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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第105話 帝国の宮廷

妊娠したイザベラの出産予定時期が近づく。

さすがのエンリ王子も、我が子の誕生を前に冒険の旅という訳にもいかず、イザベラのお産に付き合うため、仲間たちと、そしてイザベラとともに、馬車でスパニアの首都へ向かった。


先ず、死んだイザベラの母と、同じ母から生まれた兄の墓参り。

馬車の中でエンリはイザベラに「君にそんな肉親に対する感情があるとは意外だな」

「母の実家と兄の家来は貴重な戦力よ。それと国教会の首長として、たまにはちゃんと顔を出して貰わなきゃ」とイザベラ。

エンリは困り顔で「俺、そういうのは好きじやないんだが」

イザベラは意地悪そうな笑顔で「ポルタ王家の借金の借り換えで利息を十年一分にした時、何て言ってましたっけ?」



スパニア国教会の拠点は、首都を南方に行った所にある、トレド大聖堂。

馬車は聖堂近くの墓地に向かう。


馬車を降りて少し歩き、そこに並ぶ墓の一つを見て、エンリは「このデカい墓石は?」

「父上よ」とイザベラ。

「先代の墓にも墓参りするのか?」とエンリ。


「後継者だものね」とイザベラは言いながら、それには目もくれず、その傍らの小さな墓に手を合わせた。

その墓を見てエンリは「これが君の母親の?」

アーサーは「大勢側室が居ても、墓はちゃんと旦那の墓の脇にあるんですね」

「母様、愛されてたから」とイザベラ。

「人柄とか、愛されキャラだったんだね?」

そう言うエンリにイザベラは「そうよ。側室になったのは一番最後で一番若かったですから。女は若さが全てよ」

エンリはがっかり顔で「聞くんじゃ無かった」


そしてイザベラは言った。

「けど、その分、他の義母様たちから疎まれて、あの人達に殺されたようなものだわ」

「まさか女帝になった後、仕返しとか」とタルタ。

「全員修道院送りにしてやったわ。夫を失った未亡人ですもの、当然よね」とイザベラ。

仲間たち全員、溜息をついて「いいのかなぁ」と呟く。



母親の墓の隣の墓に手を合わせるイザベラ。

それを見てエンリは「これがその母親が産んだ兄貴か」

「アントニオ兄様よ。王太子のルチアーノ兄様と一緒に暗殺されたの。王太子を狙う刺客と闘って死んだそうよ」

「第一皇子とは、仲良かったの?」とリラ。

「母様が孤立していた分、他に頼る人が居なかったからね」とイザベラ。

エンリは溜息をついて「君も凄い所で育ったんだな。しかも孤立状態で」


イザベラは言った。

「だからいいのよ。下手な後ろ盾とか居たら優遇しなきゃいけないでしょ? 女帝の権力を嵩に着る黒幕なんて百害あって一利無しよ」

「ちゃんと考えてるんだな」

そう言うエンリにイザベラは「当然でしょ。実力でこの地位を得た以上、一人で好き勝手するのは当然の権利だわ。ほーっほっほっほ」

仲間たち全員、溜息をついて「実力とか言っても、闘ったのは俺たちなんだが・・・」と呟く。



大聖堂に入り、総大主教になっているマルコ皇子と会う。

「教皇庁からの圧力とか、大丈夫ですか?」

そう心配そうに聞くエンリに、マルコは「イギリスの騒ぎでかなり楽になりました」


「国内にもまだ教皇派って居るんですよね?」とエンリ。

「改宗も随分進みましたけどね。ここは元々イベリア教会の本山で、レコンキスタを戦う中でユーロから援助を受けるために教皇庁の配下に入ったけれども、独自の伝統はあるのですよ。ただ、あのレコンキスタ自体、この地を占領した異教徒と戦う宗教戦争みたいなものでしたから、頑固な教皇派は居ますね」とマルコ。


