第107話 潜行の銀船隊
出産間近いイザベラのお産に付き合う目的でスパニアに来ていたエンリ王子は、イザベラとその腹心の航海長官に、西方大陸で採掘された銀をドレイク海賊団の私掠船から守って輸送する銀船隊を任され、見事にドレイクを出し抜いて輸送を完遂した。
そして、二度目の銀船隊を任されたエンリ王子たち。
西方大陸へ向かう船上でエンリたちは作戦会議。
タルタが「またパナマでドラゴン使って輸送する?」
「同じ手は通用しないと思うぞ」
そう言うエンリにタルタは「そうなの?」
ジロキチはあきれ顔で「人間には学習能力ってものがあるんだよ。お前はどうか知らんが」
「お前ら俺を馬鹿だと思ってるだろ」とタルタは言って口を尖らす。
「ともかく、今回は大陸南端ルートをとるしか無いだろうね」とエンリ。
するとニケが「奴等もそう踏んでると思う」
「けど、奴等は艦隊ではポルタの植民都市の港には入れて貰えない。艦隊の動きは制限されるよ」とアーサー。
「けどドレイク号一隻でも十分強いからな」とタルタ。
エンリは言った。
「問題はそれだよ。港に立ち寄ると、情報が洩れて足取りを掴まれる。だから、港での補給抜きで行く」
仲間たちは不満げな声で「水や食料はどーするんだよ」
その頃ドレイク艦隊もまた洋上に居た。
旗艦のドレイク号で、部下たちと作戦会議中のドレイク提督。
「要するに艦隊でなければ港に入れる訳さ。艦隊は洋上で待機させる」とドレイクは部下たちに・・・。
一人の部下が「けど、あまり南には行けませんよね」
「ドレイク号が単独で行動し、奴等を追う」とドレイク。
「あんなに味方の船が居るのに?」
そう別の部下が言うと、ドレイクは「艦隊は切り札さ。俺たちは海賊だ。海賊は本来群れずに行動するものだ。それに単独なら正体を隠して行動すれば、オケアノスにだって入れる」
ローリーが「正体を隠すんですか?」
ドレイクは言った。
「海賊の本領は奇襲して相手の船に乗り込む事さ」
西方大陸南端手前のガレゴスの港に入るドレイク号。正体が割れないよう変装して街を歩くドレイクと部下たち。
周囲の人たちの視線に気付いた一人の部下が「何だか目立ってませんか?」
「ドレイク海賊団だとバレたのかな?」と別の部下。
「普通に目立つと思います。だってピエロって目立つための服装ですよ」
更に別の部下にそう指摘され、ピエロ服姿のドレイクは困り顔。
「やっぱり普通の恰好で良かったんじゃ・・・」と部下の一人が言う。
ドレイクは「それじゃ変装にならんだろーが」
「それは変装じゃなくて仮装では?」と別の部下。
ドレイクは一人の部下に「それに普通の恰好って言うけど、タキシードはともかくマントとその頭は何だよ。サリーちゃんパパじゃないんだから」
指摘された部下は「バンパイアキャラってこんなのですよね?」
「いや、ハロウィンじゃないんだから」とドレイク。
別の部下は「目立たないようにってんなら、やっぱり黒づくめだよね」
その部下にドレイクは「魔女帽子にマントはハロゥインだろ」
更に別の部下は「潜入用の服装ならジパングの忍者かと」
ドレイクは溜息をつくと「あのなぁ・・・。ところでローリーのそれは何だ?」
「仮装といえばやっぱりサンタかと」
そう事も無げに言うローリーにドレイクは「だから仮装じゃなくて変装。ってか何だよその気持ち悪いサンタは。オカマかお前は」
赤い毛皮のブラにミニスカのマッチョなオッサンに周囲の人たちはドン引き。
「南方仕様のサンタはこんなのだと聞きましたが。サンタコスって言うんですよね?」とローリー。
ドレイクはあきれ顔で「着替えてこい」
ドレイクたちは艦隊をギニア沖の洋上に待機させ、他の港に居る手下からの報告を待った。
だが、エンリたちが入港したとの報告は来なかった。
その間、エンリたちは植民都市の港を避けて、森や河川のある沿岸でボートを使って水と燃料を補給し、魚を食料として航海を続けた。
オケアノスの海に入り、リマの港で荷物である大量の銀を収納したという大きな木造コンテナを受け取った。
その頃ドレイクは焦っていた。
「奴等が大陸南端ルートを通るのは間違いない。港の奴等からの報告が何で来ない?」
