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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第112話 悪戯の公子

旧大陸中央の砂漠から興り、オリエントの地を征してアラビアの異教徒たちの保護者の地位を得たオッタマ帝国。

海峡を渡ってコンスタンティ背後の諸民族を征服し、ハンガリーの大半を占領してドイツ皇帝の首都に迫る勢いを示した彼等に対し、ゲリラ戦で抵抗を続ける者達が居た。

バンパイア族の長、ブラド伯爵である。



「で、ドイツのテレジア女帝からの要請で、彼等を助けて欲しいと?」

毎度のイザベラの要請に怪訝顔でそう答えるエンリ王子。

そして「けどあの女帝は教皇派の要で敵側の筈だろ?」

イザベラは「オッタマはドイツだけでなくユーロ全体にとって脅威なのよ」と建前論で答える。


「どうせ恩を売って交換条件で色々せしめるとか?」とエンリ。

ニケが横から「だったら、その利益は報酬として私たちのものよね?」

イザベラは「それは働き次第かしら」

「とか言って、絶対後ですっ呆けるよね」と疑問顔のタルタ。

「私はあなた達に出資してるパトロンよ」とイザベラ。

アーサーは「それに、黒海沿岸を記した秘宝の片割れも、あのあたりですし」


「けど大丈夫なんだよね? 吸血鬼って・・・」とタルタ。

「血を吸われるとか?」とイザベラ。

タルタは「ニンニク料理なんて出ないよね? 俺、好物なんだが」

ジロキチが「それ以前に普通の食事は出るの? ディナーがコップに人間に生き血とかじゃないよね?」

カルロが「襲われるのは女性の、しかも処女だから。ニケさんは・・・」

「それセクハラだから」とニケが口を尖らす。


アーサーは頭痛顔で言った。

「ってかそういうの迷信ですよ。そもそも奴等は普通に食事するよ。血液は食事というより魔力源」

「十字架と日光に弱いってのは?」とジロキチ。

「肌は日焼けに弱いらしいけど、十字架に関しては異教徒狩りの奴等のデマだよ。そもそもルーマニア王から与えられた伯爵号で、臣従の儀式は唯一神の信者だって事が前提だよ」とアーサー。



