その2
「よく見れば、あなたの身体なのね、これは」
マコは改めて娘の姿を見つめる。
そうなのだ。美しくも可憐な容姿が本当に似合うのは、この愛くるしいキマなのだ。これが本来の魅力的な彼女の姿なのだ。
柔らかい顔に手を当てた。キマは恥ずかしそうに、その手に頬に乗せる。
「わかんない。でも、ママに逢えて嬉しい」
「やっぱり、ママって言われてもねぇ」
この年齢でそう言われても、マコは調子が狂う。溜め息をつくとキマが不思議な顔で見つめた。愛想笑いをマコが見せると、キマも喜んで微笑みを返す。
「でもどうしてキノが、未来のあなたの身体と入れ替わった? そもそも未来の子がどうして、ここに来たの?」
その言葉に顔を歪めてキマは俯いた。しかしすぐに笑顔を取り戻す。取り繕うかのようにマコの手を取って細い指を絡めた。
「わかんない」
マコは再び溜め息をつく。疲れたようにベッドに横たわると、キマもすぐに同じことをした。マコはじっとその姿を見ている。
「……キノ」
「パパじゃないよ、キマだよ」
彼女の瞳が輝き、声を掛けてもらいたいその笑顔は、凄く許せる。
「キマは、花宗院とか知ってる?」
「おじいちゃんのとこでしょ。何でも買ってくれるの。小さい頃、海水浴用の無人島買ったみたい」
当たり前だが、父親がおじいちゃんと呼ばれている事にマコは苦笑した。また島を買い上げるなど、大介らしい行動だ。やはり孫には弱いと言うことだろう。
「お世話係の亜紀那さんとフェイルさんって、まだいるの?」
キマは少し考えて、手を叩いた。
「その人たちパパから聞いたことある。私が三歳の時に結婚して出ていった」
わかっているとは言え、少し寂しくなった。キマの世界の中の現実は、やはりそこにはあるのだ。
「ねえ、キマ。あなたって、今幾つなの?」
彼女はマコの手を取った。マコの動きが一瞬止まる。その手は力強かった。今のキマの感情を表しているようだ。
「キマ、痛いよ」
気がついたように、手をすぐに離す。
「ママと同じくらい」
「私と?」
「この歳じゃないと、来れない気がしてた」
マコはキマの不可解な答えに戸惑った。
「何の話なの」
「何でもない……」
そう言うと、キマは立ち上がる。クリーム色の細長い髪に白い肌の四肢が長い姿態は、この上なく美しい。それが自分たちの子供だったとは、なんとも想像しにくい。マコはじっと、ベッドから出た彼女の後ろ姿を見ていた。それだけではキノなのかキマなのかわからない。だが、心なしか寂しげな女性的雰囲気を感じさせるのはキマだからだ。
「ママ、お腹すいたね」
手をお腹に当てていた。
「何か、あったかな」
彼女は冷蔵庫の中身が、つまみと酒類しかないことを思い出す。しかも明日帰ってしまうから食材も買い足していなかった。
「どうしよう。キマ、お買い物行く?」
キマは振り返って、童心のように瞳を輝かせる。そしてマコに飛びつかんばかりに跳ねた。
「行く。ママと一緒に行く」
その無邪気な仕草をマコは愛しく思えていた。