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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第126話 オランダの海賊

エンリ王子たちがアムステルダムで探っていた魔導船の技術は、イギリスから誘拐されて来た八人の技術者によるものだった。

彼等八人は、タルタとカルロ、そしてロシア皇太子ピュートルの共同作戦により救出された。

その脱出を阻止しようとするオレンジ軍は撃退されたが、その行き先を巡り、ピュートルとノルマン王子カールが対立。

だが技術者たちはエンリ王子についてポルタに行きたいと言い出した。



ピュートルは技術者たちに言った。

「俺はあんたらを救出してロシアに連れ帰るために、ここで頑張ってきた。それを横からかっ浚われてたまるか」

エンリは「カールはどうする?」

「私は本人たちの意思を尊重します。それに、ロシアが危険な技術を手にしないなら、我々としては不満は無い。ロシアは危険な国だ」とカール王子。


ピュートルは不満を隠そうとはせず、カールに「それは我が国が巨大な領土を有しているからか? だがその大部分は不毛なシベリアだ」

そのピュートルにエンリは問うた。

「その不毛なシベリアを何のために強引に奪ってきたのですか?」

「・・・」

更にエンリは「ロシアの経済力はウクライナの小麦ですよね? だがウクライナはウクライナ人のものだ」


ピュートルは「・・・もういい。大国は常に疑いの目を向けられる。だが、我々には力がある」

「それで欲しいものを奪って何が悪い・・・って発想は、警戒されて当然だと思います」とエンリ。

「なら阻止してみろ」

そうピュートルは叫び、そしてエンリたちの前に立ちはだかる六人のマトリューシカ隊。



その時、六発の銃弾が彼女たちを襲い、六人はあっけなく倒れた。

その銃声の主・・・ニケは短銃を構えたまま、ピュートルに言った。

「麻酔弾よ。当分目を覚まさないわ。そんな所に転がしてたら、警察が来て捕まるわよ。国際問題にしたくなければ、早々に連れて帰る事ね」


ピーターことロシア皇太子ピュートルは唇を噛締める。そしてグリフォンを召喚し、六人のオバサンを乗せて去った。



脅威が去ると、エンリはマトリューシカ隊を倒したニケに言った。

「ニケさん、何処に行ってたんだよ」


アーサーも「錬金術って言ってたよね? オランダに金を作れる魔導士なんて居たの?」

「そんなのもう古いわ。この国って凄いのよ。アムステルダム銀行が設立されたわよね。そこで国家が経済を管理して、紙に印刷したお金を作ったのよ」とニケ。

エンリは「ミン国がやってたあの仕組みかよ。それで錬金術ってまさか」


ニケは「この国が印刷して作ってるお札というものを、私たちで作っちゃおうって訳」

「偽物のお札かよ」とエンリは言って溜息。

「錬金術で金を作るより遥かに簡単で合理的だわ」とニケ。

「簡単かも知らんけど合理的か?」

そう言って首を傾げるエンリに、ニケは「これがその自主発行したお札よ」


「自主発行って・・・」とあきれ顔で、ニケから、お札と称するものを受け取って観察するエンリ。

そして溜息をつくと「ニケさん。この印刷した文字って、そこらの印刷工場で使ってる活字だよね?」

「当然でしょ。既製品だから綺麗に印刷できるのよ」とドヤ顔のニケ。

エンリは「しかも紙は普通の書物の紙」

「既製品として品質が保証されているという事よ」とドヤ顔のニケ。


エンリは残念そうな顔で言った。

「お札ってのは、偽造できないよう、国が特別な版と特別な紙を使って印刷するんだよ。こんなの一瞬で偽札だとバレるから。そもそもこれ詐欺だから。詐欺行為の出来ない呪いをかけたよね?」

