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キノは〜ふ! Return  作者: 七月 夏喜
第3話 キノと芦川と偽りの恋人(後編)
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その12


「おい、何だ。こいつピンピンしてるじゃないか」

「いてててて!!」

 何者かに掴まれて、佐野が立っていた。

「誰だ」

 表情を硬くして北川は声を上げる。

「単なる、通行人です。路上パフォーマンスやってるとかで、覗いてみただけです」

「芦川さん!」

 彼女は思わず叫んだ。

「あれれ? 琴葉さんじゃないですか。こんなところで奇遇ですね」

 わざとらしい程の登場台詞だ。

「あんた、彼女の知り合いの人?」

「いや、正確にはまだ知人と言える程では、無いような……」

 首を傾げながら口籠もる。北川は細目に凄味を効かせて睨みつけた。圧倒される芦川はそれを避けて、琴葉に目を合わす。

「芦川さん、あなたには関係ないから行って」

 その言葉とは裏腹に戦く表情は気の強さだけだ。

「はい、そうですか。て言うと思う?」

 芦川は側にいた佐野を足で蹴り飛ばした。佐野は北川の足元まで蹌踉よろめく。

「これで俺も、関係することになりましたね」

「あ、あなた……」

 突拍子もない行動に唖然とした顔を見せた琴葉は、体を硬直させる。

「関係ねえてめえは、引っ込んでろ!!」

 叫んだと同時に芦川に殴り掛かって来た。その拳を避けたように見えたが、喰らっている。

「芦川さん!」

 琴葉の声が悲鳴を上げた。足元をふらつかせた男は壁に当たる。

「つぅ」

後頭部を激しく打ったために、眉間に皺が寄った。

「ちぇ、いい気になるなよ!」

 佐野は道路に唾を吐く。

「あなたたち、暴力奮ってるじゃない!」

 思わず琴葉は佐野を睨みつける。

「何言ってんの、あいつが勝手に転んだよ」

「転んだ?」

 と勢いで一歩出たところで、腕を男に掴まれる。

「離して!」

「ちゃんと、話を聞いて下さいよ」

 もう一人の北川は彼女の耳元で低い声を出して囁いた。

「彼氏が怪我しないうちに、大人しくしてもらえないですか。じゃないと、うちの職員、もう一人とんでもない奴がいるんですけど」

「脅かしてるの!?」

 今度は北川を睨み返す。

「あんた、やっかいな人だね。どんだけ気が強いの。損するよ。気が強いだけで相当みんなに迷惑かけてんじゃない?」

 琴葉の気持ちを見透かしているように、その言葉は揺るがし続ける。

「私は、一人で何でも出来るはず。それでいいのに……」

 抵抗する力が、彼女の気持ちとともに弱くなった。


「な、何してるの、こ、琴葉さん。か、帰るよ」

「あ、芦川さん。あなた、どうして」

 さっきまで、壁にいた男が立ち上がっていた。

「琴葉さん。君には本当に、済まないことをしたと思っている。ちゃんと、合って話をしたかったんだ」

 口元につている血を手で拭き取って呟く。

「こ、こいつ……」

 佐野は驚くと同時にもう一発、芦川の腹部に蹴りをを入れた。呻き声を上げながら、再び同じ場所に転倒する。ようやく余裕の顔を男は見せた。

「もう、やめて!」

 琴葉は身体を大きく揺さぶって、男の手を歯で噛んで振り解く。

「いでで!!」


「芦川さん!」

 芦川の元に駆け寄る。抱き起こされだ男は痛みを堪えながら笑い顔を浮かべた。

「格好悪いなあ。せっかく君に会えたのに、こんな無様な姿で」

 眉間の縦皺が消えない。

「まったく……、何、やってるんですか……」

 それまでの彼女の態度が、安心と安堵の表情に変化した。

「おい、おい。何なんだ、こいつら二人とも?」

 少々苛つきながら北川がぼやく。

「勝手に盛り上がってんじゃねえよ!!」

 佐野はよほど逃げられたのが悔しかったのか、大きな声で叫んだ。二人に近寄って、目の前でポケットから鋭利な光る刃物を取り出す。

「この野郎!」

「危ない! 琴葉さん、下がって!」

 芦川は琴葉の体を手で払い退けた。

「痛ぅ!」

 右手の甲が一直線に切れる。血飛沫が彼女の頬に飛んできた。しゃがみ込んだ琴葉の体を赤くなった手はなおも守っている。

「どうしたあよ、この野郎!!」

「やめろ、佐野!」

 北川は叫ぶが我を忘れている男は、ナイフの刃先を琴葉に向けた。

「いや!」


 叫んで目を閉じた瞬間、風で髪が激しく乱れる。ジャスミンの香りが鼻をくすぐった直後、耳に鈍い音が聞こえた。

 そして辺りは静かになり、薄く目を開くと彼女は驚く。先程の男が顔を地面に張り付けて、口からだらし無く流涎しながらうつぶせに倒れていたのだ。

「な、何が起こった?」


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