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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第116話 違約の代償

オッタマ帝国とブラド伯爵との和平の成立を祝って開かれたドラキュラ城での宴の中、宴会料理の一つとして出された「両脚羊」が事態を一変させた。

それが人肉料理であるとの話をファフから聞いたアラジン。彼の中の和平への喜びは怒りへと変わった。



エンリ達がトイレから戻ると、ブラド伯は心配そうな顔でエンリに言った。

「オッタマの客人が急に帰ったんだが、何か機嫌を損ねるような事をしたかな?」


エンリは溜息をついてブラドに話す。

「異種族として食習慣が違うのは解りますが、さすがに人肉を客に出すのはどうかと思いますよ」

「人肉って何の事だ?」と怪訝顔のブラド。

「両脚羊ですよ」

そう答えるエンリにブラドは「羊は羊だろ」

エンリは「二本足の人間を羊肉に例えたんですよね?」

ブラド唖然。そして「な・・・何ですとーーーーーーーー!」


「違うんですか?」

そう言うエンリを見て、ブラドは言った。

「どうりで材料が解らなかった訳だ。珍しい料理だというので調べさせたんだが、レシピが断片的にしか解らず、素材とかもはっきりしなかった。両脚というのは犬がやる"ちんちん"という芸と同様に後ろ足だけで体重を支えるものと考えて・・・」