ニケは「解除してよ」と言って口を尖らせた。


とてつもなく残念な空気の中、ニケは溜息をつくと、その場に居た八人の技術者を見て、言った。

「で、その八人が例の魔導戦艦の技術者という訳ね?」

「彼等を連れてポルタに戻ろう」とエンリ。



港へ向かうエンリたち。


だが、その前に200人の屈強なマッチョの軍団が立ちはだかった。

彼らはエンリたちに言った。

「その八人を返して貰うぞ」

「何だお前等は」とエンリたち。


彼らを見てタルタは「ゴイセン海賊団だな」

不敵な面構えの海賊が進み出て「俺が団長のウィルだ」

「東インド会社の飼い犬かよ」

そう言うタルタにウィル団長は「悪いが、俺たちは強いぞ。ドレイクの奴にあれだけ苦戦したお前等なら、取引に応じた方が身のためだ」


「何だと」と叫んでいきり立つタルタに、ニケは言った。

「まあ待ちなさい、タルタ。確かに取引というのも悪くないわね」

「ニケさん」

そう言って不服顔を見せるタルタを他所に、ニケはウィルに言った。

「けど、このイギリス人は渡せないわ。代わりに極上のお宝をあげる。海賊のロマンなんでしょ? これでどうかしら」

そう言って板状のものを出すニケ。


「何だよそれは」

そう言って不審顔を見せるウィルにニケは「アムステルダム銀行が発行した紙幣の原版よ」

「ニケさんそれ・・・」と、あきれ顔で言うエンリ。

ニケは「これを使って印刷すれば、好きなだけお金を作れるのよ」

ウィルは激怒して叫んだ。

「そんなもので靡くか! 俺たちは海賊としての誇りにかけて、自らの力でお宝をわが物にするんだ!」



「要らないのね。じゃ、これはあなた達にあげる」

そう言ってニケは、ウィルの部下の海賊たちの群れに、偽札の原版を投げ込んだ。


それを拾った海賊は「これで大金持ちだ。子供に飯を食わせてやれる」

周囲に居る海賊たちも口々に言った。

「それがあれば、病気の親の薬代が・・・」

「女にモテ放題だ・・・」

「俺が貰う」

「いや、俺が」

「俺によこせ」

たちまち原版の奪い合いとなる。


ウィル団長は慌てて部下たちに怒号を浴びせた。

「お前等、何やってるんだ!」

ニケは高笑いしながら「貧すれば鈍すって奴ね。お金で兵隊の数を揃えたところで、所詮は烏合の衆だわ」



ウィルは更に怒りのボルテージを上げて「馬鹿にするな。俺たち幹部だけで十分だ。ホッブス、このドラゴン使いどもに、上には上が居るって所を見せてやれ」

「了解です」


そう言うと、ホッブスと名乗る魔導士が呪文を唱えた。

「汝、神の眷獣。世界を二分する大海の王。万物を従え宇宙を統治せし汝の名はリバイアサン。召喚あれ」


巨大な魔法陣が描かれた海面を突き破って巨大な水飛沫とともに出現したのは、下半身が巨大な大蛇の巨人。全身を鱗で覆われ、王冠を被り、右手に剣、左手に魔法の杖を持ち、陸上のドラゴンに向かって上陸して来る。


