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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第113話 血税の一揆

イザベラの依頼でルーマニアのブラド伯の元を訪れたエンリ王子たち。

ドラキュラ城に滞在して数日後、城に慌ただしい空気を感じて、エンリたちは伯爵の元に行った。


厄介な問題が発生したとの事で、伯爵の話を聞く。

「オッタマに支配された地域を奪還して支配下に編入したのだが、住民が血税に抵抗して反乱を起こしたというのだ。そんなに厳しい負担ではない筈なのだが」

「バストいくつの処女とか言われたら嫌だとは思いますが」とアーサー。

ニケが「力づくで鎮圧すればいいんじゃないかしら。生き残った住民に賠償金請求できるわよ。何なら私が交渉・・・」

エンリは溜息をついて、ニケに「そういう物騒なのは止めて。下手に力づくで行くとオッタマに寝返られちゃうよ」

そして「とにかく説得してみてはどうですか」とブラドに・・・。


ブラドは困り顔で「伯爵家の家来の言う事に耳を貸さないと・・・」

「我々が行ってみましょうか」とエンリ。

「客人にそのような事をさせては・・・」と遠慮がちなブラド。

だがエンリは言った。

「こういう時は無関係な第三者が調停者として間に立つのが手っ取り早いですよ」



反乱を起こした地区に向かうエンリ王子たち。

一揆勢が立て籠もる柵で囲まれた村があった。


門を守る武装した農民に交渉を申し入れるエンリ王子。

村人は「あんたらは何者だ?」

「伯爵家の客分・・・」と言いかけたエンリの足を思いっきり踏むアーサー。そして農民に言った。

「こちらは、調停者として招かれた西のポルタのエンリ王子です。とにかく言い分を聞かせてくれませんか」



門の中に通され、指導者らしい人の所へ。一揆勢の指導者が言った。

「聞いて下さい。穀物を納めろとか労役とかなら、まだ我慢も出来る。けれども血税というのは、あれは何ですか」

「健康に害が無い程度と聞きましたが」と怪訝顔のエンリ。

村人は深刻そうな表情で「とんでもない。下手をすれば命に関わる」


「そうなんですか?」

そう言って首を傾げるエンリに村人は「だって全ての男子を兵隊に駆り出すんですよ」

「はぁ?」

「領主の戦争のために戦って血を流せと言われても、そんなの騎士の人たちの仕事でしょう」と言って村人は顔を引きつらせる。

エンリ唖然。


そして仲間たちと額を寄せ合う。

「アーサー、これって・・・」

そう問われた彼は、エンリに「プロイセンでフリードリッヒ王が初めた徴兵制とごっちゃになってますね」

「要するに、ただの勘違いかよ」と、溜息をつくタルタ。



エンリは農民たちに説明したが、聞く耳を持たない。

そこでエンリ王子は彼等に提案した。

「だったら、税のトレードというのはどうでしょう。隣の地域は既に伯爵家の支配下にあって血税を受け入れている。そこで彼等の血税を倍にして穀物税は免除。こちらは穀物税を倍にして血税を免除というのは」