そんな世間話をしながら、エンリは窓の外を見て、隣にある建物に気付く。

そして「ところで、隣の施設は?」

「修道院ですよ」

そう答えるマルコに、エンリは「修道院って普通、山の中とかにあるのでは?」

「国教会の教義として改まったおかけで、随分緩くなりましたから」とマルコは答えた。



マルコ総大主教の案内で修道院を視察に行くエンリとイザベラ。

仲間たちも同行する。


施設の敷地に入ると、いかにも貴婦人といった雰囲気の修道女たちが何人も居た。

使用人らしき男性が何人も居る。みんなイケメンだ。

修道女の一人が彼らの一行に気付いて「あら、イザベラ陛下。こちらの御立派な殿方は?」

イザベラは「夫のエンリです」と・・・。


エンリは彼女たちを見て、イザベラに「誰?」

「義母様たちよ」

そう言われ、とりあえず先代の側室たちに挨拶するエンリ王子。


その場を離れると、ジロキチが「随分羽を伸ばしているみたいなんだが」

「スパニア国教会は恋愛自由ですから。教皇派の修道院に行くかと言われて、みんな改宗してここに来たのよ。義兄様たちや義姉様たちも、自分の母親が改宗した訳だから、スパニア国教会に敵対する人はもう居ないわ」とイザベラ。

エンリは溜息をついて「そういう事かよ」と一言。



大聖堂に戻る時、聖堂の前にある"トレドの泉"というものに出くわした。

エンリはマルコに「ローマにも同じ名前のものがありますよね?」

「似たようなのはユーロ中にありますから」とマルコ皇子。


「聖母が現れたと噂を立てて、巡礼者が押しかけてお布施で潤うという奴ですね」とエンリ。

「けど、同じようなのが至る所に出来て、ワンパターン化すると客が来なくなるのですよ。それで一時、救世主の母親ではなく父親が現れたという話が出たのですが、巡礼者が全然来なかったそうです」とマルコ。

アーサーは「やっぱりオッサンじゃ駄目なんですね?」と言って溜息をつく。


マルコは「今は救世主の妹が現れるという事になっていて、それなりに巡礼者は来ていますよ」

「話、作りまくってますよね?」とニケ。

「いえ、ここは本物です。目撃者の名前も解ってます」とマルコ。

「目撃者ってどんな人なんですか?」とリラ。

「土産物屋ギルドのマスターですよ」とマルコ。

「客集めの当事者じゃん」とタルタがあきれ顔で言った。

「あの・・・」

「作り話感丸出しだな」とカルロ。

「あの・・・」


その声に気付いて、みんなが泉を見ると、泉の水面に女の子が立っていた。

「本当に出たーーーー!」

そう叫ぶ彼らに、女の子は「人を幽霊みたいに言わないでくれません?・・・・って、エンリさんじゃないですか。それにリラさんとファフさん」

エンリは「1500年前の人に知り合いは居ないが」

「2000年前の人は居るけど」とタルタ。


「もしかして前世の・・・異世界のダンジョンで戦った仲間?」

そう真顔で言うエンリに、リラが言った。

「王子様、この人はイギリスで時間転移した時に出会った湖の精さんですよ」

「あー・・・・・」

「人じゃないですけどね。アルフォンスさんがここに井戸を掘って泉にして私の住処にしてくれたんです」と泉の女の子。


「初代王が従えた水の妖精さん。救世主の妹じゃなかったの?」とアーサー。

女の子の姿の水の精は「目撃した人が勘違いしたみたいで」

「まあ、見かけは幼女だからね」とアーサー。



その時、エンリは思い出したように叫んだ。

「そうだ。初代王はこういうのが好みだったんだ。そうだよね?」

エンリは大喜びで泉の精に詰め寄って、言った。

「ファフが初代王の理想の姿で人化した訳なんだが、それをみんな俺の好みだと勘違いして、ロリコン認定されて迷惑してるんだが、あなた、彼が小さい女の子が好みって知ってるよね?」


水の精は困り顔で言った。

「それってアルフォンス様にとって不名誉な事なんですか?」

「いや、その・・・」


そう言ってまごつくエンリを見ると、水の精はエンリの仲間たちに言った。

「皆さん。エンリさんを責めないで下さい。小さい女の子が好みというのは、ただの個性に過ぎません」

「やっぱり王子はロリコン」とその場に居る者は口を揃えてエンリを見る。

エンリは困り顔で「あの、泉の精さん。偽証が犯罪って知ってるよね?」



トレドを後にして、首都の王宮に向かう。

王宮に入り、仲間たちと別れてエンリとリラはイザベラと彼女の部屋へ向かう。

廊下では揉み手と営業スマイルのオッサン達が、次から次へと・・・。

「ようこそエンリ王子」

「ご活躍はかねがね・・・」


「あ、どうも・・・」とエンリは彼等に適当に返事をする。

そしてイザベラに「何だか大臣やら大貴族やらが、やたらお世辞言ってくるんだが」

「相手にしちゃ駄目よ。誰かに優しくすると、王子との仲を誇大宣伝して、そいつと仲の悪い奴に目を付けられるわよ。大貴族なんてみんな叩けば埃まみれなんだから、反対派が嗅ぎ付けて叩きに来るの。すぐズブズブとか言われて巻き添え喰うわよ」とイザベラ。

