第106話 大海賊と挑戦者
ポトシ銀山は西方大陸で発見された鉱山で、良質な鉱石と莫大な埋蔵量を誇り、そこから掘り出された大量の銀がスパニアの資金源としてユーロに持ち込まれ、スパニア帝国を支えていた。
エンリ王子の策で海外との取引に使われるようになって、ユーロへの持ち込みは減ったものの、なお財政資金としての持ち込みは続いていた。
鉱山は西方大陸西側の山中にあり、大陸西岸つまりオケアノスの海に面したリマの港から、銀は積み出される。
エンリ王子たちタルタ海賊団は銀船隊を依頼され、その積荷の銀のスパニアまでの輸送を任された。
その輸送ルートは大きく二つ。
西方大陸の南端を迂回するか、もしくは別の船でパナマ西岸まで運んで、陸路に積み替えて東岸のパナマ植民市まで運び、そこで再び船に積んでスパニアに向かうか・・・である。
パナマその他の植民市の港を開いたのは、実質、交易で活躍するポルタ商人たちである。
イギリス船も入港できるが、艦隊となると侵略防止の観点からも受け入れは困難となる。
エンリたちは西方大陸へ向かう船上で作戦会議。
エンリが状況を説明し、めいめいが意見を言う。
「艦隊では植民市の港に入れないって事は、つまりドレイク艦隊の行動範囲が限られるって事だよね」とアーサー。
「だったら南端迂回でいいじゃん」とタルタ。
するとニケが「けど、向うもそれを読んでるから、裏をかいてパナマルートで・・・ってのもアリじゃないかしら」
エンリ王子たちの積荷を追うドレイク艦隊は、大海賊ドレイクとその部下たちの乗る海賊船ドレイク号を旗艦に、傘下に加わった多数の海賊船を率いる。
洋上のドレイク号でドレイク提督が部下たちと作戦会議。
ドレイクが言った。
「確かに西方大陸の港はポルタが握ってる。けど、息のかかった海賊からの情報は随時入って来る」
するとドレイクの部下の一人が「パナマは西方大陸の真ん中ですからね。そこより南のギアナとかアマゾナの港に入ったと解れば、そこから南下して大陸南端を迂回すると予測がつきます」
その時、通話の魔道具でドレイク号に知らせが届いた。
対応したドレイクの部下が「奴等、ギアナの港に立ち寄ったそうです」
「とすると、南端迂回ルート決定だな」と部下の一人。
別の部下が「ギアナの南へ先回りして奴等の船を発見・追跡しましょう」
だが、ドレイクは言った。
「ちょっと待て。奴等、ギアナでは補給はしたのか?」
通話に対応した部下は「大したものは積まなかったようですが」
「南端を迂回するには長距離を航行するから、相当な補給が必要だ」とドレイクは言って、しばらく考える。
そしてドレイクは「西岸を北上する船はあるか?」
そして部下の一人が魔導士に「カモメの使い魔の巣があっただろ」
魔導士は使い魔長距離遠隔操作の魔道具を操作する。
そして「北上する船、ありました」
それを聞いてドレイクは「パナマの西岸でそいつを受け取って陸上を運ぶ気だ」
「どうしますか?」と部下の一人。
「上陸して港に着く前に陸上で奪う」とドレイク。
「船団の奴等はどうしますか?」と別の部下の一人。
「数十隻の艦隊は目立つ。陸上で待ち伏せするなら気付かれたくないよね?」と言ったのは、ロンドンでの事件以来、一兵卒となっていたローリーだ。
ドレイクは言った。
「離れた洋上で待機させよう。もし荷物の奪取に失敗したら、奴等が待ち伏せて囲んで袋叩きだ」
ドレイクの船がパナマの港に入港した。
既にエンリたちの船が停泊している。
それを見てドレイクは「やはりな。上陸して輸送路の途中で待ち伏せよう」
大陸が狭くなった所を横断するルート。西岸の港を少し行くと東岸だ。
その中間の湖のほとりで、ドレイクたちはエンリたちの積荷輸送を待ち伏せた。
暫くすると、上空に大きな木製のコンテナを前足で抱えたドラゴンが東へ向けて飛んで行くのが見えた。
ドレイク海賊団唖然。
そして「奴等、ドラゴンを持ってたんだっけ」
急いで港に戻ると、停泊していたドレイク号が焼かれていた。
ドレイク海賊団唖然。
「とにかく沖合に居る仲間の海賊船と連絡だ」とドレイク提督。
部下の一人が「港に居る他の船を借りた方が早くないですか?」