イタリアで上陸して馬車に乗り変え、山脈を越えてドイツに入り、東へ。

ルーマニアの東には黒海があるが、そこに入るにはオッタマの首都に面した海峡を通る必要がある。



暗い森を抜ける。


周囲の様子を馬車の中から眺めながら、ニケが「モンスターとか出そう」

「城下もこんな感じかな?」とジロキチ。

タルタが「薄暗くて陰鬱で蝙蝠とかいっぱい飛んでて」

「いかにも、これから魔王の城に・・・って」とカルロ。


「相手は強大な魔力で魔王様とか呼ばれてる人ですからね」とアーサー。

ファフが「ちょっと怖い」

「ドラゴンが言う台詞じゃないと思うが」とエンリ王子。



森を吹けると、高い城壁があちこちにある。

エンリが「オッタマの侵入を拒む城塞だよ」

「いかめしい軍事都市なんだろうな」とタルタ。

「息が詰まりそう」とニケ。



市街地に入る。わいわいやっている住民たち

そんな街の様子を見て、エンリが「意外と活気があるじゃん」

「陰鬱でも、いかめしくも無いですね」とリラ。

タルタが「誰だよ、あんな事言ったの」

「お前だろ」とジロキチがあきれ顔。


あちこちに大道芸人が居る。音楽をやっている人達。踊りを見せている人達。

そんな芸人たちを見てアーサーが「ロマ人だな」

「どんな人たちなんですか?」とリラ。

「東から移住した芸能民族だよ」とエンリ。

ニケが「ところでカルロはどうしたの?」


いつの間にか馬車からカルロの姿が消えている。

踊っているロマ人女性たちの前の人だかりの中に、カルロが居た。

かぶりつき状態で「お姉さん、最高」と叫ぶカルロの後頭部をハリセンで思い切り叩くニケ。

そしてカルロの首根っこを掴んで「こいつ、どうにかしてよ」と言って馬車の所に引っ張って行く。



ドラキュラ城に入り、ブラド伯爵と面会。


左右斜め上方に角のように突き出た髪型とカイゼル髭の伯爵を見て、タルタとジロキチは思わず叫んだ。

「サリーちゃんのパパだ」

エンリがあきれ顔で「違うだろ。あれは吸血鬼キャラのテンプレだ」

するとブラド伯が「私の娘を知っているのかね?」


本当にサリーちゃんのパパだった。



「紹介するよ。私の子供たち、サリーとカブだ」

そう言うブラド伯の脇に、10歳ほどの女の子と、8歳ほどの男の子。


女の子が「サリーと申します」

男の子が「おいら、カブっす」

サリー姫、いきなり弟のカブ公子に拳骨。

そして「敬語を使いなさい!」



その夜 晩餐に招かれた。


グラスに注がれる赤い液体。

「これ、血液じゃないですよね?」とアーサー。

ブラド伯は「常人の客にそれは出しません。赤ワインは我が国の特産ですので。ポルタのワインもブランドですよね?」

エンリもその話題に乗って「ギリシャやイタリアのものとは一味違いますよ」


給仕が伯爵のグラスに赤い液体を注ぐ。給仕の元にはいくつかの小瓶。

伯爵、グラスの液体を一口飲んで、言った。

「16歳、髪はブロンド。バスト85ウェスト55ヒップ75」

給仕は「さすがです。旦那様」

「若すぎもせず大人にも達しない微妙な年頃。僅かな乳の風味はその年頃にしては成長していると見た」とブラド伯。


給仕は次の小瓶から赤い液体を注ぐ。

伯爵はグラスの液体を一口飲んで「14歳黒髪でバスト72ウェスト43ヒップ60。細身で未成熟な青い果実といった所か」

給仕は「さすがです旦那様」

「やはり血は女性の、しかも処女のものに限る」とブラド伯。


あきれ顔のサリー姫、ドン引き状態の女性陣。困り顔のエンリとアーサー。

一人、ノリノリでカルロは言った。

「伯爵様は巨乳と微乳のどちらがお好みですか?」

伯爵もノリノリで「物事には一長一短というものがあるのでな」

カブ公子もノリノリで「ですが父上、大は小を兼ねると申します」


サリー姫、弟のカブに拳骨。

そして「子供がそういう話に首を突っ込むものではありません!」


エンリは「ところでその血液って・・・」

「領民からの血税です」とブラド伯。

「税ですか?」

そう言う怪訝顔のエンリにブラドは「健康に害が無い程度に採血するだけなんですけどね」



次の日、ファフが部屋を出て城の廊下を歩いていると、カブ公子が話しかけた。

「ファフちゃんだったね」

「こんにちは、カブ君」

そう挨拶するファフに、カブは「大人の中に子供一人って、つまんなくない?」

「主様、優しいよ」とファフ。

カブは「子供どうしで遊ぶの、楽しいぞ。仲間が居るんだけど、来ない? 紹介するよ」


案内されて行った所は食糧庫。女の子二人に男の子三人が待っていた。

それぞれ自己紹介。

「私はよし子」

「私はすみれよ」

よし子と名乗る女の子が「こっちの三人は私の弟たち」

「よろしくね、ファフちゃん」と三人の男の子。

カブは「じゃ、ファフちゃんの歓迎パーティだ」と言って気勢を上げた。


積まれている木箱を開ける。中には、ハムにソーセージにチーズに果物。

ファフは怪訝顔で「これって、つまみ食いじゃ・・・」

「悪戯みたいで楽しいだろ? 俺たちの流儀さ」と楽しそうに笑うカブ公子。


子供七人でわいわいやる。

楽しそうなファフを横目にカブはニヤリと笑って呟いた。

「そろそろかな」



その時、入口がガラリと「カブ、何をしているの!」

入口には仁王立ちのサリー姫。

五人の子供はいつの間にか姿を消し、代わりに五匹のネズミがチーズを齧っている。


カブは焦り顔でサリー姫に弁解。

「お姉ちゃん、これはね、この子と友達になりたいというか・・・別に途中で抜け出してメイド長に密告して叱られるのを高みの見物とか、そういう事考えてないから」

「私、何も言ってないけど」と怖い顔のサリー姫。

ファフ唖然。


カブはぐるぐる巻きに縛られてお城の窓に吊るされた。

サリー姫はその窓から「今晩はご飯抜きだからね」と言い渡す。

カブはジタバタしながら「お姉ちゃん、ごめんなさい」



翌日、カブはお城の廊下に居るニケに話しかけた。

「森にお金のなる樹があるんだけど、教えてあげようか」


カブはニケを案内して森の奥へ。

一本の木の枝にびっしりと金貨が実っていた。

ニケはうっとりして「これって夢なの?」

「この国は元々古代ローマ人の植民地だったって知ってるよね? そこに居た錬金術師が育てたんだよ。賢者の木って言ってね」とカブ。

「カブ君最高」

そう言って思わずニケはカブ公子を抱きしめると、金貨をしこたま収穫して大喜び。


お城の客間の奥の浴室に行き、金貨のお風呂に浸かる。

そして「この感触最高。夢だったのよね」


金貨に浸かりながらうとうとするニケ。目を覚ますとバスタブの中は金貨の代わりに木の葉で埋まっていた。

ニケ唖然。

「この葉って触ると痒くなる奴じゃない!」

すぐにニケは体中に痒みを感じてバスタブから飛び出した。



城内でカブ公子がカルロに話しかける。

「お兄さんってスパイなんだよね? ロンドンでもパリでも大活躍だって、評判だよ」

「まぁそれほどでもあるけどね」

そう言って調子に乗るカルロにカブは「ロマの踊り子のお姉さんたちの中にもファンクラブがあってね、紹介してくれって頼まれたんだ」


カルロが案内された城外の小さな小屋。五人の美女が待っていた。

「じゃ、ごゆっくり」と言ってカブは立ち去る。

カルロは彼女たちに誘われて情熱的な夜を・・・。


カルロが目を覚ますと、そこには五人の老婆が・・・。

「やっばり若い男はええのう」

「若返りますわい。有難や」

そう口々に言う老婆たちを見てカルロ唖然。そして彼は真っ白に燃え尽きた。



そして・・・。

カブはぐるぐる巻きに縛られてお城の窓に吊るされた。

サリー姫はその窓から「今晩はご飯抜きだからね」と言い渡す。

カブはジタバタしながら「お姉ちゃん、ごめんなさい」


そんなカブ公子を見上げて好き勝手話すエンリ王子たち。

「ちょっと可哀想ですね」とリラ。

「同情の余地無し!」とニケとカルロが口を揃える。

「けど、これって児童虐待ってやつなんじゃ・・・」とアーサー。

「まぁ、ギャグキャラだし」とタルタ。

「けど、あの金貨とか婆さんとかネズミのお友達とか・・・」とエンリ。

アーサーは「全部、ただの幻覚魔法だよ」

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