第118話 裏切りの理由
南インドにあるポルタ植民都市の依頼でヤナガル王国に出向いたエンリ王子たちは、北から侵攻したムガール帝国の艦隊をヤナガル海軍とともに破った。
その時ファフは、エンリたちの裏切りを警戒したヤナガル側の人質として、あるヤナガル貴族の屋敷に連れ込まれ、預けられていた。
ヤナガルの貴族の子供たちと遊んでいるファフ。
「僕たちは上のカーストなんだ。商人とか労働者とは違うから」と貴族の子供の一人が言った。
ファフは「主様はポルタを商人の国にするって言ってたけど」
「その主様ってクシャトリヤなんだよね?」と別の貴族の子供。
「解らないけど主様は王子だよ」とファフ。
その貴族の子供は「だったらクシャトリヤだ。ファフちゃんはその子供とか親戚?」
「従者だよ」とファフ。
「従者って騎士だよね。戦ったりするの?」と更に別の貴族の子供。
「ファフは主様の切り札なの」
そう言うファフに、その貴族の子供は「かっこいい。だったらクシャトリヤだ」
ファフは思った。(クシャトリヤって何だろう?)
やがて艦隊戦を終えたエンリたちが迎えに来る。
「主様」と言ってエンリに駆け寄るファフ。
エンリは同行したヤナガルの役人に「これって誘拐ですよね? 何でこんな事を?」
役人は「子供を戦争に巻き込むまいと」
「で、本音は?」とエンリ。
「裏切った時のための人質に」と役人。
「俺たち信用されて無いのかよ」と言ってタルタは溜息をつく。
役人は「すぐ買収される人とかハニートラップに弱い人が居るから、裏切った時の対策をと上から言われたんです」
ニケはムッとした顔で「私、買収なんかされないわよ」
カルロもムッとした顔で「俺だって女の誘惑に乗ったりするもんか」
エンリは「全然説得力を感じないんだが」と言って溜息をついた。
そして翌日・・・・・。
「じゃ、行って来るね」
そう言って街に出るファフに、エンリは声をかけた。
「相手は普通の子供なんだから、怪我させるなよ」
ファフは、先日滞在していた貴族の屋敷に遊びに行く。
仲良くなった貴族の子供たちと遊ぶ約束をしていたのだ。
屋敷について、その家の子供に声をかけるファフ。
「今日は、遊びに来たよ」
「ファフちゃんだ」と歓声を上げる貴族の子供たち。
そして「何して遊ぶ?」
子供たちと一緒に遊び、子供たちと一緒に昼食を食べるファフ。
「カレー、美味しいの」
夕方になってエンリたちの所に戻るファフ。
途中で、ニケが物陰で怪しい男と何やら話し込んでいる様子を目撃した。
お金らしきものの入った袋を受け取るニケを見て、ファフは呟く。
「ニケさん、デート?」
数日後、陸上でムガール軍が首都の北側に奇襲をかけた。
王宮の作戦室に駆け付けて話を聞くエンリ王子たち。
「どこから敵兵がこんなに・・・」
そうエンリに問われて、参謀は「先日の艦隊に乗っていた奴等が、どさくさに紛れて上陸して潜伏していたようです」
「王国軍の主力は国境で釘付けです。警備兵で対処するしか・・・」とヤナガルの将軍。
エンリは「俺たちも出ます。ファフは貴族の子供の所か。すぐ呼び戻せ」
首都の郊外の戦場に行く。
警備兵が敵軍と戦っているが少数だ。アーサーがスケルトン兵を繰り出すが、既に街に攻め込まれ、一部で火の手が上がっている。
「早急に消火しないと大惨事だ。敵軍をどうにかしろ」とエンリ。
リラが「王子様、私がセイレーンボイスで敵を眠らせます」
「頼む」
全軍に耳を塞ぐよう伝令を出し、リラは人魚の歌を歌った。だが・・・。
攻撃を止める様子の無い敵兵たちを見て、エンリは焦る。
「セイレーンボイスが効かない。何故だ」
リラは水魔法で消火に回る。
タルタがカルロとジロキチを抱えて鋼鉄の砲弾で敵陣中央に飛び込んだ。そして三人で大暴れ。
エンリ王子はスケルトン兵たちの先頭に立ち、炎の巨人剣で敵をなぎ倒して、敵陣中央を突破し左右に分断。
ようやく攻勢に転じた所にファフのドラゴンが到着した。
ムガール軍を撃退して、奇襲戦の戦場を片付ける。
ニケは向うで、ヤナガル軍を相手に、敵兵が身に着けていた鎧や武器をネタにした儲け話。
戦死者を埋葬する中で、戦死した敵兵が耳栓をしているのが発見された。
それを見てアーサーは「これ、セイレーンボイス対策ですよ。情報が漏れたんだ」
「どこから?」とリラは表情を曇らせる。
「リラの切札は味方の王国軍にだって教えてないぞ」とエンリも困惑顔。
タルタが「きっとアカシックレコードを読んで予言しだんだ」
「いや、それは無い」と仲間たちが口を揃えた。
ジロキチが「まさか身内にスパイ?」
「カルロ、まさかハニートラップに」とタルタ。
アーサーがカルロに「お前、ここの女官に言い寄ってたよね? まさか彼女が」
カルロは不自然なポーズで寂しそうな横顔を見せて、言った。
「違うと言っても信じて貰えないよね。男と生まれた者の宿命さ」
「いや、違うな」
そうエンリは言って、カルロの顔を正面に向けさせると、カルロの顔の反対側に平手打ちの跡があった。
アーサーは「それじゃ・・・まさかニケさんが敵に情報を売った?」
「敵に寝返って工作員に?」とジロキチ。
タルタが「二重スパイニケさん」
カルロが「何か、かっこいい」
ファフが「工作って、ノルマンに行った時みたいに?」
「あの時もニケさん、敵に情報を売ってたのかよ」とタルタ。
「木でピカピカした人形作って王様に売るんだって言って、主様が詐欺だって」とファフ。
「その工作じゃないから」とエンリ。
「子供のイメージで工作っていうと、そうなるよね」とアーサー。
エンリが言った。
「とりあえずアリバイだな。彼女は昨日、何をしてたか」
ファフが「男の人とデートしてたよ」
「なーんだ、それじゃ、敵に寝返るどころじゃないね」と仲間たち。
エンリは「あの人も隅におけない・・・って違うだろ。それ、敵のスパイと連絡とってたんじゃないのか?」
アーサーが使い魔を放ち、ニケの跡をつけさせる。
まもなく不審な男性と密会している現場を使い魔が察知し、その男性を捕えて自白の魔法を使った。
ニケを問い詰める仲間たち。
アーサーが「ニケさん、どういう事?」
タルタが「お金で動く人だとは知ってたけど、俺たち、仲間だよね?」
ニケは柄にもない真顔で俯いていたが、やがて顔を上げて、仲間たちに言った。
「会って欲しい人達が居るの」
ニケに案内されて来た所は、ほぼスラムに近い粗末な小屋のような家が並んでいた。
「ここは?」
そう問うエンリに、ニケは「ダリッド、不可触賤民の人たちの居住区よ」