リバイアサンが手に持つ杖を見てエンリは「まさか、あんなのが魔法とか使ったりしないよな」

「ファフはドラゴンだけど素手だぞ」



リバイアサンは巨大なファイヤーボールを放ち、それはファフが吐いた炎と空中で衝突し大爆発を起こす。

「これならどうだ。雷の槍をくれてやれ」


リバイアサンが放つ雷魔法に対して、アーサーが防御魔法を使う。

だがその一部が欠けてファフはダメージを負った。

「ファフ、大丈夫か」

そう呼びかけるエンリにファフは「けっこう痛い」

「あの杖、どうにかならんか」と焦り顔のエンリ。

アーサーが「あれは魔石を媒介にするタイプですね」

「なら、まかせておけ」

そう言うとタルタは鋼鉄の砲弾で杖の魔石を破壊した。



ウィルは「やってくれたな。だが、剣ならどうだ」


右手の剣で切りつけるリバイアサン。ファフは右手で庇うが、ドラゴンの鱗で防ぎきれず手傷を負う。

「主様、痛いよ」

そう言うファフにエンリは「ファフ、こっちに来い」


ドラゴンは空を飛んでエンリの頭上に来る。エンリはドラゴンの右手に乗って、ファフに向かって叫んだ。

「俺がお前の剣になってやる」

「だってファフは従者で主様の剣だよ」とファフ。

エンリは「主は指揮官で作戦を指令する役目だ。その俺が立てた作戦だ」

「了解」


ファフは右手でエンリの胴体を掴んで再び舞い上がり、リバイアサンの前に降り立つ。

エンリは炎の巨人剣を抜いて真上に翳し、そして呪句を唱えた。

「我、我が炎の剣とひとつながりの宇宙なり。この灼熱の宇宙が形を成したるは、大いなる者が振るう炎の巨人剣。我を振るいし汝の名はファフニール。剣化あれ」



エンリと彼が持つ炎の巨人剣がエンリ自身の体とともに灼熱の気に包まれ、その全体がドラゴンの手の中で巨大な剣の形になる。

ファフはそれを振り上げてリバイアサンに斬りかかる。

それを受け止めるリバイアサンの剣圧に、エンリは精神力を振るって抗った。

(もっと熱く、もっと強く、奴の剣を焼き切る俺の灼熱)


敵の本物の剣に押し返えされそうになった時、ドラゴンの左手がリバイアサンの右手を掴んだ。

リバイアサンは、左手で持つ壊れた杖の先でドラゴンの腹を突く。

ドラゴンはその痛みに耐え、尻尾を杖に巻き付けてそれを抑えると、リバイアサンの頭部へ向けて炎を吐く。

顔を覆って離れたリバイアサン。ドラゴンは剣化したエンリで敵の胸を突いた。

咆哮とともに消滅するリバイアサン。


「あのリバイアサンがやられるなんて」

口々にそう言って浮足立つゴイセン海賊団。

それを見てエンリは仲間たちに呼びかけた。

「今だ。奴等を蹴散らせ」



ジロキチが跳躍して敵陣に飛び込み、四本の刀で斬りまくる。

ニケが拳銃を連射し、敵が怯んだ所にカルロが突入してナイフを振るう。

アーサーが炎魔法で、リラが水魔法で攻撃。

タルタは銃撃してくる海賊兵の銃弾を部分鉄化で防いで敵に詰め寄り、殴りまくる。

リバイアサンを倒したファフのドラゴンは海賊の群れを蹴散らし、エンリは浜辺に降りて炎の巨人剣を振るった。



敵を指揮するウィルに迫るタルタ。

「おい、ウィル団長、俺が相手だ」

「かかってこい若僧、格の違いを見せてやる」

そう叫んで大剣を抜いたウィル団長に、タルタは鋼鉄の砲弾をお見舞いした。吹っ飛ばされるウィル。


岸壁に叩きつけられて深手を負ったウィルに、タルタは言った。

「あんた、ドレイク提督より弱いよ。あの人は素手でこいつを受け止めたぞ」



ゴイセン海賊団は撤退し、エンリたちは港へ。

そこで彼等が見たものは、燃え落ちる自分たちの船。そして港の他の船は既に退避していた。

エンリ唖然。そして「やりやがったな」と呟く。

「どうするよ」

そう言って頭を抱えるエンリと仲間たち。


そこにエラスムスが最悪のニュースを持ってきた。

「ブルゴーニュ軍が追撃中だったオレンジ軍に、他のネーデルランド同盟参加の州軍が参戦しました。ブルゴーニュ軍は大敗。マキシミリアン皇子はフランスに亡命したそうです」

更にエンリたち唖然。


「俺たち負け組かよ」とタルタ。

「船も無いんじゃポルタに帰れない」とカルロ。

「陸上ルートで逃げるしか無いですね」とアーサー。

「ファフのドラゴンは?」とニケ。

「疲れて寝てます」とリラ。


エンリは頭を抱えながらも仲間たちに号令をかけた。

「とにかく移動だ。こんな所に居たら、すぐ敵が来るぞ」

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