第102話 捕われの鉄仮面
ルイ王夫妻の招きでフランスを訪問したエンリ王子夫妻と彼の仲間たち。
彼等を歓迎する夜会の後、ルイ王は失踪した。
そしてパリの街を跋扈して立て続けに事件を起こす鉄仮面。
彼を追う銃士隊と衛士隊。彼等に協力するエンリ王子。
だが、追い詰めた鉄仮面の正体が失踪していたルイ王だと判明したとして、エンリ王子は国際問題化を恐れてこの件から手を引き、帰国を決めた。
ポルタに帰還する準備を急ぐエンリにカルロが言った。
「あのさ、王子。別れを言いたい人が居るんだが」
「女か?」
そう問うエンリにカルロは「まあ・・・」
「金は貸さないぞ」とエンリ。
「何でそうなる」とカルロ。
エンリは「風俗の女だろ」
「そうだけどさ、ちゃんとした恋人だ」とカルロ。
タルタとジロキチがカルロに「お前、釣ってない魚にだけ餌をやるんじゃなかったっけ?」
「いいだろ、俺だってたまには。何なら紹介してやる」
「要らないよ。どうせ自慢したいだけだろ」
「いいから来い。他の女の子も居る」
そんな彼らにエンリは「行って来い。いつまでも恋人が動物と無機物って訳にはいかんだろ」
「動物言うな」とタルタは口を尖らせる。
「無機物言うな」とジロキチは口を尖らせる。
カルロはルイズの居る店にタルタとジロキチを連れて入った。
店の戸口を通りながらタルタは「猫は居ないのかよ」
「居るかよ」とカルロ。
入って来る三人を見てルイズが「いらっしゃい、カルロさん」
カルロは「実は明日、帰国する事になって、お別れついでに友達を連れて来たんだ」
タルタたち三人と、ルイズと店の女の子で、ボックスに陣取ってわいわいやる。
タルタの隣に座った女の子が「タルタさんはこういう店には来るんですか?」
タルタは「よく来るぞ」
「猫カフェだろ」とジロキチ。
「いーだろ」
そう言って口を尖らせるタルタに、女の子が「猫、可愛いですよね。私、飼ってるんです」
タルタは思わず身を乗り出して「俺も飼いたいんだが、船乗りで一か月は家を空けるからなぁ」
女の子は興味津々そうな顔で「冒険とかするんですか?」
ジロキチの隣に座った女の子が、彼の刀を見て「ジロキチさんは剣士さんですか?」
タルタが「こいつのは曲芸」
「曲芸じゃなくて四刀流だ」と言ってジロキチは口を尖らせる。
すると女の子が「見たい。綱渡りとかするんでいよね」
「あんなの目じゃないぞ」と言ってドヤ顔のジロキチ。
何時になく盛り上がるボックスの男女。
隣のボックスにも客が居て、話声が漏れ聞こえる。
「そのサムライがさ、四刀流とか言って、やってる事が剣術っていうよりほぼ曲芸。笑っちゃうだろ」
そんな隣の客の言葉にタルタは「おいジロキチ、お前の事じゃないのか?」
更に「もう一人が、鉄化とか言ってどんな攻撃も跳ね返すってんだが、関節も固まって動けないのな。笑っちゃうだろ」
そんな隣の客の言葉にジロキチは「おいタルタ、お前の事じゃないのか?」
カチンときたタルタとジロキチ。
「馬鹿にすんな」と言って隣のボックスを見ると、鉄仮面が怪盗ルパンと、女の子たちを相手に盛り上がっていた。
「お前は鉄仮面。ここで会ったが百年目」と叫ぶタルタとジロキチ。
「返り討ちにしてやる」と叫ぶ鉄仮面。
腕まくりする三人。悲鳴を上げる女の子。
その時、鉄仮面の後頭部をルパンが、タルタとジロキチの後頭部をカルロが、思いきり殴った。
二人は声を揃えて「女の子の居る所で暴れるんじゃない!」
そんな彼等にルイズが言った。
「あの、仲良くしません? ここはそういうお店ですから」
五人の男性と女の子たちでわいわいやる中、カルロがそっと念話でアーサーに連絡し、ルイズはコンスタンツに連絡して銃士隊を呼んだ。
店の前で鉢合わせたエンリたちと銃士隊。
アトスが「ここに鉄仮面が居ると聞いたが」
アーサーが「それと怪盗ルパンも居ると」
「あの二人、グルだったのかな?」とエンリ。
「とにかく乗り込んで確保だ」とアラミス。
一緒に店に乗り込むエンリたちと銃士隊。
「鉄仮面、逮捕だ」そう叫ぶアトスを見て鉄仮面は慌てた。
そして「ルパン、逃げるぞ・・・ってルパンは?」
消えたルパンは一枚のカードを残していた。
カードに曰く「そろそろその体、持ち主に返してやったらどーよ」
その時、タルタが鉄仮面の腕を掴むとそのまま鉄化。
