その5
「おっ! 鈴美麗さんじゃないか!」
大きな体格の良い男が買い物かごを片手に声を掛けてきた。大男はキマのもとにずんずん歩いてくる。振り向いたキマは、迫ってくる熊のような姿に驚いて跳び上がった。
「ひっ! だ、誰!?」
町内青年団の団長である。マコは知らないが、キノが知っている人物だ。
「おお!! この方が君の麗しき人だな!」
マコは男から握手を求められる。否応がなしに、大きな手掌できつく握られた。
「鈴美麗さんの力と技、度量の凄さは完服の一言です。久々に男気のいいものを見せて頂きました!」
豪快に男は笑い飛ばす。きっと花火の時にキノと何らかの接触のあった人物であろう、とマコは察した。キマは細い足をガクガク震わせながら、マコの後ろに隠れて身構える。
「早く出て、挨拶しなさい。パパの友達よ」
背中から押し出されて、大男の前に押し出された。
「鈴美麗さん。あなたには、色々教えて欲しいこともある」
団長はキマの手も同じ様に握り込む。身体の割に小さい顔が近づいた。顔を引き攣らせながら、体を反らしてキマは堪える。
「あなたが男だったら、もっと凄い輩なんだな。困難があっても決してあきらめない。やり遂げる力がある。俺はそんな人物を、心底尊敬する」
キマはキノの行動を知った。
「……ママのために、パパがやったこと」
「あなたは本当に凄いよ。あんなことを、彼女に言ってしまうなんて」
キマはマコの方を振り向く。
「花火大会の放送スピーカーを使って、言っちゃたのね」
ちょっと顔を赤くして答えた。
「『僕の女に手を出すな』って言ったよね、紀乃さん」
バツが悪そうな顔をして、宮島は言う。
「あの時、紀乃さんは真琴さんのことを、すごく大切にしてるんだって、わかったよ」
「パパ……」
キマは呟いた。
「あの放送で、オレは真琴さんに頭突き喰らったんだから」
鼻を押さえる。
「はいはい、もういいから。お買い物よ、お買い物」
紅潮してるマコは話を打ち切るために手を叩いた。マコは宮島と笑いながら歩いていく。
キマの手は震えていた。その後ろ姿を見ながら口を言葉が突く。
「パパ、ママをこんなにも、愛してるんだよね……」
「キノー、何してるの行くよー」
マコが笑顔で振り向いて声を掛けた。キマは笑った顔をしたかったが、歪んだ表情しか出来なかった。