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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第131話 刀剣の男女

オランダでの一件でノコギリにされた刀の修理を刀鍛冶の清定に依頼したジロキチは、清定の娘の若狭と仲良くなった。

そして妖刀ムラマサの事件が解決した後、若狭はポルタ大学の魔法学部に通う事になった。

人化したムラマサとともに、魔法戦闘科で戦闘用魔法と武術の訓練に励む若狭。



剣術の授業で、講師の遠坂は若狭とムラマサに言う。

「若狭さんは刀に戻ったムラマサを持てば無敵なんだが」

若狭は「自分自身の力でも戦えるようになりたいです」

ムラマサは「主は拙者と背中を任せ合うでござる」


遠坂は言った。

「いい心掛けだと思うよ。けどムラマサは普段は丸腰だよね?」

するとムラマサは「拙者自身が刀であるが故。出来れば、この姿でも戦える刀が欲しいでござる」


若狭が期待を込めた目でムラマサに「私を守るため?」

するとムラマサは「ジロキチ殿のように刀の恋人を」

若狭はムラマサの後頭部をハリセンで思い切り叩いた。



ポルタ城でエンリに刀をねだるムラマサ。

「予算は出すから武器屋で見繕って来い」

そうエンリに言われてムラマサは、ジロキチと若狭に伴われて武器屋へ。面白そうだからと、仲間たちも同行する。


歩きながらタルタが言った。

「清定さんに打って貰ったらどうなんだ?」

「ジパングの鉄でないと良い刀は難しいらしいよ」とアーサー。

エンリが「上質な鉄の産地って訳か?」

「っていうより癖のある鉄なんだよ。鉄砲もユーロと同じ作り方だと破裂するから、刀のように鍛えて鉄板にして筒状に丸めて作るそうだ」とジロキチが説明する。



武器屋に並ぶジパング刀。

ムラマサは、そこにある刀の一本を手に取って言った。

「これにするでござる」

「気に入ったのね」と若狭。

「一目ぼれでござる」とムラマサ。

「それは良かった」

そうジロキチがほっとしたように言うと、ムラマサはうっとりと「この細身でしなやかな腰つき、胸のあたりの豊かな質感、絹のような透明感のある肌合い」


「どこが胸でどこが腰なんだか」とあきれ顔のエンリ。

「ってか、ちょっと気持ち悪い」と、若狭は困り顔。

ムラマサは刀をすりすりしながら「沙織と名付けるでござる。我が愛しの沙織」

「お願いだから止めて」と若狭はドン引き状態で言った。



ムラマサは暇さえあれば刀を愛でる。あきれるジロキチ、ドン引きする若狭。

そんなムラマサにカブが言った。

「お兄さん、その刀を人化して刀剣女子にしてみない?」

ムラマサは溜息をつきながら「これは普通の刀でござる。拙者のような人格のある宝具精霊でないと・・・」


カブは言った。

「普通の刀でも人化するやり方があるんだよ。何たって父上は人化魔法の産みの親だからね」

ムラマサは目をキラキラさせて「お願いするでござる」と言ってカブの手を執った。



カブは人化の儀式を行い、ムラマサの刀が人化した姿として現れたのは、10才そこそこの幼女。

「よろしくね、主様」


ムラマサは困り顔で「拙者はロリコンではないでござる」

「けど、沙織は主様の恋人なんだよね?」と言ってムラマサの右腕に抱き付く幼女。

「困るでござる」とムラマサ。


人化した刀だという幼女に付きまとわれるムラマサ。

通りを歩きながら彼女は「ねえねえ主様、エッチしよ」と言ってムラマサに迫る。

「それは犯罪でござる」と困り顔のムラマサ。



そして警官が現れた。

「君たち、ちょっと署まで同行して貰えますか」


職質されるムラマサ。

彼を引き取りに来たジロキチと若狭は、沙織を名乗る幼女を見てドン引き。


そんな彼等の様子を物陰で見ながら大笑いしているカブに、一人の男性が背後から声をかけた。

「君、ブラド伯の所のカブ公子だね?」

「おじさん誰?」

そう言いながら振り向いたカブは、いきなりハンカチで口を塞がれ、睡眠薬の匂いとともに気を失う。



その瞬間、沙織と名乗る幼女が真剣な表情で立ち上がって叫んだ。

「主様が危ない」

「いや、君の主はここに・・・」とジロキチ、怪訝顔。

その時ムラマサは、沙織の刀としての気配が消えたのを感じた。