「じゃ、あの肉は?」とエンリ。

ブラドは「羊の後ろ足の腿肉だ」

「要するに、ただの勘違いかよ」と言って溜息をつく仲間たち。



その時、ブラド伯の親衛隊のバンパイア兵の一人が宴会場に駆け込んだ。

「伯爵様、大変です。オッタマ軍が我が方に向かって攻撃を」

「敵は?」

そう問うブラドに兵は「アラジンさんが一人。ですがジンに乗って攻撃魔法を撃ちまくってます」



外に出ると、向うからアラジンを肩に乗せたジンがこちらに向かって来ている。

肩の上のアラジンが攻撃魔法を撃ちまくるのを、バンパイア兵たちが必死に魔法防御で防いでいる。


ジンに向けて放たれた攻撃魔法は全て跳ね返される。

アーサーが「ジンを操りながら魔法を使ってるよ」

エンリが「人化の効果だろうね。多少なりとも知能がついて、操作の負担が減ったんだ。あれを止めるのは物理的な力だけだ。ファフ、やれるか?」



ファフがドラゴンとなってジンに格闘を挑む。肩に居るアラジンが電撃魔法を放った。

「ファフ、大丈夫か」とエンリ。

ファフは「けっこう痛い」


「王子様、水なら雷の力を逃がします」

そう言って、リラがウォータードラゴンを召喚した。水の龍がジンの体に巻き付き、ファフが取り抑えにかかる。

雷魔法の電気は水の龍の体を伝って地面に吸い込まれた。



ジンの前で、ブラド伯爵が宙に浮いて向き合った。

アラジンは怒りMAXで叫ぶ。

「ブラド、よくも俺たちの仲間を肉にしてくれたな」

「それは誤解だ。だが今のお前は聞く耳を持たないのだろうな」とブラド伯爵。



伯爵は魔法の杖をアラジンに向けた。

「魔法は利かないぞ。こいつは吐く息でだって魔法を吹き消せる」とアラジン。


「これならどうかな」

そう言うと、ブラドは上に杖を向けて呪句を唱える。

「汝の力は我のもの、我の力も我のもの、全てを奪う我が名はエナジートレン。奪力あれ!」


杖から青白い光が上方に放たれ、そこに居る蝙蝠が掲げ持つ魔法の鏡に反射して、ジンの真後ろへ。

それが、ジンの真後ろに居る蝙蝠が掲げ持つ魔法の鏡に反射して、ジンの肩に居るアラジンを真後ろから直撃。


アラジンは魔力を失い、地面へと落下。ジンは人の姿に戻った。

人の姿のジンは、横たわるアラジンの傍らに座り込んで、涙目で言った。

「御主人様死んじゃったでおじゃる。おかしい人を亡くしたでおじゃる」

アラジンはムッとした顔で目を開けると「おかしい人じゃなくて惜しい人だろ。ってか勝手に殺すな」

「御主人様ぁ」と言ってアラジンに取り縋る人化ジン。

アラジンは迷惑そうに「離れろ暑苦しい」



地面に落ちたアラジンの前にブラドが降り立つ。

アラジンはなお怒りに満ちた目で、ブラドに言った。

「何も知らずに殺された仲間の肉を食わされる俺の姿はさぞ滑稽だったろうな」

ブラドは「それは誤解だ。捕虜を殺してなどいない」


その時、城から多数の男たちが出て来た。サリー姫とカブが連れ出した捕虜たちだ。

捕虜たちを見てアラジンは「お前ら、食料にされたんじゃ・・・」

「バンパイア兵の魔力源として採血されましたけど、健康に害が無い程度ですよ」と捕虜たち。


アラジンは困惑顔で「じゃ、両脚羊って・・・」

「レシピが断片的にしか手に入らなくて、人肉を使うなんて知らなかったんだよ」とブラド伯。

「じゃ、俺たちが食べたのは」とアラジン。

エンリは申し訳無さそうに「ただの羊の後ろ足の腿肉・・・だそうだ」


「人騒がせ過ぎだろ!」

そう言って溜息をつくアラジンにエンリは言った。

「けどお前、停戦協定の契約・・・」

アラジンは覚悟を決めた清々しい表情で捕虜たちを見て「契約呪文付きの契約を破った。契約精霊に殺される前にこいつらが無事だと解って良かった」

「アラジンさん」と涙目で呟く捕虜たち。

アラジンは言った。

「言うな。勘違いとはいえ、自分がやらかした事の落とし前は自分でつける」



そんな彼にアーサーが言った。

「ってか、契約を破った時に契約精霊が何をするか、知らないのか?」

「契約を破った俺を殺すんだろ?」と怪訝顔のアラジン。


ブラド伯が言った。

「制裁が発動すると、怒り狂った精霊が憑依して、最強の狂戦士になって半径五キロ以内の人を全滅させる」

アラジン唖然。そして叫んだ。

「何だよその傍迷惑な設定は!」



苦しみ出すアラジン。

「どうしよう。制裁が始っちゃった」と捕虜の一人が・・・。

別の捕虜が「狂戦士になって暴れ出す」

更に別の捕虜が「俺たち全員殺される」

「逃げろーーーー」と叫ぶ捕虜たち。



周囲はパニックになる。逃げ惑う捕虜たち、城の人たち、そして街の人たちも・・・。


その時、エンリ王子がジロキチに言った。

「なあジロキチ、ジパングに無効化の儀式って、あったよな?」

ジロキチは「まさか、アレをやるのかよ」

「何もやらないよりマシだろ」

そう言うエンリ王子にジロキチは「解った」


謎の儀式の準備を始めるエンリとジロキチ。そして・・・。



エンリは大きな文字を書いた板を持って、そこに書かれた言葉を叫んだ。

「はい、ビックリカメラでしたー。撮影さん、撮れてますか?」

