下たちは「はい。事の元凶であるマーリンさんの保護者のあなたに誠意を持って謝罪して貰えれば」
とてつもなく残念な空気が漂う中、エンリは目一杯のあきれ声で言った。
「それって絶対、誠意が足りないとか言われて拗れるパターンだよ。自ら加害者と認めたとか言われて、千年恨むとか、被害者中心主義だから奴隷になって靴を舐めろとか」
部下の一人は焦り顔で「まあまあ。とにかく彼女が心配です」
「手首でも切ってなきゃいいんだが」と、もう一人の部下。
ボエモンの部下たちに案内されて、ジェルミの家に行くエンリ王子たち。
玄関から家の中に呼び掛けるが・・・。
「返事が無いね」とボエモンの部下の一人が・・・。
もう一人の部下が「帰ろうか。そっとしといた方がいいかも」
「何のために俺たち連れて来たんだよ」とエンリが溜息。
するとジロキチが「ってか、気配が無いですね」と真剣な顔で言った。
「外出中か?」と部下の一人が・・・。
「引き籠りを克服したのか」と、もう一人の部下が・・・。
リラが「良かったね、ジェルミさん」
だが、アーサーが看破の魔法で中の様子を伺うと・・・。
「家の中が荒らされていますよ」
カルロがピッキング棒で鍵を開けて、みんなで中に入る。
荒らされている部屋の様子を見て、カルロが言った。
「家探しした跡ですね」
「泥棒でも入ったのかな?」とニケ。
アーサーが心配そうな顔で「もし、その時に彼女が居たとしたら」
「居直り強盗を経て誘拐魔に二段変身って・・・。ジェルミさんが危ない」と部下の一人が言った。
エンリが「彼女の居場所、解らないかな?」とカルロに・・・。
カルロがダウジング棒を持ってジェルミの捜索開始。
その頃、ジェルミ本人は・・・。
公園で待つボエモンの所に姿を現していた。
「ボエモンさん」
思い詰めた表情のジェルミを見て、ボエモンは言った。
「懺悔を受ける気になったのですね? 私と一緒に行って、罪を許して貰いましょう」
「そんなの要らないです。私が欲しいのは・・・」
そう言うとジェルミはボエモンに、雷の縛の呪文を使った。
「ジェルミさん、何を」
そう言ってもがくボエモンにジェルミは「こんな諺を聞きました。毒を喰らわば皿までもと。なので力づくであなたを手に入れます」
ボエモンは「自棄になっちゃ駄目だ」
稲妻で出来た細長い鎖状のものがボエモンの体に絡み付き、雷撃の痺れが全身の力を奪う。
ボエモンは気力を振り絞って、左手の人差し指に精神を集中した。
「破魔の指輪よ」
稲妻の鎖が弾けて消える。
「聖騎士の俺を君がどうにか出来る訳が無いたろ。もう、こんな馬鹿な事は止めよう」
そう言ってボエモンが彼女の両肩に手をかけた時、ジェルミの持つ短剣がボエモンの胸を貫いた。
「両親の形見です。父様たちみたいに、死ぬ事で結ばれるんです」
そう言って短剣を抜くと、彼女は自らの喉をついた。
エンリたちとボエモンの部下が公園に駆け付け、倒れている二人を見つける。
「遅かったか」とエンリ。
「無理心中かよ」とタルタ。
「ジェルミさん、団長・・・」
そう言って、二人を見て涙する隊員たち。
その時、二人の遺体を調べていたアーサーが言った。
「あの、王子。この短剣、不殺の呪いがかかってますよ」
「何ですとー」と全員唖然。
とりあえず二人は病院に運ばれた。
そこで彼らがあれこれ話していると、ジェルミの祖父母を名乗る老夫婦が彼女を引き取りに来た。
「孫が御迷惑をおかけしました。実家に連れて帰ります」
そう言って頭を下げる老夫婦にエンリは「それが良いかもね。それで、どちらに?」
老人は答えた。
「ヴェロナです。孫は我がモンタギュー家が責任をもって・・・」
その時、別の老夫婦が現れた。
そして「ちょっと待て。ジェルミの祖父母は私たちだ。孫は我がキャピュレット家が引き取る」
「何だと。お前等は引っ込んでろ」と、モンタギュー家を名乗る先ほどの老夫婦。
「いや、お前等こそ引っ込め」と、キャピュレット家を名乗る老夫婦。
「そもそもうちの大事な跡取り息子をお前の娘がたぶらかして・・・」と、モンタギュー家を名乗る老夫婦。
「違うだろ。お前の息子が大事な娘に手を出して、婿を貰う大事な体を無理やり・・・」とキャピュレット家側。
「お前らが悪い」とモンタギュー家側。
「いやお前等だ」とキャピュレット家側。
そして四人声を揃えて「反省しろ謝罪しろ賠償しろこの犯罪一族が! 被害者中心主義だ千年恨んでやる! お前等なんか人間じゃない叩き切ってやる!」
たまり兼ねたエンリ王子が割って入る。
「そういうのはもういいです。あんたら何なんですか?」
一方の老夫婦が「ジェルミの父の両親です。モンタギューと申します」
もう一方の老夫婦が「ジェルミの母の両親です。キャピュレットと申します」
エンリの仲間たち唖然。そしてリラが言った。
「もしかして彼女の両親って・・・」
キャピュレット家側の老人、つまり母方の祖父が言った。
「元々両家は仲が悪くて、ヴェロナの街を二分していがみ合ってました。そんな中で二人は恋仲になって、私たちはそれを理解してあげる事が出来なくて、とうとう二人は心中してしまいました」
「それで私たちはロレンスという修道士の方に諫められ、仲直りしたのです」と父方のモンタギュー家側の祖父。
「それが最近、ロレンスさんの伝手で親戚に居た賢者シェークスピア氏が術式構築した不殺の呪文という魔法で生きていたのだと知り、ここに来たという訳で」と母方の祖父。
「あの子には是非、婿を貰ってモンタギュー家の跡継ぎに」と父方の祖母。
「いや、キャピュレット家の跡継ぎに」と母方の祖母。
「お前等は引っ込んでろ」と父方の祖父母。
「いや、引っ込むのはお前等だ」と母方の祖父母。
「ジェルミは俺の孫だ」と父方の祖父。
「違うだろ。俺の孫だ」と母方の祖父。
そして四人声を揃えて「反省しろ謝罪しろ賠償しろこの犯罪一族が・・・」
エンリの仲間たちはうんざりした顔で一様に思った。
(もー嫌だこいつら)




