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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第108話 濃霧の戦場

二度目の銀船隊でドレイクの私掠船を出し抜き、リマで銀を受け取ったエンリ王子の船は、西方大陸南端でドレイクの待ち伏せを受ける。

エンリたちはその戦いで、ファフはクラーケンの毒により戦闘不能となり、船には大穴を開けられた。氷魔法で船の穴を塞ぎつつ、彼等は手近なガレゴスの港に入った。



港を目前に、アーサーはエンリに「奴等、追って来ますよね?」

エンリは「警戒は必要だ。とにかく船を修理しないとどうにもならん」


入港すると、万一に備えて積荷のコンテナを倉庫に預け、街の船大工を集めて、突貫工事で船側の穴を塞ぐ作業開始。

その間に、街の医者にファフの診察を依頼した。


だが、何人もの医者がファフを見て頭を抱えた。

彼らは口々に言う。

「ドラゴンに関しては我々も知識が乏しく、クラーケンも珍しいですから」

「その毒というのも・・・。呪いなら呪医に見せたほうが良いかと。海の魔物の毒は厄介ですからね」


「アーサー、どんな呪いか、解るか」と難しい顔のエンリ。

「呪いは大抵闇系ですけど、深海の闇は密度が濃いんです。それと水の要素が絡み合うんで、並みの魔導士では・・・」とアーサー。

エンリの脳裏にある人物が浮かぶ。

そして彼は指示した。

「とにかくポーションを出来るだけ買っておけ。それで当面体力を保たせるしか無い。船の修理が終わり次第出発するぞ。それと、足がつかないよう入港はなるべく避けた方がいいから、補給はなるべく済ませておけ」



船は応急処置を終えて出港する。間もなく霧が立ち込め、急速に濃くなって視界を遮る。

そんな海上の霧を見て、エンリは「アーサー、この霧って・・・」

「ドレイクの部下の魔導士の仕業ですね。霧に紛れて接舷して乗り込む気です」とアーサー。


エンリは号令した。

「とにかく船を動かせ。それと白兵戦の用意だ。アーサーはマストの展望台から魔法攻撃。ニケさんも接舷されたらそっちに回ってくれ」

「王子様、私は?」

そう問うリラにエンリは「リラはいざとなったら人魚になって海に逃げろ」

リラは必死な表情で「私も戦います。そのために水魔法を習ったんです」



その時、アーサーが見張り台で叫んだ。

「左舷方向からドレイク号来ます」

船と船がぶつかる衝撃とともに乗り込むドレイクと部下たち。


ニケの短銃がドレイクを銃撃するが、鋼のような筋肉の分厚い壁がそれを阻む。

「何なのよこいつ」とニケ唖然。

ニケは部下たちを銃撃するが、刀を振るって弾き返す部下たち。

「ジロキチ並みの剣士揃いかよ」とエンリ唖然。


ジロキチとカルロが立ち塞がる。四本の刀を振るうジロキチと、海賊の刃をかわしつつナイフを振るうカルロ。

だが海賊たちは互角に渡り合い、囲まれたジロキチとカルロは背中を預け合って防戦一方。


アーサーは大量のスケルトンを召喚した。赤子のように薙ぎ倒されるスケルトンたち。

召喚を続けるアーサーと海賊たちの消耗戦だ。

ニケは氷の魔弾で海賊たちを必死に足止め。



タルタはドレイクの前に立つ。

「俺相手に素手で来るか?」と不敵な笑みを浮かべるドレイク。

タルタは拳を握りしめて「俺の得物はこの鋼鉄の体さ」


ドレイクが斧を振り下ろし、鉄化した体がそれを受け止める。

さらに二撃目を打ち込もうと斧を振り上げた瞬間、タルタは鉄化を解いた瞬発力でドレイクの腹にパンチを一撃。

だがドレイクはニヤリと笑って「効かぬな」


タルタは高速で斧を打ち込むドレイクに、鉄化と解除を繰り返しながら攻撃を試みる。

鉄化解除の際に発生する瞬発力による素早さで、敵の刃先を外しながら一撃を撃ち込もうと試みる。

だがドレイクの撃ち込む高速で重い刃を、外しきれずに傷を重ねるタルタ。

次第についていけなくなり、鉄化解除のタイミングを失って防戦一方に。

「どうした。固まったままでは、らちが明かないぞ」

そう挑発するドレイクに、タルタは「だったら」・・・。


一旦距離をとったタルタは「鋼鉄の砲弾」と叫び、ドレイクに向けて跳躍して鉄化。

そのタルタの必殺技をドレイクは両手で受け止めた。

「まさか」

そう呟くタルタにドレイクは「俺を誰だと思ってる」


鉄化したタルタを右手で掴んで放り投げようとしたドレイクを、タルタは瞬間、鉄化を解いて渾身の力で顎を蹴り上げようと・・・。

その時ドレイクの左手がタルタの腹を一撃。タルタは気を失い、海に放り込まれた。



炎の魔剣を持つエンリの前に、一兵卒となったローリーが大剣を持って立ち塞がる。

そして「普通の武器相手は飽きてた所だ。魔剣とやら、お相手願えますかな」

「いいでしょう」とエンリ。


炎の魔剣の熱気を物ともせず、大剣を打ち込むローリー。

技量も腕力も上のローリーを相手に、エンリは押された。

リラはエンリの背後で氷の矢を連射して援護するが、ローリーは右手で大剣を振るい、左手の短剣で氷の矢を余裕で弾き返した


「リラ、海に飛び込め」

そう叫ぶエンリにリラは「でも・・・」

「お前は人魚だ。人魚のホームグランドは海中だ」とエンリは叫ぶ。

リラは「そこで私は何を」

「それは海の中で考えればいい」

そうエンリに言われ、リラは人魚となって海へ飛び込む。



ローリーの力技に圧されるエンリは戦いながら思考を巡らす。

(こんな剣、炎で焼き切れたら。熱量が足りないのか? どうすれば)

そしてエンリはアーサーのその言葉を思い出した。

「もっと強くイメージするんです」


エンリは念じた。(俺は炎。灼熱の炎)

エンリの脳裏の中の炎が、何もかも焼き尽くす。自分も、そして周囲の空間ごと・・・。

やがて、彼が振るう炎の魔剣が熱を増した。熱気が周囲を圧し、空気が沸騰する。

その熱気にローリーはたじろいだ。(何だこれは)


白熱する炎の放つ光が周囲を覆うとともに、エンリは、それを振るう自分の腕に力が漲るのを感じた。

次第にローリーの大剣を押し返す。

そしてエンリの口がひとりでに言葉を発した。

「我、我が炎の剣とひとつながりの宇宙なり。灼熱あれ!」

その言葉とともに振り下ろした炎の魔剣は、ローリーの大剣を焼き切った。



その時、水面が咆哮を上げて巨大な山と盛り上がり、水でできた巨大なドラゴンが頭をもたげた。

ドラゴンの頭上には人魚の姿のリラ。気を失ったタルタを両手に抱え、彼女は叫んだ。

「ウォータードラゴン。大好きなみんなを守って!」

高密度の水で作られたドラゴンの体がドレイクと部下たちをなぎ倒し、海に放り込んだ。

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