その時、通信魔道具から情報を受け取っていた部下が、慌て顔で報告。
「提督、報告が。奴等がリマで銀のコンテナを受け取ったと」
「何ですとー」ドレイク提督唖然。
しばし思考を巡らせると、ドレイクは言った。
「あいつ等、港をスルーしやがった」
「けど、どうやって?」
そう口を揃える部下たちにドレイクは「考えてもみろ。奴等は自力で航路を開いた時、植民都市の港なんて無かったんだ」
部下の一人が「どうしますか?」
「大陸の南端を通る時が勝負だ。今までの借りをまとめて返してやる」とドレイク。
「艦隊抜きで?」
そう問う部下に、ドレイクは言った。
「俺たちは何だ? 世界最強のドレイク海賊団だ」
エンリたちの船が大陸南端に差し掛かる。
その時、島影から現れたドレイク号。
砲撃戦が始り、ドレイク号のいくつもの大砲から飛来する砲弾がエンリたちの船の周囲に水柱を上げる。
命中コースの弾をアーサーの防御魔法で防ぐ。ニケの大砲も負けずに火を噴く。
だが真っ直ぐドレイク号に向かった砲弾を、ドレイクは大斧を振るって弾き返した。
ジロキチが望遠鏡でそれを見て「あんなのアリかよ」
エンリが「お前が鉄砲相手にやってる事だ」
そしてエンリは号令。
「ファフ、ドラゴンで一発かませるか」
「了解」
そう答えてファフがドラゴンに変身して飛び立とうとした時、エンリの船の目の前の海面に巨大な触手が屹立した。
「クラーケンよ」とニケが叫ぶ。
「提督の使い魔かよ」とアーサー。
「あいつを先に片付けちゃうね」
そう言ってファフのドラゴンは、海に入ってクラーケンと格闘する。何本もの触手がドラゴンに絡みつく。
ドラゴンは触手を嚙みちぎり、爪を立てるが、何しろ触手の数が多い。
その様子を見てタルタが「あいつ苦戦してるぞ」
「待ってろ、ファフ」
そう言ってエンリはアーサーの風魔法に乗って、海面で苦闘するドラゴンの頭上に飛び乗り、炎の魔剣でクラーケンの触手を切断にかかる。
翼が自由になったファフは空中に飛び上がり、何本もの触手を失ったクラーケンは撤退した。
ファフは甲板で人間の姿に戻ると、辛そうな表情でその場に座り込んだ。
「主様、気分が悪い。あちこち痛いよ」
「触手の毒にやられたのよ」
そう言ってファフに解毒剤を飲ませるニケだが・・・。
「効きがよくないわね」
アーサーが魔法でファフを診断し「この毒、呪いがかかってますよ」
「どうにかならんか」と難しい表情のエンリ・・・。
そんな中で、ドレイク号は真っ直ぐこちらに突っ込んで来る。
敵船を監視していたカルロが「接舷して乗り移る気だ」と叫んだ。
だが、近くまで迫った所で突然停止。見ると周囲の海面が凍っている。
「アーサーの魔法か?」
そう問うエンリにアーサーは「違いますよ」
「リラか?」
そう問うエンリにリラも「私じゃありません」
アーサーが望遠鏡でドレイク号を見ると、舳先で魔導士が氷魔法を使っている。
そして「あいつら自分で自分の船を氷漬けにしたんです」
ドレイク号の周囲の氷が真っ直ぐこちらへ伸びて、エンリたちの船へと続く細長い海面が氷結して氷の橋になる。
その上を走るドレイクと部下たち。
「乗り込んで積荷を奪う気だ」とアーサー。
エンリは「返り討ちにしてやる」
甲板で身構える仲間たち。そしてエンリはタルタに言った。
「タルタは船倉を守ってくれ。最後の砦だ」
「了解」
アーサーがシルフブレードを放ち、リラがウォーターランスを繰り出す。そしてエンリが炎の巨人剣を振るった。
だが、いずれも防御魔法で防がれ、船の脇に辿り着いたドレイクは、大斧を振るって船側に大穴を開けた。
「ここから中に入って積荷を頂くぞ」と部下たちに号令するドレイク。
「させるか」
そう叫んだのは、大穴の向うで立ち塞がるタルタ。
ドレイクが振り下ろす大斧をタルタの鋼鉄の体が受け止めた瞬間、アーサーが放ったヒートランスが氷の橋を貫いた。
激しい水蒸気爆発とともに氷の橋は砕けて、ドレイクと部下たちは海に投げ出される。
エンリは「今だ。撤退するぞ」と仲間たちに号令。
ファイヤーボールを放って追撃を防ぎながら戦場を離れるエンリたちの船。
ドレイクが空けた大穴はリラの魔法が氷で塞いだ。
 