そして「これなら逃げられないよな」
鉄仮面は捕縛され、銃士隊の詰め所に連行された。
詰め所で手足を縛られた鉄仮面をアトスが尋問する。
「あなたはルイ陛下ですね?」
鉄仮面は「世は国王なるぞ。頭が高い」
「じゃなくて、何でこんな事を・・・」とアトス。
「お前も解るだろ。女に酷い目にあって女性不信だもんな」と鉄仮面。
アトスは困り顔で「あんた同性愛者だろーが」
「そうだよ。お前に捨てられて傷ついた」と鉄仮面は芝居がかった涙声で・・・。
アトスは頭痛顔で「そういう冗談は止めて下さい」
「冗談なものか。あの夜の事は一生忘れない」と鉄仮面はわざとらしく感情を込めた声で・・・・
するとダルタニアンが言った。
「アトスってホモだったの?」
ポルタスも「女性不信ってそういう事か?」
アトスは慌てて「違う。鉄仮面の言う事を真に受けるんじゃない!」
ポルタスが尋問する。
「何でこんな事を」
「ポルタスよ。世間の常識に惑わされてはいけない」と鉄仮面。
「そういうのは要らないです」
そう言うポルタスの困り顔を意に介さず、鉄仮面は続ける。
「真実を知るため、山に籠って修行を続けた」
「何時の話ですか? ってか修行って・・・」とポルタス。
「毎日腕立て伏せ千回、スクワット千回」と鉄仮面。
ポルタスは思わず身を乗り出して「陛下も筋トレを?」
「人は限界を超えると神の世界を見る」とドヤ顔の鉄仮面。
「解ります」とポルタスは嬉しそうに言う。
鉄仮面は「今の俺の上腕二頭筋はお前に負けない。見たいか?」
「是非」とポルタス。
「縄を外してくれ」と鉄仮面。
「解りました」
そう言って鉄仮面の縄を解こうとするポルタスの後頭部を、アトスは思い切り殴って言った。
「何、信じてるんだよ」
アラミスが尋問する。
「アラミスよ」と鉄仮面。
「はい」
そう警戒顔で答えるアラミスに、鉄仮面は言った。
「男所帯で紅一点も大変だよな?」
アラミスは困り顔で「どこぞのアニメの設定でどうなってるかは知りませんが、私は男です」
「浜茶屋の親父は達者か?」と鉄仮面。
「男として育てられた訳でもありませんから」とアラミス。
鉄仮面は「性別の壁を越えるのは大変だが、頑張って体を鍛えろ」
アラミスはイライラ顔で「だから違うって」
「アンヌを護衛して闘った時はコテンパンだったよな?」と鉄仮面ドヤ顔。
「うぐぅ」
「赤子の手を捻るとはまさにこの事」と鉄仮面は楽しそうに・・・。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ」
横で聞いていたアトスとポルタスは、あきれ顔で「自慢かよ」
だがアラミスは、打ちひしがれた表情で言った。
「アトス、後を頼む。俺は三年ほど山に籠る」
「しっかりしろよアラミス」とアトスは困り顔でアラミスの肩を揺すった。
そこにアンヌ王妃とリシュリューが来た。
アンヌは椅子に縛られている鉄仮面を見て、心配そうに言う。
「陛下、何と変わり果てた姿に」
だが鉄仮面は、そんなアンヌ王妃に、能天気な口調で「お姉さん美人だね。今度お茶しない?」
リシュリューは困り顔で「完全に乱心していますね」
「何かに憑りつかれているのでは」とアーサー。
「アーサー、何か解るか?」とエンリ王子。
アーサーは鑑定の魔道具で鉄仮面を観察するが「鑑定出来ない部分が多いです」
リラが「マーリンさんなら、どうでしょうか?」
「そういえばあの人、最近姿見てないよね」とタルタ。
「夜会で最後に陛下と話していたのも彼女よね?」とニケ。
エンリは思い出したように言った。
「そうだよ。それで俺に嫌疑が来たんだよ」
カルロが「その、陛下と一緒に居たのはマーリンだけ?」
「ポンパドール夫人も一緒に居たと聞いています」とコンスタンツ。
念話でポンパドール夫人に連絡するコンスタンツ。
ポンパドール夫人は、その念話に答えた。
「ルイ陛下ならここに居ますわよ。マーリンさんも一緒に。三人でパリのホストクラブに来て、陛下がここの男性を気に入っちゃって、帰りたくないと仰るものだから」
話を聞いて全員唖然。
ルイ王は王宮に帰還し、鉄仮面を見て、言った。
「お前、フィリップだろ」
「陛下、この人って・・・」
そう疑問顔で問うエンリに、ルイ王は言った。
「俺の双子の弟の、オルレアン公フィリップだよ」