エンリは溜息をつくと、イザベラに「本当にお前、凄い所で生きて来たんだな」



すると一人の、いかにも大臣といった体の男性が来た。

「エンリ王子、私、スパニア航海局長官です」

うるさそうに追っ払おうとすると、イザベラは言った。

「彼はいいの。私の子飼い」

「そういう事か。けど、どこかで見た覚えが・・・、ってお前、スパニアに併合された時のポルタ総督」

エンリはそう言って、航海局長官に思いきり嫌そうな視線を向ける。


「あの節はお世話に・・・じゃなくてご迷惑をおかけしました」

そう言って揉み手する長官にエンリは「城下の奴等が泣いてたぞ。空気を吸う税だの二本足で立って歩く税だの」

「どうか未来志向で」

そう冷や汗顔で言う長官をエンリは追及。

「それって、デジュンとかいう詐欺師が言った台詞だよな。それまで散々嫌がらせしてた奴等が、国家破綻して援助を求めるために、その言葉使ってすり寄って来る・・・」

「・・・」

「で、事が納まると逆恨みして、ますます攻撃的になるんだよな」


そう言って長官を追撃するエンリにイザベラは言った。

「そのくらいにしてくれないかしら。実は私からも王子にお願いがあるの」

エンリは「まあ、お前のお産に付き合うためにここに来たんだし。それで、お願いって?・・・」



イザベラは単刀直入に言った。

「タルタ海賊団に銀船隊を依頼したいんです」

「銀は東方貿易で使う事になったんじゃ・・・」

そう疑問顔で言うエンリに、イザベラは「宮廷費と軍事費に使う分は必要よ」

「だがなぁ」

「民からの税金で賄うという手もあるのだけれど」

イザベラにそう言われると、エンリは溜息をついて「解ったよ」


そしてエンリは言った。

「けど、これってドレイク海賊団と戦うって事なんだよな?」

イザベラは言った。

「戦いは戦場だけで起る訳じゃないわよ。例えば、デマを撒いて敵を翻弄する。スパニア諜報局の得意技は流言飛語よ」

「つまり、銀を運ぶのが誰かがバレないように・・・って訳だ」とエンリ。



翌日。街で何やら盛り上がっている様子に気付くエンリたち。

彼が仲間たちと街に出ると、号外が乱れ飛んでいた。

曰く「タルタ海賊団が銀船隊に出陣す」


エンリ王子たち唖然。

「盛大にバレてるじゃん」とタルタあきれ顔。

「もしかして、これ、わざと広めた?」とニケもあきれ顔。

「それだけ信頼されてるって事ですよ」とリラが困り顔でフォロー。

エンリも困り顔で「けどなぁ」


すると、一人の怪しげな男性がエンリたちに声をかけた。

「あんた達、賭け事に乗らないか?」

「賭け事って?」と不審顔のジロキチ。

男性はドヤ顔で「今度の銀船隊でタルタ海賊団がドレイク海賊団から銀を守れるか」

「何だそりゃ」とエンリたちはあきれ声。


エンリは不審顔で男性に「それで、今のレートは?」

「ドレイク9にタルタ1」と男性。

「まるっきり不人気じゃん」とタルタは溜息。



向うを見ると、ニケが賭け屋で「ドレイクに金貨20枚」

慌てて止めるエンリとアーサー。

「ニケさん何やってるの? 賭け事が出来ない呪い、まだ有効なんだが」

ニケは「そーだった。この呪い、解除してよ。私の唯一の楽しみなのよ」

「まだそんな事言ってるのかよ」とタルタはあきれ声で・・・。


すると一人のマッチョが声をかけて来た。

「よお、タルタ」

「ドレイク提督」と嬉しそうなタルタ。

ドレイクは「今度の相手はお前らだってな」

タルタは「俺、負けませんから」

「折角胸を貸してやるんだ、全力でぶつかって来い」と言ってドレイクはタルタの肩をポンポンする。


そんな彼等を見て、エンリはあきれ声で呟いた。

「何なんだ、このスポーツ感覚は」


街の人たちがドレイクに気付き、場は一気に盛り上がる。

そして彼らは口々に言った。

「頑張れよ大海賊」

「あんたに全財産賭けてるんだからな」


そんな彼等を見て、エンリはあきれ声で呟いた。

「こいつ等本当にスパニア国民かよ」

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