「まあ、兵隊にとられないというなら・・・」と村人たちも頷く。


村人の一人はエンリに「そんな事を勝手に決めていいんですか? 本来伯爵家とは無関係なんですよね?」

エンリは言った。

「大丈夫。伯爵には私が責任を持って説得しますし、それに彼には損の無い話ですから。ただ、利害関係があるのは隣の地区の住民です。これから交渉に行って契約しましょう」



契約を結びに一揆勢の指導者たちを連れて隣の地域へ。

隣の地区に入ると採血をやっていた。

テントで納税者が採血を受けている。採血を終えた人達が増血ジュースを貰って飲んでいる。

係員が納税を促すアナウンス。

「皆様の安全を守って戦うバンパイア兵に愛の採血を」



そんな様子を見て、一揆勢の指導者の一人が「何ですか? あれは」

「あれが血税ですよ」とエンリ。

「兵隊をとってるようには見えないんですが」と言って首を傾げる村人代表。

エンリは「バンパイア兵の魔力源に必要な血液の採取ですから。そう言いましたよね?」


一揆勢の指導者たちが額を寄せてひそひそ。

「本当に兵隊をとるんじゃないのか」

「何だか負担、少なそうじゃね?」

「その代わりに穀物の税を倍とか」

「滅茶苦茶損するような気がするんだが」


そして彼等は言った。

「あの、エンリさん。トレード止めにしていいですか?」



一件落着してブラド伯爵の城に戻る。

そして伯爵に首尾を報告。


仕事を終えて客間に戻ると、タルタが言った。

「なぁ、俺たちが伯爵を助けるって、これの事じゃないよね」

「違うんですか?」とカルロ。

エンリは「オッタマから領地を取り返したって事は攻勢に出てるって事だよね。って事は向うから反撃が来るって事なんじゃないのかな?」



イザベラと通話の魔道具で連絡をとるエンリ王子。

そして「血税一揆とやらは片付いたんだが・・・」


イザベラは言った。

「そんな反乱ごときであなたを送り込んだりしないわよ。オッタマから領地を取り返したという事は、オッタマから必ず反撃が来るという事よ。問題は、ロシアとドイツ皇帝が援軍を出そうとしているの」

エンリは「だったら奴等に任せれば簡単じゃないのか?」

「そうもいかないのよ。彼等がオッタマ軍を撃退したら、そのままそこに居座って版図に組み込むつもりだから、そうなる前に片付けて欲しいの」とイザベラ。


エンリは溜息をついて「そういう事かよ。つまり敵はユーロの中にも居るって事か?」

「当然でしょ。そもそもドイツ皇帝は教皇派の要で敵側よ」とイザベラ。

エンリはあきれ声で「オッタマはドイツだけでなくユーロ全体にとって脅威だって言ってたよね?」



イザベラが話した事を仲間たちに説明するエンリ王子。

「そんな厄介な話だったのかよ」とタルタは溜息をつく。

アーサーが「ブラド伯爵に状況を確認する必要がありますね」


その時、城内が急に騒然とした空気に変わった。将軍や参謀たちが城の作戦室に集まっている。

作戦室に向かう士官を捕まえて「何かあったんですか?」と尋ねる。

「前衛要塞から伝令が来たとの事で招集が」と彼は答えた。


作戦室では、人化蝙蝠兵が伯爵の前で報告していた。

その様子を見て、エンリは仲間たちに「オッタマ軍が動き出した。いよいよ本格的な戦闘となるぞ」

「あの蝙蝠が人化の魔道具の成果って訳か」とカルロが妙な所に感心する。

「そういえば人化の魔法を創作したのって伯爵でしたね」とリラ。



全員が集まった所で軍議を始める。

「それでは皆に状況の説明を」と参謀に促すブラド伯。


参謀は説明した。

「オッタマはイェニチェリを含む本格的な軍団で、現在、前衛要塞で人狼部隊が応戦中です」

「人化狼はかなり不死身に近い生命力がある」と将軍は楽観的。

「ですが、敵軍の中にジンが居ます」と伝令の人化蝙蝠兵。

それを聞いてエンリは小声で仲間たちに「アラジンだ。って事はアリババとシンドバッドも居るかな?」


エンリは挙手して発言した。

「あの、敵に空飛ぶ絨毯は?」

「見かけませんでしたが」と伝令兵。

「単独で工作任務についているのかも知れません」とエンリ。


「例えば?」

そう問う伯爵に「こちらが援軍に向かえないよう橋を落とすとか」

「それでは向うも攻めて来れなくなる」とブラド伯。

エンリは言った。

「オッタマの工兵は優秀です。コンスタンティを落とす時、城壁の内側の港に軍艦で突入したのですが、港の入口は鉄鎖が張ってあって入れなかったと。それで現地で巨大な台車を急造して軍艦を乗せて陸地を迂回して内陸側から港のある金閣湾に入り、そこから軍港に突入したと」


ブラド伯は言った。

「そんな事が・・・。とにかく救援を送ろう。すぐにバンパイア部隊の招集を。地下牢の捕虜たちを使って兵たちに食事をとらせろ」


解散するとエンリは参謀に訊ねた。

「あの・・・捕虜で食事って?」

「採血ですよ。生き血は魔力源なので戦闘のために必要です」と参謀。

「でも、男の血ですよね?」

そう怪訝顔で尋ねるエンリに参謀は「女で処女の血をとか言ってるのは伯爵だけです。あれはただのスケベオヤジなんで」


 