記憶の魔道具を構えて手を振るジロキチ。


その場に居てパニックになっていた全員唖然。

ブラド伯爵唖然。狂戦士になりかけのアラジン唖然。



そんなアラジンにマイクを突き付けて、作り笑顔でエンリは言った。

「はい、みんなを見事に騙してくれたアラジンさん、名演技でしたねー。どうですか?」

アラジンは、訳が解らん・・・といった表情で「あの・・・これって」


エンリ、額に青筋を浮かべた作り笑顔のドアップでアラジンに迫り、更に言った。

「名演技でしたねー」

アラジンも作り笑顔を引きつらせて「そ、そうですね。俺、芝居ってはじめてなんで、緊張しましたよ。あは、あはははは」


エンリは唖然顔のブラド伯に、額に青筋を浮かべた作り笑顔のドアップで迫る。

「見事に騙されたブラドさん、どうでしたか?」

「いや、アラジン君にこんな才能があるなんて、あは、あはははは」と、笑顔を引きつらせたブラド伯。


エンリは唖然顔の捕虜たちに、額に青筋を浮かべた作り笑顔で「捕虜の皆さん、どうでしたか?」

捕虜たちは「一時はどうなる事かと。あは、あはははは」


そしてエンリは「では皆さんご一緒に」

全員声を揃えて「ビックリカメラ大成功!」



残念過ぎる雰囲気の中、タルタは言った。

「あんなので契約精霊、納得したのか?」

アーサーは「納得というより、あきれて帰ったんじゃないかと思う」



騒ぎが収まり、あちこち破壊された城下の修復が進む。

そんな中、アラジンがエンリに言った。

「お前らが捜していた秘宝の片割れって地図なんだよな? ある沿岸の村の洞窟で発見された宝箱の中に、神秘図形を描いた古代の賢者の遺産があったって言うんだ。神様のシンボルの有難い文様だというので、写した図形をお守り的にあちこちに書き込んで、村のシンボルみたいになってるそうなんだが」

「それって、どんな図形なんだ?」とエンリ。

「こんな・・・」


そう言ってアラジンが提示したものを見るエンリ。

かなり下手な模写だが、秘宝の世界地図を見ると、確かに黒海周辺の海岸線の形と一致する。


エンリは「間違い無い。秘宝の片割れだ」

「案内してやる」とアラジン。



その村に着くと入口に大きな看板がある。そこに描かれた図形を見て、エンリの仲間たちは言った。

「これが黒海の地図かよ」

エンリは「これを描いたっていうオリジナルは?」

「教会に飾って村民たちが拝んでるそうだ」とアラジン。



教会に行き、司祭に話す。

「海賊が作成した地図でしたか」と残念そうな司祭。

「神秘図形とかじゃ、全然無いですから」


そう言うエンリに、司祭は言った。

「残念です。けど、村人がみんな信じ込んで拝んでいる物です。譲ってくれとか言いませんよね?」

「やっぱり駄目ですか」とアーサー。


「なら、これで行こうよ」

そう言って、エンリは記憶の魔道具を出した。

そして「映像で記録して後で書き写せばいいじゃん」



数日後、エンリたちはポルタに帰還した。

ドラキュラ城を後にするエンリたち。

グロティウスも同行する。フランスで国教会の保護を受ける事になったという。


見送りに来たブラド伯爵親子。

エンリは遠慮がちな顔でブラドに言った。

「それでブラドさん。念のための確認ですが、あなたがスパニア国教会に改宗するという件は・・・」

「あれは、その場を繕うための嘘ですので」とブラド伯。

「ですよねー」とエンリは残念そうに・・・。


その時、サリー姫がエンリに言った。

「エンリ様はイザベラ様の御夫君なのですよね? 父が時計塔魔法学校の特別講師に招かれた時、一緒についてロンドンへ行ったのですが、エリザベス殿下にお会いしましたの。とても聡明な方で、私、ファンになって。その時、エリザベス様が仰ったの。自分の最大のライバルはスパニアのイザベラ陛下だって」

「あーーーー」と言って残念な表情を見せるエンリの仲間たち。


そんな彼等の反応を他所に、サリー姫は言った。

「私もイザベラ様みたいな君主になりたいですわ」

エンリは溜息をつくと「あの人の真似だけは止めたほうがいいよ」



ファフが無邪気な笑顔でカブに言った。

「さよならカブ君。また遊ぼうね」

「そうだね」とカブは、目を伏せがちな照れ顔で・・・。

「五人のお友達にも、よろしくね」

そう言うファフに「う・・・うん」と口ごもるカブ。


馬車に乗って去って行くエンリたちを見ながら、カブ公子はブラド伯に言った。

「父上、人化の魔法を教えて欲しいのですが」

ブラドは笑いながら「悪戯にでも使うつもりか?」

「違いますよ」と言ってカブは口を尖らせた。


サリー姫は「友達なら、人間の子供と仲良くすればいいじゃない」

「嫌だよ。貴族の家の奴等とか変な家柄意識ばっかり」とカブ公子。

そんな子供たちにブラド伯爵は言った。

「庶民の子であっても、対等に相手を想う気持ちがあるなら、それはかけがえの無いつながりだと私は思うぞ」

「そうですね」と言って頷くサリーとカブ。

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