↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キノは〜ふ! Return  作者: 七月 夏喜
第4話 キノとマコと花火大会(前編)
PR
52/87

その1

1

 クーラーの効いた涼しげな書店内では、ちょっとした熱気が一部に発生していた。その場所には、赤いメガネを掛けてTシャツとショートパンツで身を固めている。クリーム色の長い髪を三つ編みにした者がいた。あるコーナーでずっと雑誌を読み漁っている。その時間はもう三十分近くになっていた。周囲に脇目もくれず、考え込んだり、頷いたりしている。

「あれ、女の子ですよ。ずっとあの場所にいますけど」

「ホントだ。そんなに興味をそそるものがあるだね」

 店長と店員はカウンター越しに、そのおさげの者を見つめていた。

「けど、あの場所は、確か男性コーナーですよ」

 隣に並んで立っている中年男性が、隣の挙動を少し気にしている。

「ちょっと、気になるので見てきます」

「おい、おい、やめとけ。お客様に失礼だぞ」

 店員は振り向いて上目遣いに見つめた。

「でも店長、気になりません? あんな可愛い娘が何を見ているのかなぁ、って」

 店長は一瞬、レジの店員を見る。そして、そのおさげ娘の方を振り返った。

「俺が行く」

 カウンターから出た。

「店長、ズルいですよ!」

 男はその声も聞かない。立ち読みされた本を整頓しながら、おさげの娘に近づいていった。

「肌が透き通る様に白い……」

 間近に見るその横顔に、男はつい見とれてしまう。

「こんな綺麗な女の子がいるのか」

 しかしその娘は気がつかない。店長は暫し見とれた後、本を確認した。

『トルガ 夏号』だ。

 恋愛と性事情などを得意とする、比較的若い男性向けの情報雑誌である。今号の特集は『夏休みに向けてのイベント作りのノウハウ』だ。イベントというのは、女の子と付き合うことのみでなく、言わずもがな『最終攻略』である。

「何故、彼女が?」

 店長は喉を鳴らした。整頓する手が緊張する。

「つまり……、男」

 中腰のまま、あれこれ想像する男の手が留まっていた。

「いやいやいやいやいや」

 妄想を振り切るように、激しく頭を振りながらカウンターを見ると、店員が手で合図をしている。背後から若い男性客が雑誌を取ろうとしていた。慌てて腰を上げる。その手を避けようと横に向いた際、思わず白い華奢な腕に当たってしまった。雑誌がこれまた細い足首の側に落ちる。手を出す前に、若い男が拾い上げた。

「落ちたよ」

 若い男には見慣れた特集記事の表紙を見る。一瞥して渡そうとした顔が硬直する。店長にはその意味が優に想像出来た。

「ひょっとして、君が読んでた?」

 手渡しそうとする男はその相手の表情を見て、再び固まる。ばつが悪そうに真っ赤になったへの字口は、欲情をそそるに十分だったからだ。

「ま、まあ。年頃の女の子も、男の気持ちも気になるよね」

 吸い付いた男の視線がその容姿から外すことが出来ない。

 への字口の唇が元に戻り、仕方なく手を出そうと細い指が動いた時。

「何なら、俺が手取り足取り、教えてあげよっか」

 指尖が止まり、眉が怪訝で困ったように動いた。


「お、お客様! お探し物は見つかりましたか!」

 中腰から背伸びをして、間に割り込む。そして雑誌を店長は無造作に取り上げた。ひとつ咳払いをして、その雑誌を元の場所に何事も無かったかのように戻す。

「これは俺じゃなくて、そっちの女の子」

「失礼しました」

 と問答をしている時に、微かに風がエアコンとは違う方向に流れ、隣の移動の気配を感じる。ほのかにジャスミンの香りが鼻をくすぐった。


「ちょっと、邪魔」

 店長の体の隙間からクリーム色の髪が揺らいでいる。そしてそれは棚の向こう側に消えた。背後を確認するまでもなく、店長はうら若き乙女の貞操を守ったかの如く、胸を撫で下ろす。


 カウンターの店員はそれを見届けた後、おさげ髪の娘を目で探すが、辺りには気配が無かった。

「あ―あ、出て行っちゃたか」


 蝉の大合唱の店の外で、白い肌の持ち主は拳を膨よかな胸のところまで持ち上げて、口を真一文字に結んでいる。


「夏は二人だけで!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。