その8
その夜、キノは塞ぎ込むように、帰宅してから部屋にいる。
「今度は、キノ様……」
互いの問題とはわかりつつも、どうしても亜紀那は心配せずにはいられなかった。
「マコ様」
平素を装っているであろう夕食の支度をしているマコに尋ねる。
「近頃、お二人は心配事がおありですか」
テーブルに食器を並べ、マコは支度を続けていた。キノの食器に手が掛かり、指が動かなくなる。一点を見つめる彼女を亜紀那は注視していた。
「あまり、……大丈夫ではないかも知れません」
少し目を見開いて、髪に隠れるマコの表情を見る。彼女が弱音を吐くことなんて、今までなかったからだ。
「マコ様、もうお止め下さい」
震え出したその手を、亜紀那は無理に取る。
「どうしたのですか、マコ様らしくない」
「もう、キノとは……」
亜紀那はマコの肩を持った。俯く彼女の目尻には涙が溜まっている。堪える唇は震えていた。
「マコ様……、何があったのです」
「私、あの子に酷いことばかり……」
マコは声を上げて、泣き崩れる。
「……傷つけてばかりで、全然、支えてないの」
途端に、マコは亜紀那にしがみついた。彼女の胸にマコは顔を押しつける。
「マコ様……」
亜紀那はマコを抱きしめた。嗚咽が室内に響く。
「泣いてもいいのですよ。泣きなさい、マコ様」
そのままマコの頭を優しく、撫でた。
火に掛けていたやかんが音を鳴らして室内に響いている。
ふと亜紀那はキノの部屋の方を見つめた。