出陣する騎馬のバンパイア騎士と歩兵たち。数はそう多く無い。多いのは人狼兵と人化蝙蝠兵だ。

崖の下を通る時は、蝙蝠が崖の上を警戒する。


峡谷を渡る所で橋は落とされていた。

「やっぱり」と言って溜息をつくエンリ王子。


ブラド伯は「すぐにかけ直します」と言って部下たちに号令。

「作業中、恐らく空飛ぶ絨毯が妨害に来ます」

そうエンリに進言されてブラドは「解りました」



多くの蝙蝠魔獣が上空を警戒する中、アリババとシンドバットが乗った魔法の絨毯が飛来した。


蝙蝠たちの必死の攻撃をかるくかわすアリババの絨毯。

「アーサー、竜巻魔法は使えないか?」とエンリ。

アーサーは「味方の蝙蝠を巻き込みます」


シンドバッドは架橋中の橋の真ん中に飛び降り、足場を支えるロープを切って架橋部材とともに落下した。

峡谷の底へ落ちるシンドバットをアリババの絨毯が受け止めて、彼等は飛び去った。


ブラド伯は「してやられた。架橋作業をやり直すしか無いな」と言って、再び部下たちに号令。


まもなく人化蝙蝠が飛来して報告。

「前衛砦が陥落しました。オッタマの奴等、ここに進軍して来ます」

「仕方ない。ここで迎え撃とう。今度は奴等が橋をかける番だ。目一杯妨害してやる」とブラド伯。



やがて敵軍が峡谷の向こうに姿を現す。進軍してくるオッタマの軍団の中ほどでジンの巨体が何かを担いで歩く。

峡谷の向こう側で戦闘態勢を整えるオッタマ軍。

そこへジンが担ぎ持ってきたのは、何と組み上がった橋だ。

それをジンは峡谷の架橋部分にドン、と置いて架け渡す。

一瞬で完成した橋を見てブラド伯爵唖然。



橋を渡って突撃するオッタマの騎兵。イェニチェリと呼ばれる精鋭だ。

バンパイア兵たちが橋に向けてファイヤーボールを放つが、ジンが右手を一振りすると、その衝撃波でファイヤーボールが消し飛ぶ。

そしてジンは、峡谷を飛び越えてこちら側へ乗り込んで来た。

「ファフ、あいつを頼む」

そのエンリの号令で、ファフはドラゴンになってジンと格闘。


イェニチェリと斬り合うバンパイア騎士たち。

互いに魔力を帯びた剣と鎧で、戦闘力は負けてはいないが数が少ない。

ジロキチとカルロが加勢しようとした時「お前らの相手は俺たちだ」と言って、アリババとシンドバットが二人の前に立ち塞がった。


エンリは炎の魔剣を振るって敵の騎兵と斬り合う。

馬上から打ち込む敵の剣が重い。

「もっと魔剣に熱を」

エンリは念じる。

「俺は灼熱。全てを焼き尽くす、空間を焼き尽くすアポロンの炎」

魔剣が白熱の光を放ち、エンリの全身に力が漲る。そして高熱を帯びた魔剣は鎧ごと敵を切り倒した。



峡谷の向こう側に敵の鉄砲隊が整列。銀の銃弾でバンパイア兵たちを狙う。

とっさにアーサーが防御魔法でこれを防ぐ。


ブラドは蝙蝠兵たちに司令を下した。

彼等は蝙蝠の姿で鉄砲隊の頭上に集結すると、人化して敵の鉄砲兵に襲いかかる。


ブラドは「鉄砲ならこっちにもあるぞ」と呟き、蝙蝠鉄砲隊に指令を下した。

鉄砲を下げた蝙蝠兵の一団が崖の上に集まり、人化して陣を成して敵陣に一斉射撃。

敵鉄砲隊がそこに射線を集中すると、彼等は蝙蝠になって別の所に移動し、人化して敵陣を銃撃。



だが、まもなくイェニチェリが橋のたもとに陣地を確保し、オッタマの歩兵隊が橋を渡って陣地を固めに入る。

獣化した人狼兵たちが歩兵隊に襲いかかる。これを密集した長槍で迎え撃つオッタマ歩兵。

敵の魔導士隊がファイヤーレインを仕掛け、アーサーがイージスの呪文でこれを防ぐ。

リラが敵騎兵を水の縛めで捉え、ニケが鎧の隙間に銃弾を撃ち込む。 


次第に押され、オッタマ軍が橋のたもとに陣地を完成させようとした時、ブラド伯爵は立ち上がり、呪文を詠唱した。

「無知なる者に告ぐ。汝が立つは地獄の門前。闇の顎を受けて真実を知れ。我が誘う汝ら贄を貪る者の名はファランクス・オブ・ダークネス。殺戮あれ!」

地面から無数の闇の槍が突き出し、橋のたもとのあたりに居た多数のオッタマの騎兵・歩兵たちを串刺しにした


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