「君は誰だ?」


派出所を飛び出す幼女。その後を追ったジロキチたち三人は、物陰にムラマサの刀が落ちているのを見つけた。

「どういう事だい?」



ポルタ城に戻り、エンリ王子やブラド伯も交えて幼女に話を聞く。

「その刀が人化したの、主様・・・カブ君の幻覚魔法なの」

「君はいったい・・・」

そう問うムラマサに彼女は「ごめんなさい。私、カブ君の人化ネズミです。お兄さんに悪戯してからかってやるんだ、って」


サリー姫は心配そうに「カブ、どうなったのかな?」

「誘拐だろうな。恐らくロシアあたりの」とブラド伯。

エンリは深刻な表情でブラド伯に言った。

「非常線を張っています。ポルタ警察の総力を挙げて、必ず見つけます」

ブラド伯は「いや、子供とはいえバンパイア族の王子がこのザマとは。実にお恥ずかしい」



まもなくブラド伯の元に脅迫状が届いた。

ブラドとサリーを呼び出す文面。指定された時間と場所。


薄く霧が立ち込める中、そこに来た男に、ブラドは言った。

「お前、ロシアのスパイだな?」

「違うと言えば信じるのかな? だが君たちはここで死ぬのだから無意味なのだがな」

そう言って男は、二本の銃筒を並べた短銃を向ける。

「十字架やニンニクは迷信でも銀の銃弾は効くだろう」


二人に向けて男は引き金を引き、二つの銃声が響くと同時に、ブラドとサリーの体は霧となって消えた。

「体を霧に変える能力か」

緊張した声でそう叫ぶ男に、周囲の霧が不敵な声を響かせた。

「まだまだ迷信だな」


霧の中に多数のブラドとサリーの姿が浮かぶ。

「こんなもの、ただの幻覚魔法だ」 

そう叫んだ男に向けて、霧の中のブラド伯たちは一斉に風の矢放ち、必死にそれをかわす男の全身を無数の風の矢がかすめて、男は傷だらけになる。


サリー姫たちが一斉に金縛りの呪文を唱え、男の動きを拘束した。

そして「これは自分を霧に変えるのではなく、霧を自分のコピーに変える魔法よ。諦めて投降なさい」



男は呪文を唱えた。

「炎の子らよ」


空中に無数の炎が浮かび、気温が上昇して霧とともに多数のブラド伯父娘は、一組を残して消えた。

「霧は気温の低下により空気中の水蒸気が凝固したものだ。気温が上昇すれば霧は消える。そしてこれならどうだ」

そう叫ぶスパイの手の中の眠ったままのカブ公子。

「動けばこいつを殺す。伯爵家の後継者を殺されたくはないだろう」



するとブラド伯は「後継者はこのサリーなのだが」

「何だと?」

そう驚き顔で言う男に「そうだよ。お姉ちゃんには特別な力があるんだ」と答えて出て来た男の子を見て、サリー姫も驚く。

「カブ?」

「お前、どうして」

唖然顔でそう言う男にカブは「それより、おじさんが抱えてるものは何?」


スパイの手の中にあったものは、いつの間にか人形になっている。

「どうやってすり替わった?」とスパイの男。

カブは「ステイルって魔法があるのを知ってる?」

「相手が持っているものを奪ったりすり替える・・・。だが、あれは幻のスキルの筈だ」とスパイの男。

カブは言った。

「何しろ盗賊の魔法だからね。そんなスキル持ってるのが人間の世界でバレたら、自分は泥棒だから捕まえてくれって言ってるようなものさ。けどおいら達、人間じゃないから」


「こんなもの」と言って男は、腕の中の人形を投げ捨てた。

するとカルロが風のように駆け寄って人形を抱え、ブラド伯の元へ駆け戻る。

人形は再びカブの姿となり、先ほどのカブはあの人化ネズミの幼女の姿に戻った。

唖然とするスパイの男。



「お前さっき、ただの幻覚魔法だとか言ったな?」

そう言って出て来た数人を見て、サリー姫は「アーサーさん、エンリ王子」

エンリの仲間たち、それに若狭とムラマサも居る。


スパイの男は悔しそうに「騙したのか」

アーサーは笑って言った。

「幻覚魔法は馬鹿にしたもんじゃない。使い方次第でどんな魔法より役に立つ。何せ俺たち、この悪戯小僧の幻覚で散々な目に遭ってるからな」


「あなたはもう終わりよ。マハリクマハリタ」

サリー姫が呪文を唱えると、スパイの周りにコンクリートの壁と鉄格子が出現。

男は「こんな幻覚」と・・・。

だがそれは、出ようとするスパイの行く手を阻んだ。

そして「まさか本物の牢獄」


ブラド伯はサリー姫の肩に手を置いて、言った。

