第129話 刀鍛冶の娘
オランダでの一件が片付き、エンリ王子はポルタに腰を据える。
イザベラは出産して数か月。赤ん坊の世話は女官に任せて、相変わらず各国相手の陰謀に余念が無い。
そしてポルタ大学でようやく魔法学部が開講する。学部長としてパラケルサスが就任。リラは学生としてそこに通う事になる。
その頃、四本の刀のうちの一本を鋸にされたジロキチは、ポルタの街の武器屋で修理を依頼した。
「何でついて来る?」
武器屋に向かうジロキチは、後ろを歩きながらわいわいやる仲間たちに迷惑そうな顔でそう言った。
タルタが「だって心配だろ」
「俺は子供かよ」とジロキチ。
するとアーサーが「お前じゃなくて武器屋が、だよ」
武器屋で日本刀の修理を依頼するジロキチに、武器屋が言った。
「ジパングの刀なら最近大量に入荷しましたので、買った方が安いですよ」
「俺の女を買い替えろって言うのか!」
そう言って、腕まくりして喧嘩腰に声を荒立てるジロキチを、慌てて止める仲間たち。
「こうなると思ってたよ」と溜息をついてエンリが言った。
「あの、刀が女って?」
そう怪訝顔で尋ねる武器屋に、レラが「気にしないで下さい」
だが武器屋はジロキチに「もしかして刀剣女子の作り方を御存じで?・・・」
ジロキチは思わず身を乗り出して「そんなのが居るんですか?」
武器屋は「刀剣男子というのの噂を聞いたんで、その女子版もあるのかな? って」
ジロキチはがっかり顔で「刀剣男子なんてのはただのデマです」
「お前、ジパングの国友村で聞いて、大恥かいたものな」とカルロは笑いながらジロキチに言った。
そして武器屋は言った。
「それより修理なら鍛冶職人かと。最近ジパングから移住して来た清定さんという刀鍛冶が居ましてね」
住所を聞いてそこに向かうジロキチと仲間たち。
「清定さんって名前、聞き覚えありません?」
そうリラが言うと、エンリは「ジパングの人の名前はよく解らんが、戦乱も終わって刀や鉄砲の需要が減ったから、仕事を求めて移住する人も居るだろうさ」
鍛冶職人の仕事場に着く。
出て来た鍛冶職人は、かつて国友村でジロキチの刀を修理した職人だった。
「国友村にいらしたジロキチさんですよね?」
そして、露骨に嫌そうな顔で清定は言った。
「あの、精一杯頑張りますけど、あまり多くは期待しないで下さいね」
ジロキチはエンリに小声で「何だか客として歓迎されてない気がするんだが」
「お前が刀は恋人だとか言って無茶振りしたからだろ」とエンリ。
そしてエンリは、ジロキチを指して清定に「こいつもあれから色々人生経験を積んで来たんで」
「そうだといいんですが。それでご注文は?」
ジロキチはノコギリにされた刀を出して、清定に言った。
「この小雪を直してやってくれ」
ドン引き状態で清定はエンリの耳元で言った。
「もしかして病状悪化してません?」
ノコギリ状態の刀を受け取って仕事内容を確認しながら、清定は言った。
「ところで、刀に属性付与はどうされます?」
ジロキチは憮然とした表情で「いらん。そんなの武士の戦いじゃない」
「アンデットには光属性が有効ですよ」と清定。
ジロキチは意地になって「いらん」
「ゴーストには物理攻撃は効きませんから」と清定。
ジロキチは顔を青くして「だからいらん」
横で見ていたファフが「もしかしてジロキチって怖がり?」
「そそそそんな事は無いぞ」と後ずさりしながら言うジロキチ。
そんなジロキチを見て「やっぱり怖がりなんだ」と仲間たち。
「よく今までアンデットとかと戦って来れたよな」とあきれ顔のタルタ。
ジロキチはドヤ顔で「刀は人を無敵にする」
「依存症だな」とアーサー。
「危ないなぁ」とカルロ。
「けどゴーストには効かないよね」とニケ。
そう言われてジロキチ、いきなり態度を変えた。
そして「属性付与、やってくれるか」
「四本あるけど何属性にしますか?」
そう聞かれてジロキチは「全部光で」
清定はあきれ顔で「戦い方に幅を持たせた方がいいと思いますけど」
「炎と氷は必須だよね」とタルタ。
「後は闇かな。生命力を削るのに有効だ」とアーサー。
その時、一人の若い女の子が清定の仕事場に来た。
「お客さんが来てるの?」
その女の子を見て清定は「若狭か。ジパングに居た時、来た事のある方だよ」
すると女の子は興味津々そうな顔で「もしかして刀剣男子の人?」
「はぁ?」とエンリたち唖然。
清定は笑いながら言った。
「いや、ジロキチさんが言った事を晩飯の時ネタにしたら、こいつ本気にしちゃって」
ジロキチは慌てて「あんなの無いから」
「そんなぁ」と、がっかり顔の若狭。
そしてジロキチは注文をまとめた。
「それじゃ、四本の刀の属性は小雪が炎、風吹が闇、氷雨が氷、真白が光って事で」
それを聞いて若狭は思った。
(刀に名前つけてる。しかも全部冬の雪景色にちなんだ・・・)
そんな中でエンリが清定に訊ねた。
「ところで属性付与って、清定さんが自分で?」
「ポルタ大学に魔法学部が出来たんで、そこの属性魔法科の講師でイギリスから来た方にやって貰える事になりまして」と清定。
「何て人ですか?」
そう訊ねたリラに清定は「ローラ・アインツベルンという女性の魔導士で、ロンドンの時計塔魔法学校を卒業した方です」
リラは嬉しそうに「ローラさんがポルタに来るんだ」
「誰?」と怪訝顔のエンリ。
リラは言った。
「あのホームズさんの探偵団に居た人ですよ」
ジロキチたちが去るのを見送りながら、若狭は思った。
(刀が男性になったとしたら、あんな人なんだろうなぁ)
ポルタ大学魔法学部が開講した。リラが入学手続きを終える。
ホールに出た所でリラは見知った顔を見かけて声をかけた。
「ローラさん」
ローラは嬉しそうに「リラさん、久しぶり。時計塔を卒業して、ここに就職したの。遠坂君と間桐君も居るのよ」
二人を呼ぶローラ。
リラは再開した二人の男子に「これからは先生だね」
「同級生だったから生徒って気がしないな」と間桐。
するとローラが「友達だもん。また遊びに行こうよ」
リラは思い出したように彼女に訊ねた。
「ところでローラさん、ジロキチさんの刀に魔力付与をするのよね?」
「本当は魔道具科の仕事なんだけどね」とローラ。
「刀の宝具精霊って居るかな?」とリラ。
ローラは「あると思うよ。妖刀とか」と答える。
リラは「もしそれに、人化の儀式を使ったら、人化して刀剣男子になるのかな?」
爆笑する三人。
「軍艦娘とか城郭娘とかの類もそれかぁ」と遠坂。
「まさかリラさん、そんなのに興味あるの?」とローラ。
「エンリさんはどうするんだよ」と間桐。
リラは慌てて「私じゃなくて刀鍛冶の人の所の女の子が、そういうのに興味があるみたいで」
「いろんな趣味の人が居るからなぁ」と遠坂。
「魚に欲情する人とか?」と間桐。
リラは言った。
「オランダに行った時、エンリ様、魔剣と融合して大きな魔剣になって、ファフちゃんがそれを持って戦ったの」




