その6
「キマ、アイス食べよ」
宮島は何処かに行って姿が見えない。マコは自転車で巡業している老婆から、二つアイスを買った。そのアイスはシャーベット状になったメロン味で、とても冷えていて甘い。二人はベンチに揃って座った。
「冷たくて、おいしい!」
一口食べたキマは驚嘆する。マコもこめかみを指で叩きながら、冷たさを表現した。互いに顔を見合わせ、微笑み合う。辺りはアブラ蝉やクマ蝉が鳴き溢れ、強い日差しが盛夏を物語っていた。足元の蟻があちこち物色の旅を続けている。
「暑いね。夏ってこんなに暑かったっけ。ずっとエアコンのある生活だからなあ」
日差しを浴びて目を細目に閉じながらマコは呟いた。やがてその顔は静かに、ある一点を見つめる。
「キマ」
「なあに、ママ」
滴り落ちていく溶けたアイスを舌で嘗めながら彼女は答えた。アイスは指に達していく。
「そろそろ、いいんじゃない。教えてくれても」
マコはずっと前を見ていた。
「あなたが、私たちの前に現れたこと」
キマの溶けたアイスへの対処行動が止まる。
「キノは突然、あなたの体に変わった」
ベンチの前を子供が走って通り過ぎていく。
「でも今にみたいに、性格までではなかった。あなたが今の自分を取り戻すには、そんなに難しいことじゃなかったように思える。もちろん変化するにはキノの想いが必要。本当に変化するなら、奇跡をキノが起こせるなら、戻ることも出来るはず」
溶けたアイスがキマの指に伝う。
「でもそれ以上に、あなたの想いが、かなり重要だと思うの。でも何のためにキノがあなたに変わったの。今日『おんなキノ』が私たちの娘だとわかった。キマ、あなた、何のためにここに来たの」
問い詰めるマコにキマは一層、顔を曇らせた。暑いのにそこだけ冷えた空気が立ちこめているくらい、彼女の顔が沈んだ。
「……ママ、あのね、私ね」