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キノは〜ふ! Return  作者: 七月 夏喜
第1話 キノとマコとおんなキノと
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その9

「もしもし、きっ、キノちゃん?」

 スマホから聞こえてきたのは、懐かしくも聞き慣れた千秋の声だった。

「どうしてる? 元気?」

 少し畏まっている口調だ。

「……千秋か」

 ベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見つめている。今は彼女の声も遠くに聞こえている感じだった。

「この間、マコさんと逢ったのよ」

 電話の向こう側は、最初の緊張が解けてきたようで、次第に声の張りや抑揚が違ってきている。

「そうか、千秋と逢ってたのか……」

「聞かなかった? どうしたの、元気なさそう」

 彼女の心配気な声が、キノを我に返させた。

「ご、ごめん。今、なんだか調子が悪くて……」

 ようやくキノは起きあがって、椅子に腰掛ける。

「それは、大変。もう切るよ」

「千秋。マコと逢ってた時、彼女、何か言ってた?」

 キノのスマホを持つ手に力がこもる。

「もしかして、夫婦喧嘩?」

「そ、そんなこと、ないよ。ない」

 キノは何故か必死に否定する。電話向こうの千秋は、色々想像していることだろう。

「別に普通だったよ。今までと同じ。キノちゃんこそ、変なこと考えてたんじゃない?」

「なんだよ、それ」

 笑い声が聞こえてきた。キノは今、自分の気持ちが軽くなっていることに気づく。

「有名なパティシェのいるケーキ屋にいって、今の生活聞いてね。マコさん、凄く嬉しそうだった。本当に妬けちゃうくらいキノちゃんに、ベタ惚れなんだね」

「そ、そう」

 今自分の顔を鏡で見たら、顔中が真っ赤になっていることだろう。

「キノちゃん。私、あなたに一番勇気つけてもらった。ちょっと乱暴なこともあるけど、それは男子だからね。でも、私、そんなキノちゃんが好きなの。姿や気持ちがどうなっても、一緒。今話をしていて、私にはいつものキノちゃんだと思った」

 千秋の言葉のひとつひとつが、キノの心には優しく滲み入っていた。

「正直、この電話するの凄く怖かった。なんて言うか、話をするまで男子のキノちゃんに、ちょっと引いてた。でも今は抱きつきたいくらい逢いたくなちゃった。おんなでもおとこでも。最強で最高の、私たち仲間だもん」

 電話越しに伝えられる、千秋の言葉に今のモヤモヤしている考えが、洗われていく感情を持つ。癒やされている。

「千秋、僕は変わらないよ。あの頃と同じだ」

「そうよ」

「ありがとう、千秋。僕も千秋が好きだ」

「レイズ王子から言われると、萌える」

 きっと、はにかんでいるに違いない。キノはクスリと笑った。



 わぁと声がして、扉が大きく開く。

「キノー!」

 マコが飛び込んで来た。体当たりに近い状態でキノの懐に入る。体ごと椅子から落ち、スマホが何処かに飛んでいった。

「ごめんね、ごめんね、ごめんね」

 キノが抱き留めていると、彼女は両手を大きく回して強く抱き締める。

「ど、どうした」

「私、嫌な女でしょ。キノの困ることばかり、言って」

「そんな……」

 腫れ上がったマコの顔を見ると、相当泣いていたのが伺えた。キノは言葉に詰まる。

「叱ってよ、キノ」


 キノはマコの頬を両手で、優しく包んだ。親指で瞳に残る滴を拭う。

「もっと、キノのわがままを聞かせて、私を困らせて」

 マコは体を押しつけた。彼女の淡い薄桃色の小さな唇が、何かを待っている。

「マコ、僕、決めたよ。おとこもおんなも関係ない。気持ちが大切なんだ」

 彼女は頷いた。

「僕はずっと、マコが好き」

「私も」

 瞳の中に互いの表情が映っている。

「だから、僕らは絶対離れない。どんなことがあっても」

 キノはマコを抱き上げて、ベッドに乗せる。

「……何をする気」



 転がっているスマホの画面は、まだ点灯していた。

「もし、もーし!!」

 二人に伝わらない声が、ベッドの下で騒いでいる。

「何してる一! 聞こえてるぞー! おい、こらー! キノマコー!!」


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