「他の船、居ないですけど」とローリーが言った。
ドレイクたちは、港の人を捕まえて事情を尋ねた。
港に居た一般人曰く。
「エンリ王子がもうすぐここで戦闘になるから、巻き添え喰いたく無かったら船を港の外に退避させろと・・・。
ドレイク海賊団唖然。
通話の魔道具で仲間の船団と連絡をとる。
通話に出た船団の仲間は「それが・・・」
時間は少し遡る。
エンリ王子たちの船がパナマに入港して間もなく、西岸で北上してきたスパニア側の船から連絡があった。
落ち合う場所を確認し、アーサーとジロキチがファフのドラゴンに乗って受け取りに向かう。
西岸に着き、スパニア船の前に降り立つドラゴン。アーサーが向うの船に乗り移って書類にサイン。
大型の木製コンテナを見てジロキチが呟く。
「これが荷物か。デカいな。この中に銀の延べ棒がぎっしりって訳か」
「それじゃファフ、輸送開始」とアーサーが号令。
ファフが前足でコンテナを抱え、二人を乗せて飛び立った。
その頃パナマの港では、ドレイク海賊団がエンリたちの船を横目に上陸して待ち伏せ地点に向かう様子を、船の窓から息を殺して眺めるエンリ王子と仲間たちが居た。
「予想した通りだったね」とタルタ。
エンリ王子が「ファフが戻って荷物を積んだら、すぐ出航だ」
するとニケが「その前にあの船、焼いちゃわない? 時間稼ぎになるわよ」
カルロが「港の他の船を奪うだけだと思うけど」
「だったら退避勧告ね」とニケ。
まもなくファフが戻ると、港の人たちに船を港外に退避させるよう伝え、ドレイクの船を焼いて出航。
沖に向かいながらジロキチが言った。
「ドレイク海賊団が一隻って事は無いよね?」
「配下に従えた海賊グループの船が相当数居る筈だ」とエンリ王子。
「強いのか?」とジロキチ。
「提督が指揮して艦隊戦になれば。けど今は烏合の衆だ」とタルタ。
するとニケが「鬼の居ぬ間にお掃除しちゃう?」
「賛成」と仲間たち。
行く手にドレイク配下の数十隻の海賊船隊が密集体形で待ち構えている。
エンリの船を発見して砲撃して来る敵艦隊。
船を飛び立つファフの背中にエンリ王子とアーサー、そしてリラ。
艦隊に近付くと人魚になったリラが爆雷を背負って海中へ。海賊船の底を次々爆破。
アーサーは防御魔法で砲弾を防ぎ、アァフの炎とエンリの巨人剣で敵船を次々に仕留めた。
エンリの船からはニケが大砲で敵船を狙い、タルタが鋼鉄の砲弾で敵船から敵船へと飛び移りつつ撃破。
舵を任されたジロキチとカルロ。
ジロキチが「こういう艦隊戦の時って、俺たち出番、無いのな」
「肉弾戦要員だからね。けど海賊の本領は乗り移っての肉弾戦だよ」とカルロは言った。
海上の海賊船団が一掃された頃、救命ボートの上に居る彼等の元に、ドレイクからの連絡。
対応して通話に出たボートの上の海賊兵は残念な声で「それが・・・奴等の船の襲撃を受けて全滅しました」
ドレイク唖然。
そして「相手はたった一隻だぞ」
「ドラゴンが居るなんて反則ですよ」とボートの上の海賊兵。
溜息をつくドレイクに部下の一人は言った。
「俺たち、どうやって帰りますか?」
ドレイクは困り顔で「本国から救援、呼ぼうか」
エンリたちは、そのままスパニアに帰還して荷物のコンテナを持ち帰った。
「ドレイク海賊団敗れる」の報にスパニアの港はお祭り騒ぎ。
モテまくるタルタとジロキチ。風俗店で大歓迎されるカルロ。
ニケは話盛りまくりの「戦場レポート」なる薄い本を売りさばく。
スパニア王宮でエンリたちを労ってイザベラは言った。
「大戦果だったわね」
エンリは困り顔で「こんな事やりに来たんじゃないんだが」
「けど、今や王子は国民的ヒーローよ」とイザベラ。
そして航海長官が「それで、次もお願いしたいんですが」
「まだやるのかよ」とエンリ唖然。
イザベラは「それで当面の財政は確保できるわ」
「けどなぁ」と、うんざり顔のエンリ。
その時、タルタが寂しそうな顔でエンリに言った。
「なあ、王子」
「どうした?」
そう返すエンリにタルタは言った。
「俺たち、ドレイク提督と正面からやり合ってないよね?」
エンリはあきれ声で「そういうスポーツ感覚は要らないから」
「けどなぁ」とタルタは口ごもる。




