その6
「マコさん、前よりもずっと可愛く、綺麗になってた」
千秋は、『石井 睦』を前に話し始めた。
「人妻になって、色気が出てきたのかな。愛情一杯?」
二人は顔を赤くして含み笑をする。
「何話したの?」
「そうね、色々。最近の向こうの高校のこととか。鈴美麗家の生活こととか」
石井は興味津々で聞いていた。
「うん、うん。それで、夫婦生活の方は?」
千秋は石井の顔を凝視した直後に、手を上げる。
「夜の営みまでは、さすがに、申し訳ない」
千秋の肩を叩きながら、石井の顔が赤くなった。
「ち、ちょっと、勘違い、勘違い。そんなことじゃなくて普通に2人の日常生活のこと」
二人は妙に騒ぎ出す。石井は小声で言った。
「でも、マコさん。その事については」
「ノーコメントだった」
昼休みの教室の二人は、異様な雰囲気に包まれている。
「やっぱり、二人が夫婦だなんて、今考えても凄い」
「キノちゃんは?」
千秋の動きが止まった。
「会わなかった。というか、会うのを今回はやめた」
彼女の声が幾分か、小さくなる。
「そっ、か……」
「ねえ、睦さん」
石井は、千秋の前に向き直った。
「あなた会える、キノちゃんに」
彼女の声は更に低くなる。
「私は……、会えると思うよ。だって、好きだったんだもん。男らしいキノちゃんが。それがもう、そのものなんて」
石井の目が煌めいた。
「そう言えば、そうだったね、睦さんは。私としてはレイズ王子そのものか」
二人は神妙な顔つきになる。
「会ってみる?」
石井は問いかけた。
「どうしよう。でも、先に延ばしても状況は変わらないか」
千秋は腕を組んで、唸る。
「男共は、どうする」
二人は、如月と海原を探した。如月はいないが、海原がいる。どうやら二人の大騒ぎが気になっていたようだ。彼は地獄耳である。海原は石井と目が合うと、机を揺らした。
「まあ、しょうがないから、連れていってやるか」
彼女は海原が顔を赤くして、はにかんでいるのを見て、そう呟く。
「今日、マコさんに連絡取ってみる」
千秋は答えた。
「本田さん、キノちゃんに直に連絡してみたら?」
「え」
彼女は一瞬、躊躇した。
「王子に、コールよ」
親指を立てて石井は微笑む。
「そうだね。そうしてみよう、かな」