表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キノは〜ふ! Return  作者: 七月 夏喜
第4話 キノとマコと花火大会(前編)
57/87

その6


「何、真琴と連絡が取れない?」

 花宗院大介は移動するリムジンの中で、初老の執事から聞かされた。

「三月亜紀那殿の返答では、一週間の休暇を全員に紀乃様がお与えになっていると」

「全員同時に、一週間もか」

 大介は足を組み直して呟く。

「まさか、紀乃クンは私との約束を忘れてはいないだろうな」

 真向かいの執事は手帳を閉じて訊ねる。

「何か、紀乃様と?」

「二人とも正式な夫婦とは言え、まだまだ未熟。そういう約束だ」

 足を組み直した。

「お二人とももう十八歳で、今は成人の枠。何事もご自身たちで決定出来る年齢でございます。ましてや鈴美麗家とは表裏一体の仲、心配は無かろうと思いますが」

 大介が鼻から上だけ分のスモークガラスを開けると、熱気が車内に入り込む。

「そう言うことでは無く……」

 執事は沈黙で見守った。

「真琴、折角花火でも見に行こうと思ったのに」


 胸からの携帯の着信音が、男を感傷から引き戻す。

「何だ、綾子」

「大介さん。あなた、紀乃ちゃんと真琴の邪魔してないでしょうね」

 真意を突かれて、思わず妙な挙動で電話を落としそうになった。

「ば、バカな事を言うな。私は仕事で忙しい身だ」

 大介は手払いする。執事はプライベート空間を作るため、車内カーテンを中央で締めて席を百八十度回転させた。

「それ本当? あなたのところ人たちが真琴を探しているようだけど」

 もう一度、大介は電話を落としそうになるが、両手でしかりと持ち続ける。

「莫迦者、私はそんな暇な男ではないぞ。世界のビジネス王の……」

「いいから。あなたが心配する気持ちはわかるけど、二人はもう大人よ。あの子たちはの将来は自分たちで決めれるわ」

「あ、綾子。私は心配なぞ」

 声が震えている。

 娘を持つ男親は、とにかく心配したがるのが性分である。

「もしも二人が花宗院との約束が守れなくても、それは自分たちで責任を取るだけ」

「お、おい……」

 大介は綾子の言葉に狼狽えた。正直なところ、マコを嫁に出したくなかった。もう少し、自分の娘として成長を見ておきたかったのだ。鈴美麗家と花宗院との間にある約束を交わさせたのも、実はまだ離したくないという裏返しの考えであった。それが花宗院との間をつなぎ止める理由にしたかっただけなのだ。

「大介さん。くれぐれも真琴の決めた通りにさせて。邪魔しないように」

「いい加減にしろ」

 自分の考えが既に見透かされ過ぎている事を隠すため、通話を強引に切った。


「全く……。私だってわかってるさ。しかし、男には男のけじめってもんがあるだろ」

 大介は怒って呟きながら、それでも寂しさを噛みしめる。カーテンが少し開いた。

「旦那様、お約束のお時間ですが、向かってもよろしいでしょうか?」

「平井」

 隙間から初老の執事は様子を伺う。

「おまえの孫は、幾つになった」

「来年、小学生に上がります」

 カーテンをゆっくり開けた。窓の外を見ている大介に声を掛ける。

「孫は、可愛いものですよ」

 平井は暫し、仕事を忘れたかのように目を細くして想いを馳せていた。

「娘よりもか」

「旦那様。娘は自分の子、孫は娘たちの子。比べることが、いけません」

 平井は年長の功で大介を悟す。一流グループの頂点に立つ大介も、こんなことは平井ぐらいにしか聞けない。

「自分の子ではないが、血は通っている。全く他人ではありませんがな。そこがいじらしい」

 素直に大介は頷いた。孫が出来ること自体を否定している訳ではない。嬉しい反面、淋しさも入り交じっていた。そう、娘でなく母親になってしまうことに。

「真琴様も旦那様のことを気遣っておいでですよ」

 平井は半場、大介を宥めるように囁く。

「連絡が取れんのが……」

 無言となり、開けたスモークガラスの隙間から通り過ぎていく景色を見続けていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