「この子の特別な力というのは物質創成魔法の事さ」

「その気になれば家だって魔法で無から作れるわ。誰の差し金か、じっくり吐いて貰うわよ」とサリー姫。



「もう許さん」

そう言ってスパイが呪文を唱えると、上空に雷雲が発生し、落雷で牢獄が爆発した。

破壊された牢獄の跡に、強力な雷の気を纏ってスパイは立っていた。

「この雷の鎧でお前たちもろとも、このあたりの奴等を全員消し飛ばしてやる」


立て続けに落雷を浴びて、スパイが纏う雷気はどんどん強大なものとなる。

それを見てアーサーは言った。

「あれはただの雷魔法じゃない。雷の魔力を肥大化させて、最後は周囲を巻き込んで自爆するぞ。奴の胸のタブレット型の魔道具を破壊するしか無い。何とか奴の動きを止めなければ」

「けど、あれじゃ近付けないぞ」とエンリ王子。

ブラド伯は「私がエナジートレンで」

「止めたほうがいいと思います。魔力を吸収しきれず自爆するのは定番のパターンですから」とアーサー。


ムラマサが言った。

「拙者が行こう。元々刀である拙者は鉄の気を纏っている。それが雷気を逃がしてくれる」

「刀に戻って戦うのよね」と若狭。



ムラマサが妖刀の姿に戻り、若狭が妖刀を抜く。

若狭の顔つきが変わり、目つきが鋭く、そして冷たいオーラが全身を覆った。

「意識を失ってはござらぬか」とムラマサは若狭の意識に話しかける。

「大丈夫よ」

そして金色の雷気を放つ敵に向かう、若狭とムラマサ。


敵から溢れる雷気が若狭を取り巻く鉄のオーラの表面を抜けて地面へ流れる。スパイは慌てて剣を抜いて若狭に切りかかるが、それをかるくかわし、スパイが胸に付けたタブレットを一刀両断にした。

魔道具が破壊されて暴走した雷気は彼自身を傷つけた。


瀕死のスパイにブラド伯爵は自らの指を傷つけて数滴の血を飲ませた。

そして「これでこの男は私に逆らえない。背後関係を全て吐いて貰うまでは死なせる訳にはいかないからな」



まもなくカブは目を覚ました。

「カブ、私が解る?」と、腕の中のカブの問いかけるサリー姫。

カブは「お姉ちゃん。それとついでに父上」

そんなカブを見てブラド伯は「そういう冗談を言えるなら大丈夫だな」


「おいら、人質になってたの?」

そう言って周囲を見回すカブにサリー姫は「そうよ。父上にもポルタの人たちにも、すごい迷惑かけたんだから」

「ごめんなさい」とカブはバツが悪そうに俯く。

ブラド伯は笑いながら「いいさ。お前が無事で良かった」

そしてサリー姫は「それよりカブ。あなた、このムラマサさんに、何かやったわよね?」

「あ・・・・」



そして・・・。

カブはぐるぐる巻きに縛られてお城の窓に吊るされた。

そしてサリー姫は「今晩はご飯抜きだからね」

「お姉ちゃん、ごめんなさい」とカブ公子。


それを見るエンリ王子たち。

エンリは「けっきょくあれって何だったんだ?」

「普通の刀に人化の魔法をかけて刀剣女子にするって話に騙されたでござる」とムラマサ。

「そんな事が出来るのかよ」と、ジロキチが思わず身を乗り出す。

四人の美少女に囲まれた自分の姿を妄想して、うっとりと呆けるジロキチ。


エンリはあきれ顔で言った。

「いや、騙されたってのは、つまり嘘だったって事だろうが」

若狭もあきれ顔で「ジロキチさんってば」

ムラマサもあきれ顔で「ジロキチ殿には若狭殿が居るでござろう。刀を女性にするなどという話に飛びつくとか、彼女が可哀想でござる」

「いや、お前が言うな」と仲間たちはムラマサに・・・。


若狭は溜息をついてジロキチとムラマサに言った。

「二人とも、刀に浮気するのは大目に見るから、人間の女は私が居れば十分よね?」



ブラド伯と二人の子が帰国する事になった。エンリ王子と仲間たちが見送りに出る。

「ムラマサさんは、まだ血が欲しいですか?」とサリー姫はムラマサに・・・。

「もし欲しいなら私の血で」と若狭が言う。

だがムラマサは「欲しいと思わなくなったでござる」

「だよな。刀は人を殺すためではなく、人を助けるためにあるんだ」とジロキチ。


ムラマサは言った。

「それもあるけど、拙者には沙織が居るでござる」

若狭はハリセンでムラマサの後頭部を思い切り叩いた。

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